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加害者・被害者と10代の若者が語りあう 「悪人っているの?」

  • 2023.10.22

2023年10月13日、人文書シリーズ「あいだで考える」から、映画監督・坂上香さんの新著『根っからの悪人っているの?──被害と加害のあいだ』(創元社)が発売された。

装画・本文イラストは丹野杏香さん、装丁・レイアウトは矢萩多聞さんのシリーズ共通の二人が手がけた。

坂上さんは、刑務所の中で行われている「TC(回復共同体)」という対話による更生プログラムを、20代の受刑者4人を中心に2年間記録したドキュメンタリー作品『プリズン・サークル』で文化庁映画賞・文化記録映画大賞を受賞した気鋭の映像作家。

本書は、この映画を手がかりに、著者と10代の若者たちが全5回の「サークル(円座になって自らを語りあう対話)」を行った記録をまとめたもの。映画に登場する元受刑者の2人や、犯罪被害の当事者をゲストに迎え、「被害と加害のあいだ」をテーマに語りあっている。

「被害と加害のあいだ」というテーマで取り上げられるのは、人はなぜ罪を犯してしまうのか、罪を償うとはどういうことか、被害の傷や痛み、大切な場所や関係性の欠落・喪失、その回復と修復、感情、対話の可能性......など、ひとりひとりの具体的な経験と感情、思考と密接に結びつくもの。

犯罪や暴力の被害・加害だけでなく、多くの人が日常的に抱える問題や関係性、また、自分自身を見つめ直す大切な契機になる1冊だ。

「はじめに」(本書より抜粋)

本書の表紙から目に飛びこんでくるのは、「悪人」「加害」「被害」などのネガティブなワードばかりだ。暗い、重い、とパスすることだってできたのに、あなたは本書を手にとった。なぜか?
「犯罪者」っていったいどんな人たちなのか、興味をひかれたから?
「なんで悪人の肩持つのよ? 」ってムカっときたから?
逆に、「サイテーなやつ」のことが、実は気になってる?
いや、「自分のことが書いてあるかも」と思った人だっていると思う。

理由は何であれ、あなたは本書を開いた。見えない境界線の前に立っている。
向こう側の世界には、椅子が円を描いて並んでいる。
その一つは、あなたの席。他者の言葉に耳を傾け、他者の痛みについて、またあなた自身の痛みについて考えていくための空間だ。
あなたは、今、その境界線を越え、向こうの世界に足を踏み入れようとしている。

著者である私は、1990年代にテレビディレクターとしてスタートし、2000年代からは劇場公開のドキュメンタリー映画の監督として、暴力の加害・被害をテーマに取材を続けてきた。取材や撮影の舞台は、刑務所や少年院など、いわば向こう側の世界であることが多い。最近はそうした場で、映像やアートを使ったワークショップを行うこともある。それらを通して私は、見えない境界線を浮かびあがらせ、その源をたどり、境界を飛び越えて向こうの世界とこちらの世界を行き来してきた。
受刑者や少年らと接していて常に感じるのは、次のようなことだ。
被害の経験が加害につながり、加害は新たな被害を生んで、暴力は連鎖していく。
暴力の連鎖は、いかに断つことができるか?
暴力に奪われた希望は、いかに回復することができるか?

正直に言うと、本書の話をもちかけられた時、躊躇した。暴力や被害・加害をめぐる本は、すでにたくさん存在しているからだ。そこで、10代の若者と被害者側・加害者側の当事者との対話を思いついた。それぞれの経験や感覚を語りあうことで、新しい何かが生み出されるに違いない。想像するだけで、ワクワクした。
とはいうものの、対話を成立させるのは容易ではない。ましてや、年齢も背景もまったく異なる初対面の人々が、いきなり被害や加害をめぐって語りあうのだ。
悩んだ末、対話を5回重ね、次第に深めていくことにした。筆者がファシリテーター(=司会・進行役)を務め、第2回~第4回はゲストを迎える。ゲストとは綿密に内容を検討し、ワークを実践した回もあれば、予定外の話題で盛りあがった回もある。毎回、ゲームなどのアクティビティも用意し、緊張をほぐす工夫も凝らした。
本書は、そのような対話のリアルな記録だ。コラムや巻末の「作品案内」も参考にしつつ、あなたもこの場に参加しているつもりで読み進めてもらえたらうれしい。

それでは、そろそろ席について、対話を始めよう。

【目次】
はじめに
第1回 初めての対話
『プリズン・サークル』を観て
「わかりたい」と思うには
「違い」に出会う
第2回 真人さんとの対話
刑務所のリアル
犯した罪をめぐって
大切なものとサンクチュアリ
コラム おすすめの音楽
サンクチュアリが壊れたあと
第3回 翔さんとの対話
感情に気づき、感情を動かす
サンクチュアリをつくる
自らの罪を語る
コラム 感情をめぐるワーク
聴く・語る・変わる
第4回 山口さんとの対話
事件に遭遇して――山口さんの被害体験
コラム 事件後の子どもとの関係性の変化
少年の居場所
少年と会う
被害者と加害者が直接会うこと――「修復的司法」
コラム 修復的司法の個人的な取り組み
揺れていい
第5回 最後の対話
4回の対話の感想
根っからの悪人っているの?
おわりに
被害と加害のあいだをもっと考えるための 作品案内

■坂上香さんプロフィール
さかがみ・かおり/1965年大阪府生まれ。ドキュメンタリー映画作家。NPO法人out of frame代表。一橋大学大学院社会学研究科客員准教授。映画作品に『Lifers ライファーズ 終身刑を超えて』『トークバック 沈黙を破る女たち』『プリズン・サークル』(文化庁映画賞・文化記録映画大賞受賞)、著書に『プリズン・サークル』(岩波書店)などがある。

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