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世界が注目するイギリスの新鋭「日本のゲームで培った感覚が映画作りに深く関係している」

  • 2023.10.11

多くの女性たちが憧れている世界の代表格といえば、華やかな美容業界。ですが、今回ご紹介するのは、そんなイメージを打ち壊すようなスター美容師殺人事件を全編ワンショットで描いて話題となっている1本です。

『メドゥーサ デラックス』

【映画、ときどき私】 vol. 603

年に一度のヘアコンテストに向けて準備が進められていたが、開催直前に優勝候補と目されていたスター美容師が変死を遂げる。しかも、奇妙なことに頭皮が切り取られた姿で発見されたのだ。

会場に集まっていたのは、「今年こそ優勝する」と誓って意気込んでいた3人の美容師と4人のモデルたち。さらに主催者や恋人、警備員らを巻き込みながら、事件や人間関係に関する噂と疑念が渦巻き始める。容疑者とされている11人に明かされる真実とは…。

ミステリーの名作を数多く生み出してきた英国から、新たに誕生したゴシップ・ミステリー。気鋭の映画スタジオ「A24」が北米配給権獲得し、世界中の映画祭を席巻している本作について、こちらの方にお話をうかがってきました。

トーマス・ハーディマン監督

短編映画が高く評価され、BBC FilmsとBFI(英国映画協会)の支援によって本作で長編デビューを果たしたトーマス監督。長編初監督ながら見事な演出力と構成力を見せ、映画界でも注目を集めています。そこで、撮影の裏側やタイトルに隠された思い、そして日本から影響を受けていることなどについて語っていただきました。

―今回、美容業界を舞台に映画を撮ろうと思ったのは、なぜですか?

監督 母は髪を大事にしていた人なので、髪への情熱は母から受け継いだものだと思います。まだ僕が幼かった頃、怖がりだった僕を母がいつも外に連れ出してくれたのですが、母はなぜか週に1か2回も美容院に行っていたのです。そういったこともあって、僕は美容院で育ったと言えるんじゃないかなと。ファッション雑誌もそこで初めて手に取り、おかげでファッションに興味を持つようにもなりました。

その後、アートや文学、映画といった世界に触れていくなかで気が付いたのは、そこにあるヒエラルキーは美容の世界にも同じようなものがあるということ。そこから、どんどん自分の目が開かれていくようになり、映画として描きたいと思うようになりました。

女性が引っ張っていく物語を作りたかった

―『メドゥーサ デラックス』というタイトルには、どういった意味が込められているのでしょうか。

監督 いまお話した母が通っていた美容室は、劇中にコンテストの主催者として登場するレネのモデルでもあるオズワルドさんという方がオーナーの「オズワルドズ」という名前のお店でした。ところが、僕が実家を離れたあとに、彼は亡くなってしまったのです。

その後、どうなっていたのかは知らなかったのですが、久しぶりに地元に戻ったときにお店を訪れてみると、違うオーナーが経営している「メドゥーサ」という美容室に変わっていたんです。それは自分にとっては大きな驚きでした。

あと、「メドゥーサ」には魔女のように知的で強い女性が社会や男性から迫害されているイメージがあるので、性差別的な要素があると感じていました。そういうなかで、神話を再解釈し、女性が引っ張っていく物語を作れたらいいなと。なぜなら、僕の母には7人の姉妹がいて、つねに女性たちに囲まれて育った経験があったからです。ぜひみなさんにも、新しいものを受け取っていただきたいと考えています。

きっかけとなったのは、美容系のYouTube

―なるほど。また、本作で話題となっているのは、これだけの展開を全編ワンショット撮影で行ったことですが、どういった経緯だったのかを教えてください。

監督 いままでと違う映画にしたいと思っていたので、脚本を書いている段階から「ワンショットで撮りたい」というのは考えていました。きっかけの1つとしては、年の離れた兄の娘たちが見ていた美容系のYouTube。彼女たちの母親が亡くなってしまったので、代わりに彼女たちの面倒を見る機会が多くなったのですが、そのときにそういう動画をずっと一緒に見ていたんです。

そこで気が付いたのは、人が何かをしている様子を長いショットで追っていくことに、我々も自然と慣れてしまっているということでした。YouTubeの環境によって、物の見方も変わってきましたが、長回しをすることでキャラクターによるドラマも生まれるのではないかなと思ったのです。ワンショットによる状況的な面白さもありますが、僕はそうやって出てくる感情や人間の様子にも興味があるので、それをけん引してくれた俳優たちには感謝しています。

―とはいえ、撮影にあたってはかなり緻密な準備が必要なので、大変だったのではないかなと。

監督 今回は9日間しか撮影期間がなかったので、事前にZoomを使って俳優たちとリハーサルをしたり、iPhoneやノートパソコンを片手に撮影の確認をしたりして、構築していきました。僕たちは野心的で夢もありますが、お金がなくて(笑)。なので、そういうやり方をするしかありませんでした。とはいえ、映画作りというのはそもそも簡単なことではないので、そういう意味では全体的によくできたんじゃないかなと思っています。

―なかでも苦労したのはどんなことですか?

監督 やっぱり赤ちゃんがいるシーンは、大変でしたね。というのも、実は今回は双子の赤ちゃんを起用していたんです。1人はよく泣く子で、もう1人は全然泣かない子だったので、シーンによって使い分けています。

つねに新しい世界を作り出すチャレンジをしている

―舞台となるホールは、非常に複雑な構造の建物でしたが、そこも本作には欠かせない要素だったと感じました。場所は先に決まっていたのでしょうか。

監督 脚本を書いているときは自分の頭のなかだけにあったので、どういう場所になるかはまったくわからない状況だったんです。その後、ロケ地探しをしたのですが、イギリス中のコンベンション・センターやホールを見て回りました。そして、ついにイギリス北部にあるプレストン・ギルドホールという施設を見つけたんです。本当に完璧な場所だったなと思います。

―劇中に登場するヘアスタイルはどれも素晴らしいものでしたが、ヘアメイクはレディ・ガガのヘアメイクなどをはじめ、“ヘア界で最も独創的なスタイリストの一人”と称されているユージン・スレイマンさんが担当されたとか。彼の仕事ぶりを間近でご覧になっていかがでしたか?

監督 彼はシャネルやルイ・ヴィトン、イッセイ ミヤケなどさまざまなトップブランドとコラボをしていますが、僕は彼の仕事をずっと追いかけてきました。彼にどれだけ才能とスキルがあるかはわかっていたので、ぜひ映画に参加してほしいとお願いをしたのです。

彼はいろんなものをぶっ壊すパンクの世代ですが、僕もこれまで存在していた範疇から刷新していく世代なので、そういう意味では2人とも同じような感覚を共有しているのではないかなと。年齢も育った環境も違いますが、つねに新しい世界を作り出すチャレンジをしているところが似ていると感じています。実際、この作品ではこれまでにない方向性であっても好んで挑戦してくれました。

日本のカルチャーが自分の血となっている

―キャラクターによって違うさまざまヘアスタイルの数々には、ぜひ注目ですね。また日本についてもおうかがいしたいですが、どのような印象をお持ちですか? 好きなものはありますか?

監督 それはとてもいい質問ですね。というのも、僕はまだ日本に行ったことがないのに日本が大好きで、コム・デ・ギャルソンやジュンヤ ワタナベといった日本のファッションから影響を受けたり、ポール・シュレイダー監督が三島由紀夫を題材にした映画を観たりしてきました。

それから、多くの映画作家が子ども時代からカメラを手にしていたという話はよく聞きますが、僕の場合は任天堂のゲームだったんですよ(笑)。「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」でよく遊んでいましたが、それらのゲームで培った感覚というのが僕の映画作りには深く関係していると思っています。そんなふうに、自分の意識と日本は深くリンクしていると感じるので、僕にとっては日本のカルチャーが自分の血となっているような気がしているほどです。

―確かに、本作のカメラワークもゲームのような視点が生かされているように感じました。それでは最後に、ananweb読者に向けて、注目してほしいポイントなどについて教えてください。

監督 今回は、コアレスというミュージシャンに音楽をお願いしましたが、彼はメドゥーサの蛇が動くような音を作ってくれていて、それには僕自身も非常に驚きました。僕の映画のために、才能豊かな人が自分なりの解釈を加えて新たなものを生み出してくれて、本当に光栄に思っています。

観客のみなさんにも新しい体験をしていただきたいので、映画を観たあとにスキップしてしまうほど楽しかったと思ってもらえたらうれしいです。

息を飲む緊張感が味わえる新感覚ミステリー!

まるでその場にいるような圧倒的な臨場感と、見たこともないような圧巻のヘアメイクが堪能できる本作。ワンカットによる驚異の映像はもちろん、本格的でありながら斬新な展開も楽しめる必見のミステリー作品です。

取材、文・志村昌美

引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『メドゥーサ デラックス』
10月14日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:セテラ・インターナショナル

️(C) UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021

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