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人口1300人のまち・中川町で過ごした10泊11日が、札幌で暮らす大学生の私に気づかせてくれた大事なこと

  • 2023.11.12

こんにちは、Sitakke学生ライターの「みこと」です。

突然ですが、みなさんは道北にある、豊かな自然に恵まれたまち・中川町をご存じでしょうか?

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北海道・中川町(GoogleMapより)

中川町は、札幌から車で約4時間、旭川からは約2時間30分のところにある、人口約1300人の小さなまち。

雄大な天塩川が流れるこのまちは、土地のほとんどが森林で、野生動物を見かけることも珍しくありません。

私は、そんな自然いっぱいの中川町で行われたインターンシップに、夏休みを利用して札幌から参加しました。

10泊11日のインターンシップでは、学生に向けた観光ツアー案を作成する活動を日中に取り組み、夜には星の見えるバー「星屑bar」の運営スタッフとして働きながら過ごしました。

「星屑bar」の会場は、町内の温泉施設の2階バルコニー。地元食材を使った料理やドリンクを提供することで、まちの観光消費額増加を目指し、2021年度に始まった取り組みです。

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「星屑bar」と満月。

中川町でのインターンを通し、私は、これまで自分の中になかった 新しい価値観に出会うことができました。

一見、“無駄”と思えるものにも、目を向けてみることが大切だということ」。

この記事では、この気づきを与えてくれた人物、木工作家・髙橋綾子さんについて、ご紹介したいと思います。

私が木工作家・髙橋綾子さんと出会ったきっかけ

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木工作家・髙橋綾子さん

中川町は、まちの9割を森林が占める「木のまち」です。木や森に魅了されて道内外から移住を決意し、自然の素材を利用した作品づくりに取り組む作家さんたちが多く暮らしています。

私たち学生は、学生向け観光ツアー作成のため、ひとりの木工作家さんのもとで、木のお皿に模様を彫る体験をするワークショップに、参加させていただくことになりました。

ワークショップが行われたのは、天塩中川駅の中にある「中川町交流プラザ」。普段は町民の憩いの場として使われているところで、木製の机や椅子の香りに癒される空間です。

そこで出会ったのが、木工作家の髙橋綾子(38)さんでした。

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木の皿にノミで模様を彫る綾子さん。

ワークショップで、私たち学生に指導をしてくれた綾子さん。
穏やかで柔らかい雰囲気ながらも、木の話になると一段と楽しそうで、言葉に熱がこもる様子がとても魅力的な人でした。

綾子さんのことをもっと知りたいと思った私は、木工作家になったきっかけや、作品への想いを聞いてみることにしたのです。

「木材を無駄にしたくない」そんな思いで始めた木工作り

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木を削って器にしている綾子さん。

綾子さんが手掛ける木工作品のこだわり。そののひとつは、“どんころ”を積極的に使用していることです。“どんころ”とは、一本の木から、販売用の整った木材を切りとる中で、より分けられた部分のことです。

“どんころ”を中心に仕入れ、削り、乾燥させ、模様を彫り、塗装をして…じっくりと時間をかけて作品を生み出す綾子さん。

なかには、大きな節(ふし)があったり、穴が空いていたり、自然にできた模様があったりと、クセが強いものもありますが、それも「木の個性」として、作品に活かしているそうです。

髙橋綾子さんが大切にしている価値観

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穴の空いた木材で作られたボウル

福島県出身の綾子さん。2014年、29歳の時に、中川町の地域おこし協力隊として、このまちに移住してきました。

幼い頃から、木や森に興味があり、大学卒業後は、地元の東北で環境調査会社に務めていました。何度も森に入ることで、森や木への関心を深めると共に、使われることなく、森の中で朽ちていく木材を目の当たりにして、「この木材を無駄にしないために、自分に何かできることはないか」と思ったという綾子さん。

そんなとき、出張先で偶然目にした、全国の木工家による椅子の作品や作品への想いが詰まった本、「手作りする木のスツール」(西川栄明著、誠文堂新光社、2010)を読んで、ものづくりに対する意欲に火が着きます。

東日本大震災を経験して芽生えた、「日々納得のいく生き方をしなければ」という気持ちも後押しとなり、一念発起。仕事を辞め、木工作家になることを決めます。

木工作家になるには、これからどこへ、なにをしに行くべきか?

この答えを求めて、“行き先を探す旅”に出た綾子さん。木のそばで、木を想いながら木工作品をつくりたい、という情熱を原動力に、東北から北海道を駆け巡りました。

そうして、たどり着いたのが、中川町。木材やものづくりの学びを通して出会った、「人との繋がり」が導いたといいます。

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町内にあるご自身の工房で、制作中の木の器を手に取る綾子さん

「移住の決め手は、伐られた木、その一本を大切に使おうという、中川町の姿勢でした。このまちだったら、“どんころ”を使ってものづくりをしている自分がイメージできたからです」。

中川町には「森林文化の再生」と題するまちの構想がありました。その実現に向けた取り組みのひとつとして考えられていたのが、“どんころ”を薪やクラフト材料に利用することだったのです。

綾子さんが“行き先を探す旅”の中で、中川町を訪れたとき、まちの構想をもとに着手していることや、これから取り組みたいことなどを、役場の職員さんが事細かに説明してくれたといいます。

綾子さんは中川町への移住を決めます。移住後は、地域おこし協力隊として、“どんころ”をクラフト材料に利用するための処理や、選別方法の研究を任されました。

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綾子さんが制作したお皿

まちから依頼のあった研究を終えた現在も、木への愛は深まるばかりだと話す、綾子さん。
「作品づくりを続けている限り、ずーっと木から学ばせてもらっています。そういう意味では、研究継続中です!」とまだまだ前のめり。

最近では、お皿に限らず、アクセサリーなどの作品づくりにも手を広げ、札幌や本州ではしばしば作品展を行っています。
さらに、草木染による器への着色や、漆塗りをはじめとした、綾子さんの地元・東北の工芸の技法を活かした作品づくりにも挑戦しています。

中川町での暮らしが気づかせてくれたこと

中川町に移住して、今年で9年目になる綾子さん。

「夜、ゴミ出しのため外に出たとき、ふっと空を見上げれば、満点の星空、運が良ければフクロウが上空を横切る。町中を歩いていれば、必ず知り合いに出くわし『こんにちは」』と笑顔を交わし、子どもの成長を家族のように喜んでくれる。夏には新鮮なお野菜の”交換こ”が行われて、冬には真っ白な雪に囲まれる世界がものづくりに集中させてくれます。ちょっと思い起こしただけでも、ここでの暮らしは豊かで幸せです」

綾子さんは、中川町の暮らしを、笑顔で振り返っていました。

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綾子さんが制作したお皿

「このまちにいると、満ち足りた気持ちになれる気がする」。

10泊11日のインターンを通し、ずっと私はそう感じていました。
このまちで暮らしていると、人の温かさや何気ない風景に、ふと心が動くことが多いのです。

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中川町の「誉大橋(ほまれおおはし)」から臨む、青空と天塩川

インターン中にスタッフとして働いていたバーでは、お客さんとして来てくれた町民のみなさんが気さくに話しかけてくれて、私たち学生は、マニュアル通りに接客するのではなく、町民のみなさんとのおしゃべりを楽しむことができました。

また、週末に開催されていたマルシェで少し立ち話をした町民の方が、お店に来てくれて声をかけてくださったり、別で来店したお客さんたちがいつの間にか同じテーブルにいて輪が広がっていったり…そんな時の過ごし方に、私はとても心を動かされました。

普段、札幌では、このような時間の過ごし方を、私はしたことがありません。
もしかすると、忙しない都会で暮らす中で、こういった時間は、効率が悪く、”無駄”としてしまいがちなのかもしれません。

でも今回、中川町で過ごした日々と、綾子さんのお話が、私に気づかせてくれたんです。“無駄”とされがちな時間にこそ、面白さや価値があるということに。

流通用のきれいに整った木材から外れた“どんころ”も、ある意味、"無駄”と切り捨てられたもの。綾子さんがそんな”無駄”な木材に、価値を見出し、唯一無二の作品を生みだしていることに、私は心を打たれました。

やることが他にあるのに、ダラダラと時間を使ってしまったり、頑張ったのに努力が実らなかったりと、きっと多くの人の人生には、“無駄”だったなと思う瞬間があるはず。
でも、“無駄”を捨て置くのではなく、別の視点から見つめなおすことで、新たな価値を見出せることも、きっとある。

中川町で過ごした10泊11日間は、そんな一筋の希望を私に与えてくれた、とても豊かな時間でした。

***

取材協力:木工作家・髙橋綾子さん
Instagram@ayako_works_

文:もんすけラボ(※) 学生メンバー みこと
編集:Sitakke編集部ナベ子

【もんすけラボ※】HBCと北海学園大学が2019年に開設した若年層向け協創型メディアシンクタンク「北海道次世代メディア総合研究所」の愛称。学生・教員とHBCスタッフがアイデアを出し合い、実践活動につなげています。

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