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【漫画ミュージアム】学芸員と巡る「デビュー50周年記念 文月今日子展」

  • 2023.10.7

こんにちは、地域特派員のAimeeです。

今回は、北九州市漫画ミュージアムで開催中の「デビュー50周年記念 文月今日子展」にお邪魔してきました。

文月先生は1953年に愛媛県で生まれ、ご両親の都合で北九州市へ引っ越して来られた方。70年代に結婚されて以降はずっと下関に住み、その縁でこれまでも度々、漫画ミュージアムのイベントに関わってこられた漫画家さんです。

展示作品のコンセプト

今回の「文月今日子展」では、文月先生が漫画ミュージアムに寄託した作品の中から、約400点を一挙公開。原画はもちろん、作品ができあがる過程を知ることのできるプロットや設定資料、進行表といった貴重な資料も多数展示されています。これらの展示作品は一体、どういったコンセプトで選ばれたのでしょうか……?

「今回の展示会では、先生が折に触れてこういう作品が好きとおっしゃっているものを、まず最初に出しました。あとは、1973年にデビューして、ファンの方が好きという作品は重点的に出しています。あとは80年代、90年代もコンスタントに作品を出されてるので、その時期のものもバランスよく。漫画好き、イラスト好きな人間が集まって絵を持ち寄ったり、同人誌を発行したりするアズ漫画研究会という会があるんですが、先生は初期からのメンバーなので、その活動も少しご紹介しています」そう教えてくれたのは北九州市漫画ミュージアムの柴田さん。今回、展覧会を案内してくださる「文月今日子展」の担当学芸員さんです。

「デビュー50周年記念 文月今日子展」のミカタ

あるあるシティ5階、北九州市漫画ミュージアムの企画展示室を訪れると、まず目に入るのがこの特大パネル。

出典:リビングふくおか・北九州Web

受付の後ろにも鮮やかな色彩が印象的なパネルが設置され、こちらは原稿を模した遊び心あふれるデザインとなっています。

出典:リビングふくおか・北九州Web

順路をいくと、展示エリア入口に一枚のパネルが飾ってあるのが見えました。「ヤマダトモコさんインタビュー」と書いてありますね。柴田さん、これは一体……?

出典:リビングふくおか・北九州Web

「今回、原画を見て楽しんでいただくというのはもちろんなんですけれども、明治大学 米沢嘉博記念図書館という漫画に特化した図書館がありまして、ヤマダトモコさんという研究員の方がリアル世代の文月先生のファンで、今回は研究者というだけでなく、ファン目線でも先生の作品の魅力を語ってもらいました。どういうところに魅力を感じたんだろうか、というのを語っていただいたパネルが展示室内にいくつかあって、こちらも読みどころのひとつです」

後ろを振り返ると、また別のパネルが飾ってあります。こちらは「特別企画 文月今日子展דゲンガノミカタ”」となっていますね。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「展示室には、木が背景のパネルがいくつかあるんですけど、これはいわゆる直筆原稿の見方や読み方、例えば写植が剝がれているとか、先生の手書きの文字が書いてあるとか、これはどういうことだろう?とか、原画にある情報を知りたい方へのご案内になります。基礎知識となってますが、そんなに難しい話ではなく、「こういう見方もあるよ」ということを解説しているので、ぜひ作品と一緒に見ていただけたらと思います」

なるほど。こうした技術的な視点からのガイドがあれば、作品世界への理解がさらに深まりそうです!

企画展示室A

パネル紹介が済んだところで、さっそく最初の展示室(企画展示室A)に入っていきましょう。同展は展示エリアが3つに区切られていて、この緑の床の部屋は、主に70年代から80年代の初期作品を展示しています。

出典:リビングふくおか・北九州Web
出典:リビングふくおか・北九州Web

展示室の入口正面に、さっそく文月先生の漫画原稿が飾ってありました。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「これは『地中海のルカ』という、とても有名な作品なんです。先生の構成力、パースの美しさがよくわかる作品です。主人公のきれいさ、とっても上手いっていうことが分かっていただける絵を抜粋で選んでいます。あとは顔が可愛らしいとか、主人公の相手の男の子がかっこいいとか、そういう点でも選んでますね。地中海のルカはカルタゴが舞台で、架空の首領である14歳の女の子が、ローマ軍の敵と邂逅する……まさに一大叙事詩なんですが、カルタゴの激動の話を一話読み切り、起承転結でやりきっている、描ききっているんです。73年にデビューして、たったの5年くらいなんですよ。20代でそれをやられてる。凄いですよね」と、柴田さん。

確かに、素人の私が見てもその描画の緻密さが分かります。パースが綺麗と柴田さんが言う通り、画面上のパーツ一つ一つが丁寧に設計されている印象を受けました。展示の都合上あらすじは省略しているそうですが、抜粋でも十分に見応えがあります。

そのまま歩みを進めると、カラーイラストのコーナーに辿り着きました。鮮やかな色使いは言わずもがな、その構図の見事さにも目を奪われます。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「カラーは、ポスターカラーやカラーインクを時代によっては使われていますね。文月先生は九州造形短期大学の美術科というところで、きっちり基礎を学ばれている人で、イラストは漫画の絵に寄せているんですけど、元々しっかりした技術を持った方なんです。本当に、きちんとした絵をカラーで描かれている。見ごたえがあるというか、カラーだけご覧いただいても十分楽しめると思います」

こちらは、カラーイラストの対面に飾られているモノクロの原画。鮮やかな絵を見た直後ということもあって、強く印象に残りました。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「これは『ティンカーベル交響曲』というイラスト集に収録されています。見ての通りすごく細かい(笑)。多分、自分の育てられている草木をご参考にしている箇所もあるのではないかと思います。この妖精さんとか、少女とか、赤ちゃんみたいな絵を文月先生、描かれていてどれもすごく可愛いんですよ。先生は草木を描くのが好きで、好きなだけじゃなく凄く上手い。あとはやっぱり構成力。そういうのが魅力かなと思います」

近づいてみると、その書き込みの凄さに圧倒されます。これをデジタルのない時代、ペンとインクだけでやっているんですから本当に凄いとか言いようがありません。

企画展示室B

通路を挟んだ向かい側が、企画展示室B。ピンク色の床の部屋には、概ね80年代から2000年代の作品を展示しているそうです。このエリアでは、ラフスケッチやドローイング、プロット、進行表といった資料の数々を鑑賞することができます。

出典:リビングふくおか・北九州Web
出典:リビングふくおか・北九州Web

入口向かって右の壁に、貴重なお写真がありました。これが噂に聞く、アズ漫画研究会の方々ですね。

出典:リビングふくおか・北九州Web

「アズ漫画研究会は、漫画好き、イラスト好き、アニメ好きが集まるグループで、これは文月先生の自宅で賑やかに集まったり展示会をしたり、そういう頃の写真です。お友達兼アシスタントとして、忙しい時期に先生のところにお手伝いに行っていた方、2人のインタビューもあります。これも貴重な証言ですね。アズ漫画研究会のメンバーがどうやって出会ったのかという話、たとえば小倉井筒屋で展示会をしていたのを見たとか、北九州に紐づいた話をエピソードとしてご紹介してます」

このエリアには、昔の漫画雑誌もたくさん展示されていました。雑誌類は展示数に含めていないそうなので、実際の展示作品数は400点以上……?

出典:リビングふくおか・北九州Web

「文月先生は最初、講談社の『別冊少女フレンド』という漫画雑誌で作品を描かれていて、80年代くらいからは小学館の『プチセブン』や『プチコミック』という漫画雑誌にも載せられてました。そこから段々と大人向けの作品、女性向けの漫画雑誌に軸足を移していく、という流れを辿られている作家さんです」

私が一番気になった展示が、この「クレドーリア621年」の設定資料です。プロの漫画家が作品を作り上げていく過程、その一端が知れる展示で、とても興味深く読ませていただきました。同エリアには他作品のプロットもありますので、創作に携わるすべての人に見ていただきたい。

出典:リビングふくおか・北九州Web

さて、最後はこの展示室。文月先生は2000年代前後からハーレクインという、エンタメ小説の漫画を手掛けるようになります。この黄色の床の部屋は、そうしたハーレクインや近年のイラスト作品の展示を中心に構成されています。

出典:リビングふくおか・北九州Web

ハーレクイン作品以外にも、告知チラシやレコードジャケット、子ども向けの原作つき絵本の挿絵などもありました。同じ人のイラストと思えないほど、描き分けがすごい。プロってこんなに違うタッチを使い分けられるものなんですか……。

出典:リビングふくおか・北九州Web

こちらは、猫のイラストの展示コーナーです。文月先生は何匹も猫を飼われていて、その猫ちゃんたちをモチーフに生み出されたキャラクターなのだそう。ふんわり優しいタッチで、とても癒されるイラストたちです。

出典:リビングふくおか・北九州Web

出口付近では、文月先生と親交がある漫画家のお祝いメッセージも鑑賞できます。萩尾望都さん、永野のりこさん、せがわ真子さん、バロン吉元さん、ちばてつやさんなどが名を連ねていますが、どのようなイラスト・メッセージを寄せているかは、実際に会場を訪れ自分の目で確かめてみてくださいね。

グッズコーナー

企画展示室をぐるりと一周して、再び受付に戻ってきました。受付横にあるグッズコーナーでは、文月先生の美麗イラストを使用したポストカードや便箋、クリアファイル、書籍などが購入できます。

出典:リビングふくおか・北九州Web
出典:リビングふくおか・北九州Web

「文月今日子展」の会期は前期・後期に分かれており、カラー原画の展示替えも予定されています。10月1日(日)、11月5日(日)には学芸員さんによるガイドツアー、10月15日(日)には文月先生のサイン会が開催されるなど、関連イベントも盛りだくさん。イベントの詳細は北九州市漫画ミュージアムの特設ページでご確認ください。

▼【9/16開幕】デビュー50周年記念 文月今日子展(北九州市漫画ミュージアム) https://www.ktqmm.jp/kikaku_info/84105

唯一無二の世界観と、緻密なタッチで観るものを虜にする文月作品。「デビュー50周年記念 文月今日子展」は、先生のファンや漫画好きの方だけでなく、創作に携わるすべて方におすすめしたい展覧会です。デジタル化が進む昨今、同展を通してアナログ作品の素晴らしさに触れてみませんか。

「デビュー50周年記念 文月今日子展」 会期:前期:9月16日(土)~10月23日(月)、後期:10月25日(水)~11月26日(日) ※前期・後期でカラー原画の展示替えあり 場所:北九州市漫画ミュージアム 企画展示室(北九州市小倉北区浅野2-14-5 あるあるCity5階) 時間:11:00~19:00 ※入館は閉館の30分前まで 休館日:毎週火曜日(休日の場合はその翌日) 入場料:一般1000円(800円)、中高生500円(400円)、小学生250円(200円) ※支払いは現金とPayPayのみ対応 ※( )内は北九州市漫画ミュージアム年間パスポート提示者、市内及び下関市・福岡市・熊本市・鹿児島市在住で65歳以上であることが確認できる方 ※身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳の提示者とその付添人1名は無料(身体障害者の付添人は当該身体障害者手帳の等級が1級~4級までの場合に限る)。 ※未就学児無料 ※同展示会チケットで、6階の常設展エリアも観覧可能 問い合わせ:℡093-512-5077(北九州市漫画ミュージアム) 公式サイト https://www.ktqmm.jp/

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