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内野聖陽さん、「当たって砕けろ」の心意気 踏み出せば見える新たな世界

  • 2023.10.13

デビューから30年、数々のドラマや舞台で活躍してきた俳優の内野聖陽さん(55)。10月13日から公開の映画「春画先生」でも主演を務めています。インタビュー後編では、がむしゃらだったという自身の20代、30代も振り返りながら、「やりたいことがあっても一歩踏み出せない」人へのメッセージなどを聞きました。

演技の探求は「底知れない未来を見つめる感覚」

――春画研究者である主人公「春画先生」の好きなものにのめり込んでいく悦びと情熱は、内野さんが役者にかける熱量に共通するところがあるように思いましたが、ご自身ではどこか似ているなと思う部分はありましたか?

内野聖陽さん(以下、内野): 作中で「春画という底の知れない海を泳いで、自分はどんな作品と出会うことができるのか。どういう絵と出会うべく、自分は運命づけられているのか」という春画先生のセリフがあるのですが、ここの部分を台本で読んだ時、自分と同じような感覚だなと思ったんです。僕は演技について、無限に探求していきたくなってしまうところがあるのですが、それはどこか底知れない、未来を見つめているような感覚もあるんですよね。これから先、どんな監督や共演者の方と出会い、どんな作品に出会えるのかな?といった思いが僕の心を突き動かしているので、そういうところは春画先生と似ているかなと思います。

――その探求心は、果てしなく終わりのない道ですね。

内野: そうなんです。欲を出せばどんどん深海に潜っていってしまいそうになるので、春画も役者も、深みにはまればはまるほど、その魅力に取りつかれて追求したくなってしまうところはあるかもしれないですね。

朝日新聞telling,(テリング)

若い頃とは違う山の登り方になってきた

――内野さんは1993年にデビューして以来、ずっと役者としてご活躍されていらっしゃいますが、今の仕事を続けるうえで不安に思ったり悩んだりしたことはありましたか。

内野: 20代、30代の頃は、不安がっている暇なんてなかったし、上しか見ていなかったです。当時は「自分には才能なんかない」と思っていましたし、実際にそれほどの力も持っていなかった。目の前にある山を、ただがむしゃらに登っていくしか方法がなかったので、ひたすら「自分の信じた感性でこの道を突き進むしかない」と思いながらやっていました。

――年齢を重ねることで、仕事に対するスタンスや考え方に変化はありましたか?

内野: へこたれそうになった時は「この作品を期待している人がいるんだから、頑張らなくっちゃ」と、若い頃とはまた違う山の登り方をしているかもしれません。あとは「このままだと若い人たちに負けちゃうぞ!」と、自分をたきつける方法は随分と変わってきている気はします。

今は「どうしたら一演技者としてこの作品を盛り上げられるかな」とか、「演技者以外でも気づいたことはどんどん提言してきたいな」などという思いが強いですね。色々と実人生を重ねてくると、作品の中での役者を全うすることでなにかを社会に還元できたらという思いもありますね。

朝日新聞telling,(テリング)

やってみたら、違う風が吹くことも

――telling読者の中には「やりたいことはあっても、なかなか一歩が踏み出せない」という人も。ぜひ、アドバイスを頂けますか。

内野: みなさんの抱えている不安に対して、いい加減で無責任なことは言えませんが、やってみなくちゃ分からないことって世の中たくさんあるんですよね。僕自身も、不安になることや心配性な部分はありますし、人間の脳って色々な不安を抱えがちなんです。それでも、やってみたら案外大したことなかったり、やってみたら違う風が吹いてきたりすることって、実は結構あるんですよ。

今はネットからたくさんの情報を得られるので、そういうものに振り回されて、揺れ動いてしまうこともあるかもしれない。でも、もし何か漠然とした不安を抱えているのであれば、「まずはやってみちゃえよ!」と思うんです。これは自分へのアドバイスでもあるし、僕からみなさんへお伝えできることかなと思います。

――映画「春画先生」のヒロイン・弓子さんも、自分の直感に突き動かされて春画先生の元に行った人ですね。

内野: そうそう。始めの頃は不安そうな顔をしていてね(笑)。いったんは帰ろうとするけど「春画のことや先生のことをもっと知りたい」という思いから、大きな一歩を踏み出した。それによって見えるものも変わってくるし、どんどん強くたくましくなっていきましたね。

朝日新聞telling,(テリング)

――その一歩を踏み出すまでが、勇気のいるところですね。

内野: まずは自分の足で動いて、その目で確認してみる。それは割と原始的でタイパが悪いとか言われちゃうかもしれないけど、僕の中では「当たって砕けちまいな」精神が割とあるんです。「それで砕けるんだったら、その程度のものだったんだよ」と納得できますしね。

僕も頭でっかちになりすぎてしまうところもあるのですが、それは人間の悪いところだと思うんですよ。たかだか、これくらいの大きさの脳みそで不安がっていたってしょうがないじゃないですか! ウジウジしている暇があったら、思い切ってそこから飛び出してみたらといいと思います。きっと、世界は自分が思っているよりももっと広いですよ。

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■田中舘 裕介のプロフィール
フォトグラファー。 1984年生まれ 岩手県出身 出版社写真部を経てフリーランス

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