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恋愛でも友情でもない4人の関係。恵まれた人間の理解されない孤独 『いちばんすきな花』2話

  • 2023.10.24

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第2話のキーワードは「交換ノート」「ちびっこ相撲」、そして「忘れ物」だった。

交換ノートが終わるきっかけ

小学生の、とくに女の子のあいだで流行るものといえば? シール交換、プロフィール帳、交換ノート。この3つは定番と言えるのではないか。

小学校の同窓会に出席するため、地元の新潟に帰った潮ゆくえ(多部)。久々に会った旧友たちと、当時やりとりしていた交換ノートについて話した。その後、ゆくえは実家で交換ノートを探すが、見つからない。最初から「分かってたけど……ない」「ないのは分かってる」と言うゆくえの真意を探るヒントは、交換ノートの終わり方にある。

ゆくえは、春木椿(松下)、深雪夜々(今田)、佐藤紅葉(神尾)と、椿の自宅で再会した。その帰り、ゆくえは夜々(今田)と交換ノートの話題になり、「どう終わった?」とたずねる。夜々の答えは「たぶん誰かが止めて、自然消滅だと思います」。ノート1冊を使い切るまで交換ノートが続くことは、稀(まれ)だ。夜々は「交換ノートも手紙もメールも、ぜんぶ速攻でまわすし返すし、渡す」と主張し、その理由を「嫌われたくなかったから」と明かす。

ゆくえの実家に交換ノートがない理由も、きっと同じ。嫌われたくなかったから。みんなと同じ感情や意見を持っていないと、1人になってしまうから。女の子同士の“仲良し儀式”であるはずの交換ノートは、ゆくえや夜々にとっては、ただただ重荷でプレッシャーだったのだろう。

「みんなと同じ感情になれないのはこわい」とゆくえは言う。この心の動きに名前をつけるなら、同調圧力だろうか。NHK夜ドラ『わたしの一番最悪なともだち』(2023)でも、蒔田彩珠演じる笠松ほたるが幼少期、友人から好きな色をきかれて困るシーンがある。本当は黄色が好きだけれど、“みんな”が好きであろう色に合わせて「水色」と言う。

みんなと同じじゃないと、同じになれないと、1人になる。嫌われる。1人になるのは寂しいし、こわい。この強迫観念みたいなものはもしかすると、人に本能的に埋め込まれているものなんじゃないだろうか。

持って生まれたものという“スタートライン”

ゆくえの実家で、母・潮みき子(神野三鈴)はビデオカメラの映像を見ていた。画面には、ゆくえの従兄弟が出場した、ちびっこ相撲大会の様子が映される。従兄弟とは別の試合の映像が、当時中学生だったゆくえの記憶を刺激する。それは、身体が大人みたいに大きな子と、かわいそうになるくらい小さな子の試合だった。

ゆくえは、夜々、椿、紅葉と再び集まった席で、試合の顛末(てんまつ)を説明する。確実に身体の大きな子のほうが勝つと思われた勝負。勝ったのは、小さな子のほうだった。見ていたゆくえは涙が止まらなくなったという。ゆくえがボロボロと泣いた理由は、感動ゆえではなく、負けてしまった身体の大きな子が、不憫(ふびん)に思えてならなかったから。

「負けちゃった男の子、お相撲続けられるかなって。ちゃんと、悔しいって気持ちだけで泣けてるかな。恥ずかしいって気持ちに邪魔されてないかな」「自分が期待されて負けたことで、みんなが感動してるって、どれだけつらいだろう」と、ゆくえは彼の気持ちを想像する。

相撲をとるにあたって、大きな身体はアドバンテージになるだろう。生まれながらに恵まれた何かを持つ人間は、努力に対する賞賛を受けにくいのではないか。持って生まれたものはそのまま、スタートラインの違いにもなりえる。あえて今風の言葉を使うなら「親ガチャ」も、それに該当するだろう。

それを聞いた夜々も、ゆくえとの帰り道で「私も、負けた子のこと考えてつらくなりました」と打ち明ける。彼女は、周りから容姿について「顔がいい」「スペック」「有効活用しなきゃもったいない」と言われてきた。

言ってみれば、自分が望んだわけでもない勝負の土俵に気づいたら乗せられていて、勝手に期待される人生。もし勝ったら「恵まれているから」「当然のこと」と捉えられ、負けたら負けたで感動のネタにされるのだ。自分は、正当に悔しがることもできない。恵まれた人間の、理解されない孤独は、深い。

「4」という人数の必然

椿の家から、ともにバスで帰った夜々とゆくえ。先に降りていったゆくえは、車内にペンを忘れていった。一方、残って片付けをしていた紅葉は、帰路につく際にわざとハンカチを忘れていった。「これ、忘れていきますね。忘れ物です」と玄関の棚の上にハンカチを置く紅葉。椿は、そのハンカチを丁寧にたたんで引き出しにしまった。ゆくえのペンと同じように、4人にとって「忘れ物」は、次に会うための「理由」だ。

「忘れ物」という口実がないと、会えない4人。どうして、彼らは4人なのか。2人でも3人でもなく、4人であるワケとは。

1人だと寂しい。かといって、2人組は苦手だし、気まずくなってしまう。気まずさを回避するために3人になっても、そのうち1人が電話などの用事で抜ければ、2人になってしまう。これらの状況を避けるためには、あと1人呼んで、4人になる必要がある。

ゆくえはナレーションでこう語る。「2人で話しているときに、その場にいない誰かと誰かをあの2人って言って、名前を言わなくても、それが誰と誰のことか分かる。それはもう、2人と2人じゃなくて、4人ってことなのかもしれない」

この「4」という人数は必然だ。男女2組に分類できるけれど、恋愛関係ではない。まだ、手放しに友情といえる関係性を築いてもいない。「男女の間に友情は成立するのか?」をテーマにするこのドラマにおいて、2人ずつの男女を「4人」という一つの塊で捉えることは、想像以上に強い意味を持っている。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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