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異なるふたつの個性が生み出す器。陶芸家・郡司製陶所のものづくり 【コウケンテツのヒトワザ巡り・番外編】

  • 2023.10.11

料理家のコウケンテツさんが作り手と語り合い、ものづくりの背景を探るリンネルの連載「コウケンテツのヒトワザ巡り」。第4回では、夫婦で作陶を続ける、益子の郡司製陶所を訪ねました。ここでは、誌面に書ききれなかったおふたりのエピソードを詳しく紹介します。

【郡司製陶所】 郡司庸久さん、慶子さんの夫婦で作陶。ともに栃木県窯業指導所にて陶芸を学んだ後、庸久さんが2003年に栃木県足尾町(現在の日光市)に開窯。2004年より共同制作を開始。2015年、栃木県益子町に移窯。 インスタグラム@tsunehisa_keiko_gunji 【コウケンテツさん】 料理研究家。旬の素材を活かした韓国料理をはじめ幅広いレパートリーを気軽に作れるレシピが人気。雑誌をはじめ、テレビ、SNS、YouTubeなど多方面で活躍中。 インスタグラム @kohkentetsu YouTube @kohkentetsukitchen  

“陶芸の学校”で、作陶のおもしろさに目覚める

取材当日は、コウさん自身も陶芸にチャレンジ。コウさんのリクエストで生まれた「ひとり用土鍋」の取っ手をつくりました

古くから、焼きものの里として知られる栃木県益子町。自然に恵まれたこの地に2015年に工房を構え、夫婦の共同作業によって多彩な器を生み出しているのが、郡司庸久さん、慶子さんによる「郡司製陶所」です。

ふたりの出会いは、窯業を目指す人々へ陶芸の技術を伝える、いわば学校のような「栃木県窯業指導所(現・窯業技術支援センター)」。陶芸家の両親や祖父のもとで育った庸久さんは、親の勧めでその指導所へ入学し、次第に陶芸のおもしろさに開眼していったそう。

「高校時代から親の仕事を手伝ったり、土を練るバイトをしていましたけど、そこまで陶芸に興味はなくて。でも、学校でいろんな課題をこなしていくのは楽しかったですね。少しずつ自分が上達していくのも分かりますし」(庸久さん)

工房の一角にある慶子さん専用の作業室。「器の文様を彫るなどの細かい作業はここでしています」(慶子さん)

流れの中で始まった共同作業

美大を卒業した慶子さんが、同じ指導所へ入学してきたのはその1年後。

「大学卒業後に父が転勤になったので、ひとりで東京にいてもなあ……と思って、たまたま益子に来てみたんです。当時は指導所に通いながら、益子のショップ『スターネット』で制作の仕事をしていました。絵を描いたり、シルクスクリーンをしたり。そのときから器の絵付けもやっていましたね」(慶子さん)

グレーと青が混じり合ったようなニュアンスのある色味が美しい型打ちプレート

衣食住にまつわるアイテムを幅広く手がけていたスターネットには、服、料理、美術……と各ジャンルで活躍する人々が集まり、文化発信拠点としての役割も担っていたそう。

「そのスターネットの店主の馬場さんが、陶器市で郡司くんに声をかけてくれて。『ふたりでやったらいいじゃない!』って。その流れで一緒に作ることになったんです」(慶子さん)

コウさんのリクエストした「ひとり用土鍋」の原型。「ごはんを炊いたり、お肉と野菜を煮込んだり……。そのまま食卓に出せるサイズが理想です」(コウさん)

実践を重ね、「郡司製陶所」としてひとり立ち

思わぬきっかけからふたりで作陶し、毎月スターネットへと作品を卸すことになった庸久さんと慶子さん。

「次はマグカップ、次は花器……と馬場さんが次々に課題をくれたんです。その期間が陶芸家としての実践勉強みたいなものでしたね。最初は、それこそ納品書の書き方も知りませんでしたし」(庸久さん)

「私はお店に並んだものがどう動いていくかも見ていたので、次にどういうものをつくるのかお店とも相談しながら、郡司くんへ伝えて。博物館に行ったり、さまざまな作品を観に行ったりする中からアイデアのヒントをもらって、作りながら実験していきましたね。新しいものを作っては、『こんなの作ってみたんですけど……』と緊張しながら馬場さんに見てもらって。よければ『いいじゃない』と言ってもらえるし、よくなければ何も言われない。作家として独立していたとはいえ、3年ほどは勉強させてもらったと思っています」(慶子さん)

こちらはコウさんが作った土鍋の取っ手。「ぎょうざと、わが家で飼っているカエルの口をイメージしました(笑)」とコウさん

得意分野が異なるからこそ、一緒にできる

明確な言葉で伝えるのが難しい郡司製陶所の制作スタイルですが、ふたりの間に流れているのは、枠にとらわれない自由な空気。「これが作りたい」「これがやりたい」という思いが先行しているのではなく、あくまでも流動的なものだとふたりは話します。

ひとつの器が生まれるまで、「何を作ろうか」とふたりで話し合って決めることもあれば、携わっているスタッフや、作品を扱っているお店の人と一緒に作ることも。ふたりのアイデアにほかの人の感性や得意なことが加わり、また新たな作品が生まれていく。だからこそ、人と作ることが楽しいと感じられるのだそう。

レストランのメニューに例えるならば、それは「季節のスープのようなもの」。季節によって使われる食材は異なりますが、「スープを作る」という点は同じ。組み合わせが変われば、おのずとできあがるものの有り様も変わっていきます。そうした自由な取り組みを楽しみながら、これからも多彩な作品が生まれていくのでしょう。

今年家族に迎えたばかりの愛犬、momoちゃんと。自宅は工房ともつながっています

自然に恵まれた益子の工房。「益子に住んでいると、目に映るのが自然ばかりなので、おのずと動植物がモチーフになるんです」(慶子さん)

郡司製陶所の作品が購入できるイベントも開催中

2022年10月に開催し、好評を博した「コウケンテツのこれええで展」。現在、待望の第2回を開催中です。本企画で取材した郡司製陶所のプレートをはじめ、コウさんの愛する器や調理道具を販売しているので、急いでチェックして!

【コウケンテツのこれええで展2】
場所:阪神梅田本店7F イベントウエスト
日時:10月4日(水)〜17日(火) ※最終日は午後6時まで
※イベント詳細は随時公式インスタグラムにて公開していきます
インスタグラム @hanshin_ls_event

photograph : Shinsaku Kato text :Hanae Kudo
リンネル2023年11月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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