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あなたの「恩師」がここに。自分を語れない人に読んでほしい、気づきの物語

  • 2023.10.13

職業を聞かれ、「記者っていうか編集者っていうか、まあそんなところです」とゴニョゴニョ答えると、「子どものころから文章を書くのが得意だったんですね」と誤解されることがある。

そんな記憶は、まったくない。作文も読書感想文も苦手だったし、入試の小論文も就活の履歴書も苦労した。日記だって、続いたためしがない。仕事で見聞きした他人のことは書けても、自分のことを書くのは苦手だし、それでもいいと思っていた。この本を読むまでは――。

古賀史健さんが書いた、『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)は、これまでにない、物語仕立ての「書き方」の本だ。みんなと一緒にいると自分ではいられなくなる、そんな「おとなのさみしさ」を抱える人を、「書くこと」によって見えてくる新しい世界へと導いていく。

主人公は、うみのなか中学校に通うタコジロー。いじられキャラの彼は自分のことが嫌いで、学校にも居場所がない。ある日、不思議なヤドカリおじさんと出会ったタコジローは、おじさんから「書くことは、自分と対話すること」だと教わる。その日から彼の中で、何かが変わっていく。

こういう先輩にいてほしかった

古賀さんは、ベストセラー『嫌われる勇気』をはじめ、自己啓発書やビジネス書のライターとして知られている。これまでにもライター向けの文章本を出しているが、中学生に向けて、しかも物語を書いたのは今回が初めての試みだ。

自身の中高生時代を振り返り、「恩師と呼べる人がいなかった」と言う古賀さん。社会に出てからも、手取り足取り教えてくれる先輩はおらず、書く技術は仕事をする中で身につけていった。だからこそ、「誰かにとって、こういう先生や先輩がいてほしかった、という存在になりたい」という思いで書いているという。

物語仕立てにしたのは、ポプラ社の編集担当・谷綾子さんの発案だ。オフィス近くの中学校の生徒に感想を聞き、どうしたら面白く読んでもらえるか、二人で試行錯誤しながら時間をかけて作り上げた。

約束のひもは結び直せる

古賀さんは原稿の「締め切り」を「編集者との約束」と表現する。そうすることで、「それは破っちゃいけないよなって、素直に思えるんです」と言う。

「一方的に命ぜられたことって考えるんじゃなくて、自分から率先して約束したことであれば破らないよね、っていうふうに、ぼくは思っています。」

その考え方は、日記にも通じる。書き続けるという「自分との約束」は、もちろん守れないこともある。「でも、一度ちょきんって切れたらもう終わり、じゃないんです。約束のひもは、何度でも結び直すことができるものなので」。やさしくそう説く古賀さんは、ヤドカリおじさんそのものだ。

「書くのはしゃべるより面倒くさい」と言うタコジローに、ヤドカリおじさんが「それは、手を動かすのが面倒なのではなく、考えることが面倒なんだ」と諭すシーンがある。「考えるとは、答えを出そうとすることだから」と。そのことばに、ドキリとさせられた。仕事ならいくらでも書けるのに日記が書けないのは、自分のこととなると考えるのが面倒になるからだ。これまで、悩みや疑問に自分で答えを出すことを、放棄してきたのではないか。

これを機に、日記をつけることにした。きっと何度も約束のひもを結び直すことになるだろう。それでも、「今度は続けられる」という確信めいたものがある。数年後に「わたしの物語」を読み返すのが、楽しみだ。知らないままでいなくてよかった、とほっとした。そんな本に、久しぶりに出合った。

■古賀史健さんプロフィール
こが・ふみたけ/ライター。1973年福岡県生まれ。1998年、出版社勤務を経て独立。主な著書に『取材・執筆・推敲』『20歳の自分に受けさせたい文章講義』のほか、世界40以上の国と地域、言語で翻訳され世界的ベストセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著)、糸井重里氏の半生を綴った『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著)などがある。2014年、ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして「ビジネス書大賞・審査員特別賞」受賞。2015年、株式会社バトンズ設立。2021年、batons writing college(バトンズの学校)開校。編著書の累計は1600万部を数える。

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