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74歳で旅立った谷村新司さん 石川啄木の愛読者だった

  • 2023.10.18
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石川啄木の愛読者だったという、谷村新司さん(画像はイメージ)
石川啄木の愛読者だったという、谷村新司さん(画像はイメージ)(J-CASTトレンド)

「昴」や「チャンピオン」の大ヒットで知られるシンガーソングライターの谷村新司さんが、2023年10月8日に亡くなっていたことがわかった。74歳だった。半世紀以上にわたって、音楽活動を続けた谷村さんは「いい日旅立ち」など、他の歌手に提供した曲も含めて、多数の作詞作曲でも知られた。

数百に及ぶ作詞

谷村さんは1948年生まれ。高校在学中にフォーク・グループを結成。1968年、シングル「どこかに幸せが」で東芝レコードからデビューし、71年12月には、堀内孝雄さんと「アリス」を結成。翌年、矢沢透さんも合流した。

シンガーソングライターの草分けの一人として、多数の作品を「作詞作曲」している。インターネットで検索すると、作詞は数百に及ぶようだ。同世代の井上陽水さん(1948~)や吉田拓郎さん(1946~)らと同じように、長期にわたって、日本のミュージックシーンをけん引してきた。

紅白歌合戦でも歌った「チャンピオン」や「いい日旅立ち」は、歌の主人公にまつわる人間ドラマや心の動きが、映像として目の前に鮮明に浮かび上がってくる。聴き手がストレートに感情移入できる作品として大ヒットした。代表作の「昴」は、宇宙的空間を舞台にした異色の歌で、アジア圏でも広く受け入れられた。

「死」のイメージが漂う歌も

「チャンピオン」は、不撓不屈の精神で闘って敗れ去った男の物語だが、谷村さんの作品にはさらに進んで、「死」のイメージが漂う、胸に迫るものも少なくなかった。

「群青」は、映画「連合艦隊」の主題歌なので、当然ながら「散華」がテーマになっている。若い兵隊が戦争を運命と受け止め、死なざるを得ない非情――粛然と頭を垂れて聴くしかない鎮魂の歌だ。

「Bye Bye Bye」のフレーズで知られる「帰らざる日々」では、「私は一人で死んでゆく」と歌い、「シェナンドー河に捧ぐ」では、年老いた男が「今こそ帰らん母なる海へ 身も心も帰らん」と、指で砂にしるす。

「葬送セレナーデ」という曲もある。「彼が死んだ 時の流れに逆らい」で始まるこの歌の主人公「彼」は、「たった一枚のハガキ」を残して逝った。その「彼」と、「それぞれの秋」に登場する「あいつ」とは、どこか重なるところがある。「ある雨の朝 見知らぬ町で 自ら命を終えた」、あいつ。その死を知ったのは、あいつのおふくろから届いた、「痛々しいほど細い文字」で書かれた一通の手紙によって、だった。

テレビなどでは、柔和な笑みをたたえていることが多かった谷村さん。音楽研究サイト「世界の民謡・童謡」の「昴 すばる 谷村新司 歌詞の意味・解釈」によると、学生時代は石川啄木の愛読者だったという。残された作品には、人生の不条理や哀愁を感じさせるものが少なくない。代表作の「昴」も含めて、謎めいた抒情詩のような歌詞の行間から、今も何かを問いかけ続けている。

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