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自然と人が共生する岐阜県飛騨市。持続的な地域をつくるエコツーリズムの取り組みとは?

  • 2023.11.10

こんにちは!トラベルライターの土庄です。今回は岐阜県山間部の飛騨市でエコツーリズムについてご紹介したいと思います。

エコツーリズムとは英語の"Ecology(生態系)"と"Tourism(旅行)"をかけあわせた造語。地域固有の自然環境や歴史文化を体験しながら学び、その保全にも責任を持つ観光のあり方です。

全国的にも有名な「レールマウンテンバイクGattan Go!!」をはじめとして、近年完成した「天蓋山YAMAP新道」、飛騨高山の奥座敷として愛されるお宿「八ツ三館」など、飛騨ならではの魅力的なコンテンツに迫ります。

岐阜県飛騨市とは?

岐阜県の最北に位置し、北は富山県、南は高山市に面する「飛騨市」。総面積は792平方キロメートルで、全国の市のうち約50番目の面積をもち、周囲は標高3,000メートルを超える飛騨山脈などの山々に囲まれています。

面積の93%を森林が占めており、映画『君の名は。』のモデルになった古川の町並み景観が有名です。"自然豊か"と形容されることの多い飛騨市ですが、伝統的なモノづくりや祭り文化がしっかりと根付いています。

地方創生を叶えるエコツーリズム

そんな飛騨市で近年盛り上がりを見せているのが「エコツーリズム」です。民間と行政が手を取り合って、魅力的な観光コンテンツの造成を行なっています。すでに全国的に有名になったアクティビティもあり、地域の事業者と人をつなぐ仕組みづくりも秀逸です。

また一つのプロジェクトや事業者の取り組みとして、他の地域でも横展開可能なロールモデルも数多く有しています。今回はそんな飛騨市を代表するエコツーリズムの事例についていくつかご紹介したいと思います。

廃線を活用したレールマウンテンバイクGattan Go!!

まず最初にご紹介したいのが、「レールマウンテンバイクGattan Go!!」です。飛騨市にある町の一つ、飛騨神岡は、かつて鉱山の町として栄え、亜鉛鉱石の輸送のために神岡鉄道が走っていました。

しかし時代とともにニーズがなくなり、一時は貨物輸送をメインとする鉄道に変わるも、2006年には廃線に。活用方法を模索し、最初は不定期での観光列車の案が出ていましたが、実現しませんでした。

そこで地元の住民グループ「神岡鉄道協力会」が廃線の線路上で軌道自転車を運行する「レールマウンテンバイク」の運行を考案したのです。約2.9kmの区間で実験運行したところ大好評となり、2012年からシーズンを通じての本格運行が始まります。

まちなかコースと渓谷コースの2つがあり、いずれも飛騨の自然を満喫するサイクリングを楽しむことができます。また当時"奥飛騨の地下鉄"と言われていたように、トンネルが続き、橋梁が現れるコースは歴史情緒も感じられますよ。

街のアイデンティティの一つだった鉄道が形を変え、今でも多くの人が利用するアクティビティとなっているとは、なんだか素敵ですよね。個人的には桜が咲き誇る春、まちなかコースを利用するのがおすすめです。

郷土愛から行動へ。ヒダスケ!と天蓋山YAMAP新道

地域の「負」を解消し、同時に人のつながりを作るすばらしい事例もあります。それが飛騨市独自の試み「ヒダスケ!」です。

従来の「体験ツアー」や「ボランティア」をリブランディングし、困りごとや地域課題を資源に、人と人とのつながりと支えあいを構築するマッチングプラットフォームとして運営されています。

事業者や地域の団体が困りごとやアイデアを持ち込んで、協力してくれる方を体験ツアーという形で募集。そこに共感した方が応募&参加し、お手伝いをした「オカエシ」として、電子地域通貨「さるぼぼコイン」などを受け取るシステムになっています。

その一つとして盛り上がっているのが、飛騨の森を保全する「森スケ!」です。2023年には地元の名峰・天蓋山(てんがいさん、標高1,527m)に新たな登山道を作るプロジェクトの募集があり、夏にYAMAP新道という新たなコースが完成しています。

すでに東海を中心として多くの登山愛好家が足を運んでおり、賑わいを見せているそう。秋には草刈りなど、登山道をきれいにするプロジェクトもあり、さらに整備が進められています。

地元のために頑張りたい、恩返しをしたいといっても、何をすればいいかわからない方も多いはず。情熱を持った方々をつなぎ、市民同士で持続的な地域運営を行い、それが地域の魅力になる。一つのロールモデルとなるすばらしいエコツーリズムのかたちだと感じました。

サポーター制度によって守られる天生県立自然公園

地元の方の積極的な活動により、原生の自然が保護されている場所もあります。それが「天生(あもう)県立自然公園」です。飛騨市と白川郷をつなぐ天生峠(国道360号)から入山し、天生湿原や桂門といった名所から籾糠山(もみぬかやま、標高1,744m)まで登山を楽しめる、地元ハイカーを中心にとても人気があるスポットです。

そんな道を歩いていると実感できるのが、登山道の綺麗さです。木道には至るところに補修の跡があり、登山道には危ない箇所がほとんどありません。

そして周囲には四季折々の自然景観が広がります。特に秋にはオレンジや黄色、赤があふれる絵画のような絶景に出会えます。

原生から続く飛騨の森が見せてくれる美しい景観は、「天生の森サポーター倶楽部」に所属するボランティアの方々の手によって守られているものです。外来植物除去や清掃活動、自然の見守り活動など、普段は見えない努力の積み重ねに支えられています。

飛騨には世界遺産に登録されている白川郷合掌造り集落がありますが、「天生県立自然公園も含まれてもいいのでは?」と思ってしまうほど美しい、奇跡のような景色に出会うことができます。

古き良き日本文化を守る飛騨の迎賓館・八ツ三館

これまでアクティビティや自然を中心にエコツーリズムの事例をご紹介しましたが、古き良き飛騨のおもてなしを受け継いでいるお宿もご紹介したいと思います。それは飛騨古川の中心部にある「八ツ三館」です。

八ツ三館の歴史は、江戸時代末期に遡ります。もともと越中八尾(富山県)出身の三五郎さんが始めたお宿で、出身地の八と名前の三から「八ツ三館」と命名しました。山本茂実さんのノンフィクション小説『あぁ野麦峠』にも登場し、多くの女子が八ツ三館から野麦峠を越えて信州の製糸工場に出稼ぎに向かったことでも有名です。

現在8代目になるこのお宿では、古き良き日本の伝統を守りながら、旅人をもてなしてくださいます。

一番の特徴は、女将さんや仲居さんが皆、和服で迎えてくださることです。女将さんによれば、畳や襖、障子のある旅館は、日本文化の縮図ではないかとのこと。たとえば着物なら、着る人がいることで、仕立てる人や染める人の仕事につながりますよね。

だからこそ自ら率先して、古き良きものを使うようにする。それが本当の意味で「文化を守る」ことにつながるのではないでしょうか。八ツ三館では古い家具も修繕しながら大切に使用しているそうです。

学びと行動を後押しする飛騨市のエコツーリズム

豊かな自然と歴史をもつ飛騨市。隣には高山市や温泉郷で有名な奥飛騨という観光地もあるなかで、ひと味違ったエコツーリズムを推進しています。

根本にあるのは、地元の自然や文化を守りたいという情熱と郷土愛。行政が上手に橋渡しをしながら、地元の方の手で持続的かつ魅力的な地域運営を進めているのがすばらしいです。

飛騨市独自の試みは、他の地域でも参考になるものばかり。また自分も民間の一人として、できることがたくさんあるんだなと気づくこともできました。

ただ楽しむだけでなく、地域への理解を含めて、学びをもたらしてくれる飛騨市のエコツーリズム。ぜひあなたも飛騨市へ足を運んで体験してみてください。

All photos by Yuhei Tonosho

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