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スタイリスト・北村道子がもう一度観たい映画と、その理由。『ダムネーション/天罰』

  • 2023.11.8
スタイリスト・北村道子

エフェクトを体感しながら、ストーリーの余白を自分の中で埋めていきたいから

今年、初期のタル・ベーラの日本劇場未公開作品『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』の上映があった時は、シアター・イメージフォーラムに毎日通って、それぞれ3回ずつ観ました。すべてのエフェクトを映画館という非日常で体感したくて。

この作品は、共同脚本のクラスナホルカイ・ラースローはじめ、撮影監督、音楽家も、『サタンタンゴ』につながる最高のスタッフが集まっている。キャストはほとんど素人なんだけど、ほかの作品も観たいと思わせる魅力がある。衣装もいいし、モノクロの勉強にもなります。

私にとって、映画はスタッフィング、キャスティング、エフェクトを体験するものだと思っていて、ストーリーはどうでもいいんです。主人公の男が既婚の歌手の女に惚れて、夫が気に食わないというだけの単純な話だけど、始まりからずっと嫌な雨の音がしていて、窓越しにケーブルカーが向かってくるのが見えて、何が起きるか全くわからない。

これ、永遠に続くのかなって思わせる、スローなシーンを前にすると、人は分析し始めるんですよ、この男は何者だ?どうやって撮ったんだ?と。

よく読めば、最後にはハンガリーという社会で生きている人の姿から政治性も見えてくるんだけど。ベーラの作品には物語性がないからこそ、延々と自分の中でストーリーを想像できるし、私は70年間の人生の中から観るんです。観る人によってそれぞれが意味を見出せる。それこそが、映画であるって思うんですよね。

Information

『ダムネーション/天罰』

荒廃した鉱山の町で、不倫相手の歌手の部屋を訪れたものの追い返されたカーレルは、行きつけの酒場へと向う。酒場の店主から小包を運ぶ仕事を依頼されるが、町を離れたくない彼は、歌手の夫にその話を持ちかける。'88ハンガリー/監督:タル・ベーラ。

profile

スタイリスト・北村道子

北村道子(スタイリスト)

きたむら・みちこ/1949年石川県生まれ。10代でサハラ砂漠、アメリカ大陸、フランスを放浪し、30歳頃から、映画、広告、雑誌などで衣裳を務める。人気シリーズ待望の第3弾『衣裳術3』(リトルモア)が発売中。第40回毎日ファッション大賞にて、鯨岡阿美子賞を受賞。

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