1. トップ
  2. おでかけ
  3. 笑いあり!涙あり!「キノ・イグルー」による『隠れ家シネマ』をレポート

笑いあり!涙あり!「キノ・イグルー」による『隠れ家シネマ』をレポート

  • 2023.10.24

美術館やカフェなどで名作を上映するユニット「キノ・イグルー」とSheageがコラボレーション。「隠れ家シネマ」と銘打ち、東新宿にあるマンションの屋上庭園に巨大スクリーンを設置。どんなタイトルが放映されるかは、当日までのお楽しみ!およそ80分間の不思議な鑑賞会をドキュメントします。

都心の夜景が一望できる「コンフォリア東新宿」で開催

10月某日。「コンフォリア新宿」の屋上では幻想的な空間が広がっています。ライトアップされた通路を進んだ先に広がるスペースに、この夜だけの野外映画館「隠れ家シネマ」が出現。そこはキラキラと輝く摩天楼に取り囲まれていました。

視線の先には東京タワーの姿も!都会ならではの光景を目の当たりにし、これから始まるスペシャルなイベントへの期待も膨らみます。参加された方々は開演までの間、この絶景をカメラに収めたり、持参したビールで喉を潤すなど、思い思いに過ごしていました。

「隠れ家シネマ」ではアルコールを含むドリンクとフードを持ち込めるため、非日常な空間に自分らしさも織り込むことができます。

いよいよスタート! 未知の世界との出合いを楽しむ80分

開始時刻の18:40を迎えると「キノ・イグルー」の有坂塁さんがスクリーンの前に立ちました。まずは2003年に渡辺順也さんと2人でスタートした移動映画館「キノ・イグルー」についての自己紹介をし、続いて今回のイベントの趣旨を説明します。

「僕たちはカフェや酒蔵といったさまざまな場所をシアターに見立てて、国内外の作品を上映しています。そのルールとして、公開するタイトルは当日まで秘密にしています。それって鑑賞にあたってはありえない状態ですよね。そもそも気になる一本であるから劇場まで足を運ばれているわけですから。当然、あらすじも頭に入っているはず。人によってはネタバレサイトもチェックをしているケースもあるでしょう。でも、今日はそのアプローチ法は一旦忘れていただきたい。何の知識もないまっさらな状態で作品との一期一会を楽しんでほしいのです。ご自身の興味の外側にあるものとの触れ合いは世界の広さを知ることにつながりますから。さらには、新しい扉を開くきっかけになる可能性もありますしね。ちなみに、野外での鑑賞はヘリの音や救急車のサイレンなど予期せぬBGMもつきものです。そんなハプニングも含めて満喫いただけたら、嬉しいです。本日はそんな秋の夜長にふさわしい短編を8本ピックアップいたしました。では、さっそく始めましょう」

いざ、「隠れ家シネマ」の幕が上がります!

トップを飾るのはカナダ発のアニメーション

心地良い秋の風が吹くなかで、鑑賞タイムに突入。スクリーンではキッチュな表情をした物語の主人公である2匹のカメレオンがエサを取り合っています。『Dinner for Two(邦題 ふたりのごちそう)』は彼らの熱戦が巻き起こすドラマをテンポ良く描いています。ターゲットに夢中になるカメレオン達を捕獲しようとするワニも登場するなどスリリングなシーンもある一方で、心温まる展開も差し込まれ、あっという間にエンディングを迎えます。

「日本ではあまり知られていないのですが、カナダはアニメの先進国でもあります。1939年に国営のスタジオ『カナダ国立映画制作庁』が設立され、1941年にはアニメーション部門が始動しています。半世紀以上の歴史を誇ると同時にたくさんのおもしろい才能が世に出ているのです。本作が発表されたのは1996年。子どもの教育用コンテンツでありながら、BGMにはジャズをチョイス。そのさじ加減こそがカナダのレベルの高さを物語っていますね」

上映の前後に差し込まれる有坂さんの丁寧な解説によって、物語の理解が深まり、好奇心が刺激されていきます。

周りを気にせず笑い転げられる一幕も

東新宿の上空を航空機や車が行き交うエンジン音によって「隠れ家シネマ」が静寂に包まれる瞬間はほとんどありません。賑やかな環境で鑑賞をしているおかげか、参加された方々のリアクションは自然と大きくなっていました。

2作目の『セブン・チャンス』(1925年公開)では、お金を目当てに駆けつける数十人のお見合い候補や岩から逃げ続ける名優のバスター・キートンのコミカルな動きに一同が大爆笑。スタントマンをつけていない迫真の演技に釘付けになっていました。笑いによる高揚感で満たされていったところで、有坂さんからミニクイズが出題されます。

「絵画や音楽などのカルチャーと比べて映画は120年余りとまだまだ歴史は浅いです。その走りはサイレント映画となります。そして、バスター・キートンは今でも大スターとして語り継がれています。スタントマンを付けずに挑む彼のスタイルは現代の俳優にも影響を及ぼしています。ちなみにそれは誰でしょう?」

「ジェッキー・チェーンとトム・クルーズ!」

最前列で鑑賞していた男性がすかさず回答。

「正解です!」(有坂さん)

周囲から歓声と拍手が起こり、一体感が生まれた瞬間でもありました。

五感が研ぎ澄まされる映画体験

そうして3作目にはグラフィックの底力を堪能できるアルゼンチンの実写『ルミナリス』、擬人化したビールを主人公にしたイギリスのアニメーション『BEER』とポップな映像が続きます。

5本目で愛犬の生誕から天国へ行くまでの軌跡を描いた『ねぇ、マリモ』が流れるとハイテンションな空気から一転して、感傷的なムードが漂います。なかには涙を流す方も。しんみりとした雰囲気を払拭するために米国のコメディ『テリー・ライト』(実写)と1931年に発表された日本のアニメ『三匹の子熊さん』といったシュールな作品が上映されます。スクリーンを見つめていた人々は両者の斬新な切り口に驚きの表情を浮かべていました。

締めは『日曜洋画劇場 40周年記念 淀川長治の名画解説』。伝説の映画評論家による『サタデー・ナイト・フィーバー』の軽妙かつ意外性に溢れた解説にまた笑いが起こります。

「オンエアされていた当時、淀川さんのユニークなコメントに惹きつけられて本編を鑑賞した人が多かったそうです。日本語として正しい表現ではない言い回しがそのまま流れる回もあります。ちなみに、この番組は生放送ではないので撮り直しもできます。でも、整えられたセリフよりも熱を帯びたコメントの方が視聴者の心には響きますよね。淀川さんだけでなくそれをチョイスするスタッフの映画愛も伝わってきます」

有坂さんの想いとあらゆる国と年代のショートフィルムに浸るうちに、あっという間に20:00を迎え「隠れ家シネマ」は閉幕しました。1本あたりの上映時間は10分未満と短いながらも、それぞれのストーリーは濃厚。直前まで作品名が伏せられていたおかげで、宝物を見つけたような感覚を味わえました。また、ルーフトップという特殊な環境での鑑賞も五感が揺さぶられる特別な一夜を過ごすことができました。

writer / Sheage編集部 photo / 大森忠明

取材協力

キノ・イグルー
https://kinoiglu.com/

元記事で読む
の記事をもっとみる