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目標を達成できてもあなたの心が満たされない理由

  • 2023.10.13
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目標を実現できて心が喜びで満たされるのは束の間のこと。舞い上がっていた高揚感や興奮はすぐに消え去り、夜通し外に置いていた缶コーラのようにすっかり気持ちが冷めている。こんな経験ある? 今の人生は過去の自分が望んだ通りになっているけれど、心はなぜか満たされないまま。こんなふうに感じたことは?

もしそうなら、この種の不安は至って普通のことだと話すのは、オーストラリアを拠点とする実存主義の心理療法士であり、『It’s On Me』を著書に持つサラ・クブリック博士。

「人は夢や目標を達成すると失望感を感じることがあります。成し遂げたことが、自分の抱えている問題解決にならないことや、自分を幸せにするものではなかったことに気付くからです」とクブリック博士。

目標を達成しても、心が満たされないのはどうして?

実現したいことを次々に叶えていくことで、満足感を得られる人もいる。でもこれは、すべての人に言えることではない。「婚約したり昇進することが、人生の意味や目的を見出せなかったり、自分が嫌いだというような個人が抱える問題の解決にはつながらないからです」とクブリック博士。

夢を実現させると、その興奮が徐々に薄れていくのは普通のこと。

でも、そこから生じる可能性のある問題とは、実際に興奮に値するようなことは、自分の人生になにもないのではないかと恐れを抱くこと。「私たちの多くは、目標を設定し、その目標を叶えることだけに集中することで、人生のかなり重要な問いと向き合わなくて済むようにしているのです」

その目標を達成する価値や希望はないと言っているわけじゃない。クブリク博士いわく、自分は何者なのか、どんなふうに人生を構築したいのか、あるいは自分にとっての成功とはなにか、というような、より深遠な疑問があなたの中にあるかもしれないということ。より大きな満足感や充足感を得るためには、これらのことを探求していく必要がある(その方法は後で詳しく解説する)

モチベーション分子

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まずは、目標を達成したときの興奮がすぐに薄れてしまうときに、脳内でなにが起きているのかをみていこう。

『Rewire』を著書に持つ神経科学者のニコール・ヴィニョラによると、神経伝達物質のドーパミンに注目する必要がある。これは、インスタグラムの通知を見たり、旅行の計画を立てたりして、ちょっとした興奮を追い求め続けることを可能にする化学物質なのだそう。

「多くの人はドーパミンを“報酬分子”だと考えていますが、実際には“モチベーション分子”です」とヴィニョラ。「ドーパミンは、報酬を得るために努力を続ける動機を与えてくれます。つまりなにが起こるのかというと、目標を達成できた途端にドーパミンが減少するのです」

「昇進するために残業時間を増やしたり、ピンタレストを見て住みたい家のインテリアを計画したりする間はドーパミンが上昇しますが、目標を達成した後でドーパミンが不在になると、ポカンと穴が空いたような、“あれ?”という感覚になってしまうのです」

「多くの人が、ドーパミンを追いかけながら生きていると思います。これさえ達成すれば人生が“完成” すると考えているのかもしれません」とヴィニョラ。

もちろん、高揚感や多幸感をもたらすのはドーパミンだけじゃない。誰かと笑い転げたり、大好きな人と一緒にいたり、砂浜に座って海を眺めているときに心が満たされる感覚に浸れるのは、セロトニンのおかげでもある。ジムで運動すると多幸感を感じるのは、エンドルフィンによるもの。

後者の化学物質はモチベーションの段階よりも、目標を達成したときに分泌される。その瞬間をじっくり味わえると最高なのだが、ヴィニョラいわく、私たちの「で、次はなにを目標にする?」という文化が、これらの感覚にただ浸ることを難しくさせている。「問題は、未来に重点を置き過ぎていることです。複数のホルモンによる素晴らしい感覚を得られると、一呼吸をしてその瞬間をじっくり楽しむ代わりに、さて、次はどうする? とすぐに意識が未来に向きがちです」

それはあなたの目標? 他人の目標?

考えられる理由は他にもある。今の社会では、他人の期待に吸い込まれ、本来の自分に忠実な人生よりも、他人が「よい」と判断する人生のビジョンを追求してしまいがち。

「私たちにとっての行動や成功、人間関係とは、本来の自分と調和している場合にのみ私たちを幸福に近づけてくれます」とクブリク博士。

目標を達成できても満足感を得られるのがほんの一瞬であるなら、クブリク博士いわく、それが自分の本当の望みかどうかを自分に問いかけるのをやめていたり、他人を幸せにするために生きていたり、自分が何者かを理解できていない可能性がある。つまり、あなたが決断したなにかが、自分の本当の望みに一致していないことを意味している。

自分の夢を理解する

これをわかりやすく説明するために、クブリク博士はある例を挙げた。「私には、大学で学士号を取り、心理学者を目指していた友人がいました。でも彼女の家族は彼女が弁護士になることを望んでいたため、彼女は法律学校へ入学し、今では弁護士として成功しています。ですが彼女は、自分の成功に価値を感じられていません。今でも『セラピストだったら…...』と言っています。彼女が成し遂げた目標は、本来の彼女の望みと一致していないのです」

「自分が進みたい道にいないのは大きな問題でもあります。私たちは、仲間や両親、周りにいる人に形成されています。子供の頃、周りの友達全員が医者になりたいと言っていたら、自分も医者になるべきか、その道に進むべきではないかと考えがちです。ですがあなたは、創造性のある人です。要するに、人は決めた目標を達成しても、それが自分の本当の望みではなかったことに後で気付かされることもあるということです」とヴィニョラ。

自分についてもっと知る

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この話があなたの心に響いて、本当の幸せを目指していきたいと思っているのであれば、クブリク博士は、自分と交際するかのように自分自身について知ることを提案している。

「自分と付き合っているなら、なにについて質問したり観察したりしますか? どんな言動なら自分に親近感や安心感をもたらしてくれますか? 自分を理解してもらえていると感じますか? 自分自身を観察し、質問し、内省してみましょう。毎日一度でいいので、自分の思考や感情、身体と向き合ってみてください。例えば、今日自分について学んだことを日記に書くというような簡単なことも、自分を知るうえではとても役に立ちます」とクブリク博士。

価値観を明確にする

自分の価値観(勇気、平和、安全、楽しみ、思いやりなど、自分にとって重要となる核心的な資質)を明確にするようにヴィニョラは提案している。

そうすれば、他の人がしていること(マイホームを建てたり、旅行に行ったり、田舎に引っ越すなど)を見たときに、それはその人にとっての幸せであり、「自分は自分の人生をどう生きたいか」という核心には合致しないことだとすぐに気付けるようになる。

感謝、感謝、感謝!

正しい方向に進んでいる自信はあっても、それに対して喜びやありがたみを感じられないのであれば、感謝を実践するように専門家たちは口を揃えてアドバイスしている。

「人は“ネガティビティ・バイアス”(ポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすく、記憶にも残りやすい性質を持つこと)を持っています」とヴィニョラ。これは、森の中に危険が潜んでいると想定して事前に備えておく人のほうが、物事を明るく捉える人よりも生き残り、遺伝子を受け継ぐ有力候補だった時代にうまく機能していました。でも今は、脅威となる存在が茂みに隠れていないのなら、ネガティビティバイアスに支配されないことのほうが大切です」

自分が成し遂げたことや手に入れたものに対して喜びを感じる前に、このバイアスが存在することを思い出すようヴィニョラは提案している。

「人生に素晴らしいことがたくさん起きていても、私たちはそれに注意を払いません」とクブリク博士。「多くの人は、ポジティブなことには目を向けず、ネガティブなことや、私たちを“幸せ”にしてくれる“次のこと”ばかりに焦点を当てています。感謝をすることは、私たちのペースを落とし、自分にとって本当に意味のあることや価値のあること、喜びを感じられることに意識を向ける機会を与えてくれます」

「多くの人が幸せでない理由の一つは、幸せのためのスペースを自分に設けていないからです。うまくいっていることや意味のあることに対して、本当に幸せを感じるための時間をとっていないのです」とクブリク博士。

ヴィニョラいわく、これまでと変わらず、頻繁にネガティブな感情に悩まされる場合は、運動したり友達と過ごすなど、自分の気分をよくすることに真剣に取り組む価値がある。これに加えて、ソーシャルメディアなど、不満を煽る可能性があるものからは距離を置くことも大切。

最後に、成功しても心が虚しくなるゴールを掲げるよりも、長期的な幸福を追求したいと考えているあなたにクブリク博士がアドバイスをくれた。「その一、自分の考えを変えたっていいのです。不満や不足感を感じてなにか違うことを望んでも構いません」

「その二、あなたが変化し続けるにつれ、あなたを幸せにするものも変わっていきます。好奇心を持ち、柔軟性を保ちましょう」

「その三、あなたには変わる能力があるだけでなく、変わる責任もあります。自分が望む人生を生きる責任があるのです! あなたにはその価値があります」 ※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。Text: CLAUDIA CANAVAN Translation : Yukie Kawabata

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