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飛騨に新たな登山道が誕生!郷土愛が作り上げた「天蓋山YAMAP新道」登山レポート

  • 2023.11.6

こんにちは!秋真っ只中の11月、雪が降る直前まで山で過ごしているトラベルライターの土庄です。まるで絵画のような紅葉に引き込まれ、そのたびに心の赴くままシャッターを切っています。

今回はそんな筆者のもとへ、おもしろい情報が舞い込んできました!それは飛騨山之村にある天蓋山(てんがいさん、標高1,527m)に、新しい登山道が完成したというもの。その名も「YAMAP新道」です。

地元愛から始まった活動が行政を巻き込み、YAMAPユーザーの手を借りて整備されたのだそう。今回はそのプロジェクトについて簡単にお話ししながら、実際に筆者が歩いてきた登山の様子をレポートしたいと思います。

飛騨市山之村とは?

北アルプス山麓にある7つの村の総称「山之村」は、飛騨市の中心・古川から約25km離れた神岡、そこからさらに約20kmほど離れた場所にあり、まさしく秘境と呼ぶにふさわしいロケーションを誇っています。

標高約1,000mの峠を越えてアクセスし、北アルプスの薬師岳(やくしだけ、標高2,926m)や黒部五郎岳(くろべごろうだけ、標高2,897m)などに囲まれた牧歌的風景から、"天空の隠れ里"という愛称でも有名です。

人口はわずか120名ほどという集落ですが、山之村牧場という観光施設があり、寒干し大根や山之村そばなどの伝統産業が根付いています。今回ご紹介する天蓋山は、そんな古き良き飛騨の山間集落に位置しています。

地元愛が動かしたYAMAP新道プロジェクト

2023年夏にYAMAP新道という登山道が完成したことで、もともとピストン(往路と復路で同じ登山道を使うこと)でしか登れなかった天蓋山(てんがいさん、標高1,527m)で一周登山ができるようになりました。

このニュースは、登山道の名称に登山地図アプリ「YAMAP」の名前を冠していることもあり、全国から注目を集めています。そんなYAMAP新道プロジェクトを筆者も少し取材させていただいたのですが、そのストーリーが素敵でした。

天蓋山登山口の入り口にある山之村キャンプ場が休業し、地域への人の流入や活気が乏しくなってしまったため、地元ボランティアの方々が一念発起して新しい登山道の整備を進めたのだそう。

その活動が飛騨市を動かし、森スケ(※1)とYAMAPの提携事業で、YAMAPユーザー向けに天蓋山の新登山道整備ツアーを企画したのです。その結果、自然を愛する登山愛好家の手を借りて、YAMAP新道が完成しました。

天蓋山に登る方が増え、登山道の起点となっている山之村牧場が賑わう。自然を守りながら、観光コンテンツを作り出し、人の流れや地域の循環を生む。まさに官民の連携が成し遂げたエコツーリズムのすばらしい事例と言えるのではないでしょうか。

(※1)森スケ:飛騨の森を守る「体験ツアー」や「ボランティア」をリブランディングし、困りごとや地域課題を資源に、人と人とのつながりと支えあいを構築する飛騨市独自の仕組み。

YAMAP新道登山レポート

今回はそんな郷土愛から始まった天蓋山「YAMAP新道」にさっそく登ることができたので、その様子をレポートしてみたいと思います。

野趣溢れる道は整備の大変さを物語りますが、登りごたえがあり、道中に見られる工夫も印象的!下山後に食や観光を楽しめるのも登山の醍醐味だと再確認できました。

努力の結晶・白樺階段

「YAMAP新道」のスタートは、山之村の顔となっている山之村牧場です。なんと入園料無料でヤギやウサギなどといった動物とのふれあいを楽しむことができます。

園内を標識にしたがって奥へと進むと、登山道が始まります。序盤はゆったりとした林道ですが、10分ほど歩くと急斜面が現れます。距離は短いのですが、ところどころ傾斜がきついのが「天蓋山」の特徴です。

第一の名所は「白樺階段」。子どもやお年寄りなど、さまざまな利用者を想定して何度もシミュレーションし、一つひとつステップを作り上げています。それだけでも気の遠くなるような作業ですが、設置のためには資材や道具を担いでここまで歩いてこなければなりません。

まさにボランティアの方々の努力の結晶である白樺階段。安全に楽しく登山できることに感謝しつつ、先に進んでいきます。

飛騨らしさに触れるきこりの飯場

新たに完成した「YAMAP新道」には、利用者を楽しませてくれる工夫が垣間見られます。その代表的なものが、各ポイントに置かれている手描きの標識。

飛騨杉の林やブナの細道など、周囲の景観や地点をユーモラスに言い換えています。筆者が特に気に入ったのは「きこりの飯場」です。

登山道を整備するとき、お酒の一升瓶が落ちているのを見て、「きっときこりがここでごはんを食べていたのだろう」と発想したそう。苔が覆った杉の切り株が趣深く、なんだかストーリー性を感じられるネーミングに心惹かれてしまいました。

山之村の魅力が伝わるヤマップ平

登山開始から約1時間半ほどで、開けたポイントへ到着します。その名も「ヤマップ平」です。登山道を整備しているときに見つけた展望ポイントを開拓し、コースの名物といえるパノラマ台になりました。

そこに置かれているのは、ボランティアの方々が協力して作り上げた白樺の椅子とテーブル。山之村の小中学生が作成した「ヤマップ平」の特製看板とメッセージボードも飾られています。

まさに天蓋山を訪れた登山者に対する地元の方のおもてなし。山之村の郷土愛や活気を感じるこの場所からは、北アルプスの名峰が連なる絶景が広がります。

まさに山之村の人と自然という2つの魅力を体感できるスポットだと言えるでしょう。

道中新たな名所を発見!千手ブナ

ヤマップ平を越えると、また一つ大きな見どころが現れます。それが「千手ブナ」です。登山道の整備に伴って偶然発見されたブナの巨木で、いくつも派生する枝が千手観音の姿を連想させます。

実は「天蓋山」は、山の形が仏像の頂上にかざす衣笠(天蓋)に似ていることから名付けられています。その山の麓に仏像(千手観音)を思わせる巨木が根付いているという事実は、なんだか自然のロマンに思いを馳せずにはいられない奇跡です。

「森からか木からか」という議論があるように、木々の総体としての山と、命を輝かせる一本の木は、切っても切り離せない関係性。飛騨の自然がはぐくむ神秘に感銘を受けるスポットだと思います。

大変さが伝わってくる終盤

そんな「千手ブナ」を過ぎると、山頂手前の三叉路まで、急斜面をいくワイルドな道が続いていきます。登山道を整備したボランティアの方によれば、ここが道を作る上で一番大変だったとのこと。

ロープを垂らしながら、どの導線が一番傾斜が少なく安全かと何度もシミュレーションをして完成させたそうです。実際に歩いていても、整備の難しさが伝わってくる、絶妙なコース取りでした。

「よくここに道を通してくれた!」と通過するたびに感動しながら、最後は次第に現れる紅葉に見惚れながら山頂を目指しました。登山開始から約2時間半。ようやく天蓋山に登頂です。

日本百名山を11座も望む。地元の宝・天蓋山へ

最高のコンディションに恵まれた今回、山頂に待っていたのは北アルプスの山々と紅葉のコラボレーションが織りなす絶景でした。

剱岳(つるぎだけ、標高2,999m)から槍ヶ岳(やりがたけ、標高3,180m)、乗鞍岳(のりくらだけ、標高3,026m)、御嶽山(おんたけさん、標高3,067m)、白山(はくさん、標高2,702m)まで日本を代表する名峰がずらり。なんと天蓋山山頂からは日本百名山に選ばれている山を11座も望めるそうです。

この日は地元の親子連れのグループで賑わっており、地域の方に愛されている郷土の山らしいシーンにほっこり。そして今年も秋の山に登って、四季との一期一会を楽しんでいる幸せを実感しました。

大学来、7年もプライベートで一緒に旅している友人にもなんだか感謝を伝えたくなります。私にとって山は、当たり前のようで当たり前でない、ふとした幸せに気づかせてくれる場所です。

美しい紅葉とアルプスの共演が待つ。天蓋山登山道

YAMAP新道が完成したことで、YAMAP新道→天蓋山→天蓋山登山道(逆もOK)の一周ルートが取れるようになりました。今回はYAMAP新道をメインでご紹介しましたが、天蓋山登山道の景色も実にすばらしいです。

特筆すべきは紅葉の美しさ。黄色やオレンジ、赤とパッチワークのように山肌を彩ります。秋晴れの青空を背景にすると、いっそう鮮やかで何度も立ち止まってしまいます。

そしてもう一つ、北アルプスの名峰を近く感じられるのも魅力です。紅葉の窓から覗くのは、後立山連峰の薬師岳(やくしだけ、標高2,926m)。遠く岳人(※2)憧れの名峰に思いを馳せながら下山しました。

(※2)岳人:都山愛好家のこと

下山後は山之村ならではの観光&グルメを堪能!

今回は天蓋山「YAMAP新道」についてご紹介しましたが、実はコースが整備されたことで魅力が高まっているのは登山だけではありません。下山後には山之村グルメや観光体験を楽しむことができます。

まず代表的なスポットが「山之村牧場」。ソーセージバイキングやスイーツ「ヨーソフハニー」が絶品です。また北アルプスを見渡しながらの乗馬体験や牧場見学も楽しめます。

また山之村牧場の近くにある「りょうし食堂」も、地元の方の憩いの場。ワンコインという都会ではあり得ない価格で、ミニジビエカレーとミニ猪汁がセットになった卵かけはんセットをいただけます。

「YAMAP新道」の完成によって、さらに盛り上がりを見せる飛騨市のエコツーリズム。地元の輪がつくり出す新しい山旅から目が離せません。気になった方はぜひ、飛騨市山之村を訪れてみてくださいね!

All photos by Yuhei Tonosho

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