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昭和レトロブームの火付け役「アデリアレトロ」 4年で140万個売り上げた大ヒット商品の“今”

  • 2023.10.26

20代女性社員が「絶対売れる」ヒットを確信も…

昭和レトロブームの火付け役「アデリアレトロ」はどのように生まれたか
昭和レトロブームの火付け役「アデリアレトロ」はどのように生まれたか

「石塚硝子(いしづかがらす)」(愛知県岩倉市)が、昭和時代に発売していた食器ブランド「アデリア」のプリントグラスを2018年に復刻発売したガラス食器シリーズ「アデリアレトロ」が発売以来4年で約140万個売り上げています。

“昭和レトロYouTuber”としてYouTubeやインスタグラムで昭和レトロ情報を発信している菅沼朋香さん(@tomoka_suganuma)は、「純喫茶人気の高まりと、石塚硝子が昭和時代に発売していた食器ブランド『アデリア』のグラスウエアを復刻した『アデリアレトロ』が2018年に発売されたことで昭和レトロブームが加速した」と言います。

なぜ、石塚硝子は流行の兆しを素早く察知し、昭和時代の食器を復刻させることができたのでしょうか。石塚硝子の「アデリアレトロ」のデザイナーである「石塚硝子株式会社ハウスウェアカンパニー」の杉本光さんにお話を聞いてみました。

――昭和のデザインをリニューアルした当時のお話をお聞かせください

杉本さん「企画がスタートしたのは2018年の初め頃。当時20代だった弊社の女性社員3人で企画しました。その1人が私です。

“昭和”を知らない私たちが、昭和40年代のアデリアカタログから当時のプリントグラスを見つけ、『これは絶対に今の時代に売れる!かわいい!』と確信した事がきっかけでした。すぐに3人で、企画会議の場で提案しました」

「しかし、リアルに昭和を体験している上席者たちには『そんな時代もあったよね。でも今、売れるかな?』程度の反応で、復刻企画としてスタートする事をすんなり受け入れてもらえませんでした」

――その後、杉本さんたちはどのような行動に出たのでしょうか

杉本さん「ヒットの可能性を感じていた私たちはそこで折れずに、上席者たちを納得させるべく客観的な数値、エビデンス集めをします。

例えば、インスタグラムなどで『アデリア』で検索した場合、現在販売中の製品よりも昭和期のプリントグラスの方がたくさん投稿されていた事や、それらの背後に熱烈なファンがいる事実を提示しました。

そして数回の提案の後、ようやく企画にゴーサインが出されました。まずは3種類各500個のテスト販売からスタートしました。SNSでは、『(復刻を)待ってました』という声もあり、手応えを感じていました」

インナーブランディング啓発の一助に

――『アデリアレトロ』の売り上げを教えてください

杉本さん「アデリアレトロシリーズの売り上げは、2020年は前年比で6.9倍、2021年は前年比で2.3倍を記録しています。2018年11月から2023年9月迄の累計販売数量は140万個になりました。日経トレンディ『2021年ヒット商品ランキング』では、“昭和・平成レトロブーム”が4位にランクインし、『アデリアレトロ』もこの中で取り上げていただきました」

――実際にどのような人が『アデリアレトロ』を購入しているのでしょうか

杉本さん「『アデリアレトロ』公式インスタグラムのフォロワーは2023年9月の時点で7.8万人で、属性は20~50代の女性が圧倒的多数です。当初からアデリアレトロのコアファンに受け入れられる確信はありましたが、20代女性にとっては“(単純に)かわいい”と感じられ、昭和をリアルに体験している世代にとっては“懐かしい”感情を持たれるようです。予想よりも幅広い世代に受け入れられているのではないかと分析しています」

――アデリアレトロ発売の前後で社内で変わったことはありますか?

杉本さん「社内ではインナーブランディング啓発の一助になりました。石塚硝子は飲料メーカー様OEMでの、ガラスびん、ペットボトル、紙パックの事業も展開しています。社員が普段自社製品を『ブランド』として意識する場面はさほど多くはありませんでしたが、アデリアレトロが社外でこれだけ多くの反響をいただいた事で、『自社ブランドが世間で脚光を浴びている現象』を目の当たりにして大きく変わりました」

デザインの復刻方法はあえて「手作業」で

「アデリアレトロ」の“隠れロゴ”(筆者所有物より)
「アデリアレトロ」の“隠れロゴ”(筆者所有物より)

――『アデリアレトロ』は昭和時代の『アデリア』を復刻させたものだそうですが、『アデリア』にデザイナーはいたのでしょうか

杉本さん「『石塚硝子』のガラス食器ブランド『アデリア』の立ち上げは1961年(昭和36年)で既に60年が経過しており、当時のデザイナーとコンタクトを取ることはできないのですが、分かっている事としては、すべて社内デザイナーの間で分業化(グラスのフォルム担当やプリント柄担当など)し、『アデリアレトロ』で復刻したプリントグラスは、プリント柄専門のデザイナー数名が関わっていたそうです」

――復刻させる上で苦労したこと、大切にしていることはありますか

杉本さん「実は、当時の版やデザイン画は残っていません。当時発売されたグラスも残っていません。そこで、アンティークショップやネットショップなどで探したり、SNSでプリントグラスを持っている人に連絡してお借りすることから復刻作業は始まります。

復刻の元となる昭和期のプリント柄は確認出来ているものだけでも100種類以上ありますので、その中から“意外な一品”が復刻されるかも知れません。是非、今後の展開にご期待下さい。

復刻するにあたって、プリント柄に関しては“昭和当時のデザインを忠実に再現”する事を心掛けています。

プリントグラスを製造していた当時は、コンピューターなどなく、“手描き”で原版となるデザイン画を作るアナログな時代でした。だからこそ生み出される“線のブレ”や“版のズレ”(色の重なりのズレ)などまで、細部に渡って再現しています。それが、昭和当時の大らかでのどかな時代感を表現することにつながっているのでは、と考えています」

――復刻作業はどのように行われるのでしょうか

杉本さん「昭和当時のプリントグラスにトレーシングペーパーを当てて、鉛筆でなぞり書きをする事で復刻用の原版を起こしています。

正直、現代のデジタル技術でスキャン、リタッチしてしまえば簡単ですし、スッキリとクリーンな仕上りにはなるのですが『復刻版ならではの良さ』は失われてしまいます。

また、昭和期のヴィンテージ品に配慮する意味でも、復刻版には一カ所だけさりげなく識別点を設けています。それがグラスの内側からのみ読み取れる「隠しロゴ」です。

最近は模倣した商品も出回ってきています。この隠しロゴやアデリアレトロのパッケージなどよく見て購入していただけたらと思います」

デザインが“グラス”から独り立ちする

――ガラス食器以外でも『アデリアレトロ』柄の商品を見かけるようになりました。アデリアレトロの人気の柄を教えてください。

杉本さん「1位野ばな、2位花ざかり、3位花まわしで、さらに4位アリス、5位ズーメイトと続きます。商品でダントツ人気が『台付きグラス320 野ばな』です」

「ここ数年で『アデリアレトロ』が注目され、メディアでも多く取り上げられるようになるにつれ、他の企業からコラボレーションの問い合わせをたくさんいただくようになりました。

最近では、『アデリアレトロ デザインはんこ』や、てぬぐいブランドの『かまわぬ』とコラボした商品があります。そのほかにも多くの提案をいただいており、まさに、デザインが独り立ちし始めたという状態です」

――「石塚硝子」が「アデリアレトロ」以外に推したいブランドはありますか?

「アデリアブランドでは、1000種類以上の商品を取り扱っています。中でもお子さまの『食育』の一環としてグラスを使うことでモノを大切にする心を育む『つよいこグラス』や、オーブン料理でのこびりつきをスルッと落とせる特殊コーティング加工が施された耐熱ガラスウエアの『セラベイク』など、ガラスウエアにひとひねり加えた商品が好評です」

昭和時代のプリントグラスが、単なる「グラス」の枠を越え“デザイン”として独り立ちをしています。「アデリアレトロ」の次なる石塚硝子ブランドに注目です。

(LASISA編集部)

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