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<【ベイクルーズストア】が好調な理由>最新のシステムよりも小売業の基本を大切にして心を掴む!

  • 2023.10.24
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店を開けることもままならなかったコロナ禍で一気に進んだのが、アパレル販売のデジタルシフト。各社がしのぎを削る中、アパレル業界のECで2位につけているのが【ジャーナル スタンダード】や【イエナ】など、数多くの人気ブランドを抱えるベイクルーズの自社オンラインストア【ベイクルーズストア】です。【ベイクルーズストア】が立ち上がったのは2007年(当時の名称はスタイルクルーズ)。アパレルの自社ECに火をつけた先行者でもあります。なぜ多くの人を惹きつけるのか、ベイクルーズ DX統括の玉川寛一さんと舛田桂さんにお話を伺うと、小売業の原点という言葉が浮かんできました。

最新のシステムより、お客様の生の声を反映させてサイトを成長させていく

画像: 【ベイクルーズストア】のトップページ。 出典:ベイクルーズストア

アパレルブランドだけでなく、家具やコスメブランドも展開する【ベイクルーズストア】には2023年9月現在、51ものブランドがラインナップ。ベイクルーズという企業を知らない利用者からすれば、人気ブランドがたくさん集積されたオンラインのファッションモールのように映ります。

これほどの規模感のため、オンラインストアを運営しているDX部署は、1日中パソコンとにらめっこをして常に最新のシステムを検討している……。そんな先入観をいきなり覆すエピソードからお話は始まりました。

「立場関係なく、スタッフ全員が店頭に立つのがベイクルーズ。もちろんDX部署のメンバーも店舗にヘルプに行きますし、役員であろうとちゃんとこき使われています(笑)。いつもしている仕事じゃないから面倒なんて気持ちは一切なく、むしろ逆。ストックルームはレジの後ろにあることが多く、そこで作業しながらレジのスタッフとお客様のやり取りを聞いていると、気付きが多いんです。【ベイクルーズストア】にもペルソナはありますが、頭でっかちになるよりもお客様の生の声を聞くほうがはるかに有益です」

画像: 【ル ドーム】丸の内店の店内。 出典:ベイクルーズストア

【ベイクルーズストア】が好調なため、EC向けの施策があるのかと思いきや、そうではありません。“お客様に体験してもらうこと”を重視しているため、意外にも実店舗を重視しています。

「“実店舗がないとECは成り立たない”という考えが基本で、0から1を生み出す店舗があってこそ。だから店舗運営計画に則って【ベイクルーズストア】も展開しています」

円滑な店舗運営はチームプレイがあってこそ。その考えは組織にも反映され、ブランドごとの横割りにし、【ベイクルーズストア】を運営するDX部署も一体となってブランド運営に携わっています。

画像: 毎週ブランドのチームでミーティングを行い、考えや課題を共有しています。 出典:ベイクルーズストア

「DX部署だからサイト周りだけできていればいいという考えはありません。ECはあくまでブランドの一部。お客様はどういったものを期待されているのか、シーズンごとのテーマの意図するところなど、ブランド運営に必要な情報をしっかり共有し、DXのメンバーもブランドへの理解を深めています。流れ作業で運営しているのではなく、ブランド内でしっかり連携できているのは特徴であり、強みかもしれません」

在庫の一元化、店舗とECの連携でもっとお買い物しやすい環境に

全スタッフの根本にあるのは、お客様ありきという、小売業では当たり前すぎて、だけど見失いがちな視点。顧客の利便性向上を徹底するため【ベイクルーズストア】では課題を一つひとつ解決しています。

その一つが在庫の管理。アパレルメーカーの倉庫は複数拠点あることが多く、在庫管理が煩雑になりがち。その点、ベイクルーズは倉庫が1カ所に集約され、在庫が一元化されています。

「お客様から店舗に在庫がない商品のお問い合わせがあった際、拠点が複数あるとどこに在庫があるのか、確認作業が増えてスピーディーにお返事ができづらくなります。弊社はほとんどのブランドが在庫を1カ所に集約し、随時在庫状況を把握できるシステムも構築しているため、すぐに調べられます。店舗とECで商品の動きが連動できますし、ECは店舗が1つ増えたくらいの感覚でブランドの運営側としても管理がしやすい。よくECと店舗で在庫を取り合うなんてことを耳にしますが、そんなこともありません」

画像: 顧客、メーカーの双方にメリットが大きい「おうち受取り」。 出典:ベイクルーズストア

在庫一元化によるサービスも走り出しています。

「店舗はバックヤードの広さが限られており、店舗に在庫がなくても倉庫からお届けできる『おうち受取』を実施しています。取り寄せになって再び店に足を運ぶのも、ECでもう1度検索して買うのもお客様にはストレスですよね。店でお買い物されてもその日のご予定によっては持ち帰りたくない場合もあります。そういう煩わしさが少しでも解消できれば、と始めました」

それぞれ売上を立てなければならない店舗とECが在庫を奪い合う。横割りの組織編成、在庫一元化は、同じ会社内なのに起こりがちなそんな不毛な闘いも未然に防ぎます。

「弊社も店舗は店舗で、ECはECで目標の数値はあります。ただ店舗とECが反目しあうことはないですね。店舗とEC、どちらで買うか選ぶのはお客様。事前に店舗で紹介をされてECで購入されているパターンもあるでしょう。だから『ECの売上がいいからDX部署のやり方に倣え』とはならないし、むしろDX部署は店舗の接客を尊重しています。店舗が報われるようなECを構築していけば、齟齬は起きないと思っています」

店舗もECもほぼ同じ品揃えを目指し、お客様がほしい時に買えるように

平均して1日800~1000品番ものアイテムが投入される【ベイクルーズストア】は数が多いだけではなく、高額商品が売れるのも特徴です。取材時の売上ランキングを見ると100位以内に28万円のバッグと、27万円のバッグがランクイン。取材日前日には8万円のバッグがランキング1位だったそう。

画像: 秋冬に向けて、約10万円のストールや約6万円のブルゾンが売上上位にランクイン。 出典:ベイクルーズストア

「一般的に店舗とECでは売れる商品が違うので、ECで売れるものに注力する戦略がほとんど。弊社の場合、店舗とECで売れるものが比較的共通しています。それはECでも店頭の商品展開に可能な限り近づけるようラインナップしているから。店頭で見かけて気になっていた商品をECで買おうと思ったら取り扱いがないって、自分がお客さんだったら残念に思いませんか? 高額商品の購買理由はわかりませんが、店頭で商品の接客を受けて【ベイクルーズストア】で買われているパターンも大いにあり得ると考えています」

店舗とEC、部署は違えど、顧客の視点に立つ姿勢をぶらさず連携していく。これで生まれるシナジーが顧客からの信頼を得、好調を牽引しているのでしょう。

「売れたものに引っ張られてECで売れ筋商品ばかり並ぶようになると、ブランド本来のよさが生きてこない。そこはハンドリングしてブランドのよさを消さないようにしています。【ベイクルーズストア】の独自性を追求するのではなく、長年小売業として培ってきた経験を落とし込んでいるだけ。それが結果的にお客様に受け入れていただけたのだと思います」

スタッフを起用したブランドMIXのコーディネート特集が好評

画像: ファッションアドバイザーを起用した、秋のコーディネート特集。 出典:ベイクルーズストア

スタッフ一丸となってブランドを運営する姿勢は、DX部署が企画する特集にも現れています。特集の方向性に合わせてプロのモデルだけでなく、ファッションアドバイザー(販売職)などのスタッフを起用することも。「こんなに社内のスタッフを打ち出しているアパレル系のECは、なかなかないかもしれませんね」と言うものの、起用するには理由があります。それは洋服の特徴を熟知したファッションアドバイザーが着こなすことで、画面越しでも洋服のよさを伝えやすいメリットがあるからです。

画像: スタイリングは様々なブランドをMIXして提案。 出典:ベイクルーズストア

さらにスタイリングに関しても、アパレルメーカーで当たり前とされていることをしていません。

「例えば【ジャーナル スタンダード】のスタッフなら、全身【ジャーナル スタンダード】を着用するのが基本だと思います。一方でお客様からはブランドMIXが見たいというお声をいただいていましたし、実際すべて同じブランドでのコーディネートってあまりしない。そこでスタイリストさんを起用して、モデルは【イエナ】のスタッフでも【プラージュ】や【ル タロン】などの担当外ブランドもMIXスタイリングしています。スタイリストさんによるスタイリングのよさももちろんありますが、スタッフを起用したブランドMIXの企画はPVがよく、購買率も高く人気があります」

販売経験者が対応するチャットサポートで、自宅にいながら接客が受けられる

これだけのブランド数を抱え、規模も大きくなってくると問い合わせ対応も大きな仕事に。最近増えているのはチャットサポート。ここもスタッフの力が欠かせません。

「基本的な質問はチャットボットですが、お客様にパーソナライズしていくファッション提案を含めたチャット接客はAIやチャットGPTよりも人間が対応したほうがいい。外注していましたが、今は弊社の販売員経験者が担当するよう内製化している過渡期です。チャット接客を利用されたお客様は、購入率が10%ほど上がっているという結果も出ています」

画像: 販売員経験者によるチャットサポートのイメージ。 出典:ベイクルーズストア

販売員の新しい働き方としても、チャット接客は意義があります。

「チャット接客で担当者を指名されるお客様もいらっしゃいます。ファッションアドバイザーの新たな経験になるかな、と期待しています。ただすべてのお客様にチャット接客するのは難しいので、顧客様はチャット接客、基本的な質問はチャットボットのような棲み分けが必要かもしれません。そしてお客様全員がチャット接客を受けたいか、となるとまだ未知数です。お客様がチャット接客自体を求めているのか、その段階からもう少しリサーチには時間が必要かなと感じています」

【ベイクルーズストア】が好調なのは、店舗への信頼があるからこそ

取材前、がちがちのシステムの話をされるのだろう、と身構えていました。でもお二人の口から出てくるのは、あくまで小売業としての基本的な話。

画像: EC人気が高まっていても、あくまでも中心は実店舗という考えが【ベイクルーズストア】のポリシー。 出典:ベイクルーズストア

「DXのこの仕組みがすごいだろうと押し付けても、お客様はそこを求めていない。DX部署の人間ですが、ECだとどうしても商品が均一化されて見えるので、実際の商品を手にとってもらって商品のよさを知ってほしい気持ちがあります。だってお客様のリアルな反応は店頭でしかわからないですから」

SeniorWriter:津島千佳

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