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山火事は「災害」じゃない?バンフ国立公園の対応から考える、自然災害がもたらすもの

  • 2023.10.19

地震、津波、干ばつ、洪水、台風、竜巻、火山噴火など、世界中で日々、さまざまな自然災害が起こっています。

そんな中、2023年は山火事のニュースをよく見かけたと感じる人は少なくないのではないでしょうか。

この記事では、カナダ国内随一の観光地でもあるバンフ国立公園でツアーガイドとして働き、常日頃から「自然」や「環境問題」について考えてきた私が「バンフ国立公園における山火事の対応」について紹介したいと思います。

日本でも報道されたカナダの大規模山火事

Photo by shutterstock

2023年のカナダは、前年に比べて山火事の多い年でした。

8月中旬には、ノースウェスト準州やブリティッシュコロンビア州などで大規模な山火事が起こり、多くの住民に避難命令が出たというニュースがありました。日本でも多くの方が山火事のニュースを目にしたのではないでしょうか。

私が住んでいたバンフの周辺でも、2023年には山火事が多く起きました。流れてきた煙で視界が悪い日が多くあったそうです。

Photo by Keiko and Tomoko

2023年に入ってから、カナダでは5,738件もの火災が起きており(2023/08/19時点)、オーロラが見られることで有名なイエローナイフでは2万人が避難したと報道されました。

5〜9月といえば、カナダでは山火事が頻発するシーズンではあるものの、現地報道によると「今年の山火事シーズンはカナダ史上最悪」とのこと。

カナダだけでなく、ハワイ、ギリシャ、スペイン領のカナリア諸島など、世界中で山火事が起きているというニュースも目にします。

カナダで山火事が多いワケ

カナダでは数百キロ離れた山火事の煙が流れてくることも

カナダでは、なぜこんなにも山火事が起きるのでしょうか。

一番大きな原因とされているのが「乾燥」です。乾燥しているところに、落雷や木と木の摩擦、キャンプの火の不始末といった原因が加わることで山火事が起き、瞬く間に広がってしまうのです。

カナダは世界で3番目に森林面積が大きい国であるため、そのぶん山火事の件数も多くなってしまいます。

アメリカのイエローストーン国立公園の山火事から学ぶ

Photo by pixta

1988年、アメリカのイエローストーン国立公園で大規模な火災が発生し、その範囲は広大な公園の約3分の1に及びました。山火事は大ニュースになり、そのショッキングな光景に、米国公園局に対する批判も多くあがったようです。

ところが、山火事のあった翌春には早くも草花が生え、その後は動物も戻ってくるなど、生態系がリセットされてむしろ正常に。自然は人間の想像を上回る回復をしたのです。

山火事の跡地に咲くことの多いファイヤーウィード

それまでバンフ国立公園では、山火事が起きるとすぐに消火活動を行なっていました。実際、バンフ国立公園が設立された1885年当時には、山火事を「景観を壊す悪者」とし、積極的にそれらを消火していたのです。現在でも至るところに「ファイヤー・ルック・アウト」と呼ばれる火の見台が残っています。

しかし、イエローストーン国立公園の山火事事例などに倣い、今では山火事をコントロールすることはあっても、基本的に消火はしない方針に切り替えました。雪が残って水分の多い5月には、人工的に山火事を起こすことさえあります。

かつて先住民たちは、動物が少なくなると、わざと山火事を起こして動物を集めていたのだそう。生態系の慣習を深く理解していたのですね。

山火事は「災害」なのか

Photo by Keiko Kawanami

イエローストーン国立公園の事例からもわかるように、山火事が自然界にもたらす影響は、必ずしも悪いものだけではありません。

山火事のメリットとしてまず挙げられるのが、森林の世代交代を促すこと。山火事が起こることで古い木々が焼け、森が健康で若い状態に保たれます。

また、草食性動物の餌場が作られるのも大きなメリットです。山火事によって背の高い木がなくなると、地面の日当たりがよくなります。そこに草花が生えて牧草地のようになるのです。

Photo by Keiko Kawanami

生態系がリセットされる点も重要です。「害虫」と呼ばれる生き物によって木々が枯れるなど、森林界でも病気が流行ることがあるのですが、山火事が起こると木々が燃えてなくなってしまうため、自然と病気やその元となる害虫も駆除されます。

さらには、子孫を残すために山火事が不可欠な種もあります。カナダに多く生えている松の木「ロッジーポールパイン」です。

Photo by shutterstock

ロッジポールパインは松の一種なので、松ぼっくりができるのですが、数年もの間、枝につきっぱなしの松ぼっくりも多くあります。これらは気温が45℃以上になると、松かさが開き種が落ちます。

しかしバンフの気温は、夏ですらめったに30℃を超えません。そんなバンフでも気温が45℃以上になることがあります。それはどんなときでしょう……?そう、山火事が起きたときです。

山火事によって気温45℃を超えると松かさが開いて種子が落下します。加えて、火事の上昇気流に乗ってその種子が上空に舞い上がり、山火事が落ち着いた頃に地上に着地するというわけです。山火事の後は木々がなくなって地面の日当たりがよくなるため、新たなロッジポールパインが大きく育つことができるのもポイントです。

バンフ観光の見方が変わる

Photo by Keiko Kawanami

山火事が人間が住むエリアにまで迫ってきてしまうと、人間にとっては「災害」ですので消火せざるをえません。ただし、自然界にとって山火事は必ずしも「害」ではないため、バンフ国立公園では「コントロールする」という方針をとっているのです。

バンフに住んで国立公園のことを学ぶうちに、「自然に起きることには何かしらの意味があり、人間にとっては不都合なことであっても、自然にとっては欠かせないものであることが多いものだ」と考えるようになりました。

自然の摂理を知ろうという姿勢でバンフを観光すると、見え方や感じ方が変化し、よりいっそう大自然の景色に感動して、このすばらしい景色を後世にまで残したいと感じます。

道路脇の森が一部焼け野原になっていたり、街に流れてきた山火事の煙で近隣の山が見えなかったりと、バンフにいると山火事を身近に感じる機会があります。みなさんもそういった自然界にまで思いを巡らせて観光してみると、それまで気づかなかった魅力や自然の逞しさを目にすることができることでしょう。

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