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「女の子らしさ」に縛られる生きづらさ 「必要な区別」をしないのは平等か? 『いちばんすきな花』4話

  • 2023.11.7

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第4話では、深雪夜々(今田)が母・深雪沙夜子(斉藤由貴)に対する胸の内を明かした。

理想を押し付ける身内と、理解してくれる他人

自分のことを大事に育て、愛してくれている母親。その理由を大きく占めるのが「女の子だから」だったら、どんな思いがするだろう。他者からの心ない言葉には慣れても、傷つかなくなるわけではない。ましてや身内からの言動は、また違った角度からえぐってくる。

春木椿(松下)、潮ゆくえ(多部)、佐藤紅葉(神尾)に出会ったことで、少しずつ柔らかくなっていた夜々の心が、母・沙夜子(斉藤)に久々に会ったことで、また頑なになっていく。

兄が3人いる夜々。念願の女の子として生まれた彼女は、まさに蝶よ花よと育てられた。女の子らしいピンクの服を着て、女の子らしい遊びをすることを求められる。

沙夜子にとって、夜々はお人形。自分が「男の子みたいに育てられた」からこそ「娘には女の子を楽しませてあげたい」と思った。身勝手に思える願望を、それらしい言葉でラッピングして娘に押し付け、縛った。

母と対面で食事をすることに耐えられなくなった夜々は、椿たち3人からご飯に誘われたことを機に席を立つ。「ママは、母親やろ? やのに、他人を優先するとね?」と沙夜子から責められた夜々は、涙をこらえながら言い返す。「他人やけど、他人のほうが、母親より私のこと分かろうとしてくれとるもん」。

娘が笑顔でグループチャットのやりとりをしている相手を「女の子」と信じて疑わない母。娘の好きな色はピンクだと決めつける母。虐げているわけではないし、愛情がないわけでもない。それでも夜々にとっては、椿たち3人のほうが、圧倒的に近い理解者なのだろう。

男女平等の世界に存在する「不具合」

夜々が仕事先の美容室で、女性の先輩と2人で重い荷物を運ぶ作業をしながら、男女の「区別」と「差別」について話すシーンがある。

ダンボールを運びながら「こういうのは男がやれよ」とイライラを隠さない先輩。夜々が「男女で仕事の内容を分けるとセクハラって言われるからって、店長が」と言ったのを皮切りに、先輩が「隅々まで男女平等な世界、想像してみ? 不具合多すぎて、逆にどっちも生きにくいでしょ」と息巻く。

男女平等について考えるとき、または人と話すときに、2つの言葉「区別」と「差別」の違いに突き当たることがある。例えば、夜々の職場でいうと、男性からすれば、男女問わず肉体労働をするのが平等だろうと主張することは、筋が通っているようにも思える。しかし、それは女性にとっては不具合以外の何ものでもない。

女性に対し、男性と同じ条件や環境下で動けと強制することが「男女平等」といえるのだろうか。お互いの身体的特徴から考えられる向き・不向きに合わせ、適した場所で適した働きをしたほうがいいのではないか。もし、この認識がズレてしまえば、「必要な区別をしてもらえないって、何よりも差別」になってしまう怖さがある。

注意したいのは、「男だから肉体労働をして当たり前」でもなければ「女だからお茶出しをして当たり前」でもない、ということ。性別で仕事を分けるのが悪い、というよりは、適材適所の原則を守りつつ、必要なときに手を貸し合うのが本来の仕事の形ではないだろうか。“性別”は“対立”のきっかけではない。

ポテサラとパイの実が象徴するもの

椿や紅葉は、スーパーのお菓子売り場にポテトサラダが放置されていたら「買ってあげる」人たちだ。同じように、子どもたちが走った勢いで落ちてしまったパイの実も「買ってあげる」。本来あるべき場所から外れてしまった存在、他の人からは見向きもされないであろう対象を、彼らは無視せずに掬う。ゆくえや夜々もおそらく、同じことをするだろう。

4人は、世間からないものとされる、面倒だから見ないようにされている存在を、決してないものとして扱わない。いや、扱えないのだ。

椿たちが食事をしたり、相手の話を聞いたりするときの立ち位置にも、他者をおもんぱかるがゆえの優しさがあらわれている。

椿が勤める出版社で偶然会った椿と紅葉は、その後、ナナメの位置ではなく対面に座って食事をする。夜々の溜め込んだ気持ちを聞くときのゆくえは、最初から正面や隣に座るのではなく、距離を置いて顔を見ずにいた。そして、夜々とゆくえ2人の心を尊重して外へサシ飲みに出た椿と紅葉は、カウンターで横並びになっている。

4人は、目の前の相手に対して「こうだろう」「前はこうだったから、今もそうだろう」といった勝手な推測を優先しない。自分よりも相手を尊重しすぎるからこそ、ときには行き違い、生きづらさにつながる瞬間もある。それでも4人はおそらく、相手の「いちばんすきな花」を勝手に決めつけない。そして、相手のすきな花が自分と違っても、それを否定しないだろう。

放置されたポテトサラダや、落ちて少しひしゃげたパイの実を選ぶ人もいる。不必要な差別ではなく、必要な区別をしながら生きていく4人は、少しずつ、苦しみながらも、息がしやすい場所を見つけつつあるのかもしれない。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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