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松坂桃李さんが家庭をもって変わった「自分以外という視線」

  • 2023.10.9

暴力団との壮絶な抗争劇を繰り広げる刑事から、女児誘拐事件の加害者とされる青年、さらには夫婦で「離婚」を目指す三世議員のポンコツ夫まで、演じる役ごとに顔つきや雰囲気までもがガラリと変わり、様々な面を見せてくれる俳優の松坂桃李さん(34)。10月13日公開の映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」では恋に仕事に迷うアラサー男子を演じています。そんな松坂さんに起こった最近の変化や、「一歩踏み出すために大切なこと」、これからやっていきたいことなどについてうかがいました。

時間のやりくりが自然とできるように

――映画「ゆとりですがなにか インターナショナル」の中で、岡田(将生)さん演じる正和が「自分は古い考え方なのかな?」「アップデートしなきゃ」と言うシーンがありましたが、松坂さんにも「これまでのやり方や考え方ではダメだな、変えていかなきゃ」と思ったことはありましたか?

松坂桃李さん(以下、松坂): 最近のことだと、セリフの覚え方ですね。結婚する前は、喫茶店など家の外で覚えることも多かったんですけど、家庭をもったことで、家でセリフを覚える機会が増えました。でもそれは「変えなきゃ!」と思って強制的にそうなったわけじゃなく「家にいる時でも、合間をみつけてやればいいんだ」と、時間のやりくりが自然とできるようになったんです。

朝日新聞telling,(テリング)

――松坂さんは今年で35歳に。年齢を重ねてきたことで見えてきたものや、価値観や人生観に変化があったことはありましたか?

松坂: やっぱり子どもが生まれたことが大きいです。ニュースやドラマ、映画などを見る目線がちょっと変わったというか、親目線で見ることが増えたのは僕にとって大きな変化でした。今までは、わりと自分に関係していることや、同年代の人に関わることなどに目がいきがちでしたが、「自分以外」という別の角度からの視点もプラスアルファされた捉え方や考え方をするようになりました。

――「親の目線や気持ち」で言うと、映画の中で安藤サクラさん演じる正和の妻・茜が、産後うつへの思いを吐露するシーンが印象的でした。松坂さんはあの時の茜のセリフをどう感じましたか?

松坂: 隣で聞いていても「そうだよな」と共感することばかりでしたね。子どもって一人でも大変なのに、茜ちゃんのところは二人もいるんだから、それは大変だよなぁって思いながら聞いていました。

――茜は「今、娘たちのこと忘れられた」とうれしそうに話していましたが、時には親が子どものことを忘れてひと息つくのは、決して悪いことじゃないんだと思わせてくれるシーンでした。

松坂: そうですよね。自分の中では「別にそれでもいいじゃん」と思っていても、それを口にして外に発信することによって「自分の子どものことを忘れるなんてダメじゃん!」といった、世間の人たちが思う「常識」を一気に気にしてしまうことになる。多数決でいえば、親が子どものことを忘れてホッとするなんて「悪い人」と思われてしまうのかもしれないけど、「そんな世間体を気にしなくてもよいよね」というメッセージが含まれているようで、そこにも宮藤さんの優しさがすごく出ているなと思いました。

朝日新聞telling,(テリング)

一歩踏み出したい理由をもう一度考えてみる

――telling,読者世代の中には「やりたいことがあっても一歩踏み出せない」という方も多いのですが、松坂さんもそういった経験はありますか?

松坂: 一歩踏み出すことって、なかなか難しいと思います。30代、40代になってくると、段々自分のやっている仕事やポジションが固まってきて、ちょっと余裕もできてくる。でも、今度はそれを守るために頑張っているようなところもあったりするので、そこからまた新しいことに挑戦するのは、ちょっとした怖さもあると思うんです。その気持ちは僕もよく分かります。

――何かアドバイスがあれば、ぜひ!

松坂: 「なんで自分はそれを始めたい、挑戦したいと思うのか」を、一度じっくりと考えてみるのもいいかもしれません。もしかしたらそれは「無理に踏み出さなくてもいい、そんなに頑張らなくていい一歩かもしれない」と思うこともあるだろうし、よくよく考えてみると「やっぱりこれは自分にとってすごく大事な一歩だから、踏み出してみよう!」と、スッキリして、考えがまとまるかもしれない。その一歩を踏み出すのを思いとどまっているのはなぜなのかを、一度しっかり考えてみることは大事なんじゃないかなと思います。

――結論を急がず、いったん冷静になって考えてみることが大切なんですね。年齢を重ねると勢いだけではできなくなってくることもありますよね。

松坂: 僕も勢いと運だけでここまできたのであまり偉そうなことは言えませんが、一歩引いて冷静に考えたら、自分にとって何が大事なことなのかが分かってくると思うんです。それに、年齢を重ねていくとその分責任も重なってくるので、今の自分がいるポジションのバランスをどう保ちながら前に進めばいいのかも、考えなければいけないことかもしれませんね。

朝日新聞telling,(テリング)

「意味のある」作品を作っていきたい

――松坂さんがこれから踏み出してみたいことは何かありますか?

松坂: 改めて「エンターテインメント」というものをちゃんと考えていくことが大事だなと思っています。もっともっと皆さんに楽しんでもらえる、考えてもらえる、そして次の世代に残せるものを作っていきたいですし、意味のあることをこれからもやっていきたいです。

――「意味のあること」というのは、具体的にどういったことでしょう。

松坂: 例えばですが、戦争を描いた作品は日本では年に1作品以上作られるじゃないですか。ニュースでも報道するし、特番も組まれることも多いと思います。アメリカや他の国ではどうなのか。そういう作品を、日本だけでなく、他の国にも広く届けられるようになったらいいなと思います。

それに、自分の子どもが大きくなって物心がついた時に「こういうことがあったんだよ」と実体験として戦争のことを語り、伝えられる人がいなくなってしまう。だからこそ、僕らが形としてしっかりと次世代に残せる作品を作っていきたいと思っています。

――戦争によって日本で何が起こったのか、他の国ではどんなことがあったのか、まだまだ知らないことのほうが多いかもしれません。

松坂: 僕らより若い世代の方たちもそうですが、きっとみんな知らないだけなんですよね。なので、まずは「知ること」が大切だと思います。僕もこれまで何作か戦争を描いた作品に出演させていただきましたが、まだまだ知らないことがたくさんあるので、ちゃんとインプットしながらアウトプットして形に残せる作品を作ることは、役者として常に心にとめながらやっていきたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

――そういう考えを持つようになったのはいつ頃からですか?

松坂: わりとここ最近かもしれません。それも、家庭をもったことが大きいですね。家族ができたことでより責任を背負うようになりましたし、年を重ねると同時に体は老いていきます。その中で「じゃあこれからは何ができるんだろう」と考えた時に、この仕事をしているからこそ形として残せるものは作品しかないので、そこに力を注げるように、これからもやっていきたいなと思うようになりました。

ヘアメイク:Emiy 、スタイリスト:丸山晃

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■大野洋介のプロフィール
1993年生まれ。大学卒業後、出版社写真部に所属した後、フリーランスとして活動中。

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