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自己アピールの極意:寒気のしない自分の売り込み方

  • 2023.10.6

仕事帰りの電車の中で人と目が合ってしまうのを避けるためにインスタグラムを見ていると、これでもかというくらい人間が嫌になる。人の猫や赤ちゃんやディナーには正直うんざり。

と思っていたら、昔一緒に働いていたような気がするけれど、名前は思い出せない人のセルフィーに出くわした。美しく加工された写真には「スレッズに新しい投稿をしたので、みんなぜひ見てください!」というキャプションが付いている。

ここで1つ正直に答えてほしい。あなたは、こういうキャプションを見てどう思う? 呆れてしまうという人は、よく聞いて。世の中には、企業の宣伝は当然のごとく受け入れるのに個人の宣伝は受け入れない人が多い。

「一部の人は自分を商品化することに嫌悪感を持っています」と話すのは、蘭エラスムス・ロッテルダム大学メディア&コミュニケーション学部助教授のジャネル・ワード博士。「ネット上で露骨な自己アピールを見ることにまだ慣れていないからか、どうも受け入れにくいのです」

自己アピールをしている人が女性の場合は、ネガティブな反応が一段と大きくなる。米ラトガース大学の調査によって、自分を売り込む女性は、同じことをする男性よりも好ましくない(ゆえに雇用に適さない)と思われることが分かった。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

一般的に職場では自己主張が必要と言われるけれど、米スタンフォードビジネススクールの論文を読む限り、成功につながる険しい道をスムーズに進みたいなら、自己主張はむしろ避けたほうがいい。

昔から“男っぽい”と思われている(攻撃的で自信満々な)素質をオフにする能力を有する女性は、昇進しやすいことも分かっている。逆に社会は自己主張の強い女性に罰を与える(バックラッシュ効果)-積極的に自己を売り込む女性にとっては、かなり頭の痛い問題。

「私は仕事でインスタグラムを現代版のポートフォリオとして使っています」と話すのは、ボディポジティビティ・インフルエンサーのチェシー・キング。「自分のメッセージを世間に広めて、私という人間を知ってもらうことができますからね。それに私は、自分の成功をフォロワーと一緒に祝いたいタイプなので」

「でも、ネガティブなコメントは無数にあって、そのうちの7割は女性から送られてくるものです。男性のコメントには女性を見下すようなものや性的なものが多いですが、女性のコメントはもっと個人的。以前はそれで投稿をためらうこともありましたが、いまは自分が誰のために投稿しているのかを思い出すようにしています。間違ってもアンチのためではありません」

どうして人は批判したがる?

SNSは、投稿の80%が投稿者自身に関するものと言われるくらい自己アピールの温床になっている。言い換えれば、私たちの圧倒的大多数が日頃から自己アピールをしているということになる。にもかかわらず、人さまの自己アピールを厳しく批判するのは一体なぜか?

「社会には、女性は控えめであるべきという既成概念があります」と話すのは、英サルフォード大学メディア心理学部上級講師のシャロン・コーエン博士。「その既成概念を逸脱し、女性が優れた能力や自信を見せるのは社会の期待に反している。自己アピールをする女性は批判される根底には、このような考え方があります」

しかも、この既成概念は私たちの行動に一生影響を与えるくらい根が深い。英ニューカッスル大学の上級講師で臨床心理士のジョーン・ハーヴェイ博士によると、女性は子供の頃から自己主張をためらう傾向にある。「そうしないと、社会に根付いたジェンダーの既成概念に反するからです」

そして、男性は自分の功績を大げさに語るくらいがちょうどいいとされている一方で、女性は大人になっても自分のことを極力正確に語るくらいがちょうどいいとされている。だから女性は男性に負けないくらい自己アピール能力が高くても、それを引出しの中にしまっておきがち。

自己アピールはなぜ重要?

自己アピールの場はSNSの中だけに限られない。しかも「自覚があるかどうかは別として、私たちは常日頃から自己アピールをしています」とハーヴェイ博士。「自己アピールは、自分でオン・オフするような特別なスキルではありません。パーティーのためにオシャレをしたり、メイクでニキビを隠したり、マッチングアプリ用のプロフィールを書いたりするのも一種の自己アピールです」

職場は自己アピールをする上で最も重要な場所の1つ。メディアエージェンシーEssenceMediacomXでチーフ・トランスフォーメーション・オフィサーを務めるスー・ユナーマンは自著『The Glass Wall』の中で、女性が出世できないのは“ガラスの天井”があるからではなく、職場における言葉の使い方が男性と違うから、という議論を展開している。

この本の執筆過程でユナーマンが数百人の男女および人事担当者にインタビューをしたところ「いい仕事さえすればいいと思っている女性が本当に多かった」。でも「それだけでは不十分。いい仕事をしたという事実を自分で上司に伝えなきゃダメなんです。ただ知っておいてもらうためではありません。あなたの周りの男性社員がそうしているからです」。ちゃんと言わないと出世が遠のくだけじゃない。遠慮して自分の功績を主張せずにいると、自分を自分で過小評価することになってしまう。

「インタビューの中で明らかになったのは、女性は昇進や昇給を求めなすぎで、仮に求めても一度『NO』と言われただけで仕事をやめるということです」とユナーマンは続ける。「年収が6桁のポジションを扱うこともざらにあるという採用担当者の話では、年収1000万を提示すると女性は『ありがとうございます』と言って即承諾するけれど、男性は『ありがとうございます。でも、1500万でお願いします』と言うそうです」

ジェンダー平等を推進する慈善団体Fawcett Societyによると、この傾向はジェンダー間の賃金格差だけでなく、交渉ありきのボーナス格差にもつながっている。

起業する際やフリーランスとして働く際は、自己アピールがますます重要になる。英キングストン大学の調査報告書によると、子育てをしながらフリーランスとして働く女性の数は、この10年間で倍増した。「フリーランスに転向するのは男性中心の企業風土から逃れる手段の1つです」と話すのは、ジェンダー平等活動家のポリー・トレナウ。「認められるために自分を取り繕う必要がなくなります」

にもかかわらず“スラッシャー”(メイクアップアーティスト/ブロガー/パーソナルトレーナーという風に複数の職業を掛け持つ人)の多くは、ずうずうしいとかうぬぼれていると思われるのを恐れて自分を売り込みたがらない。

でも、思い切って売り込んだからこそ気付けることもある。「セルフィーを投稿したり、自分について書いた過去のコンテンツを読み返したりするのは、自分という人間を知る方法の1つです」とコーエン博士。「自分のアイデンティティを理解して、人に詳しく説明する上でも役立ちます」

人はなぜ自己アピールをしたがらない?

逆に自己アピールをしなければ、昇進や昇給の機会ばかりか心のゆとりまで失ってしまう。それでも人が自分を大きく見せたがらないのは、それが一種のギャンブルだから。

「自己アピールの難点は、人の反応を自分で操作できないことです」とハーヴェイ博士。「好印象を与えて社会的地位を上げるために投稿したセルフィーも、人の目には自慢や自己中心的な行為として映るかもしれません」

自己アピールを封じ込めるには、批判されることに対する恐怖心があれば十分。その典型的な例がセルフィー。もともと好き嫌いが激しく分かれることではあるけれど、セルフィーを投稿したがらない人は、みな自分のセルフィーには甘いのに、人のセルフィーには厳しいという現実を知っている。

独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの研究でも、それが証明されている。この研究に参加した238名のうち77%は普段からセルフィーを撮っているにもかかわらず、自分のセルフィーは「リアルで皮肉的」と評する一方で、他人のセルフィーは「自己アピール色が強くて信ぴょう性が低い」と批判する傾向にあった。

ワード博士によると、オンラインで自己アピールをする際は、このリアル感が特に重要。「私たちは社会交流や人間関係にリアル感を求めます。でも、オンラインのプロフィールは入念に作り込まれている可能性があるので厄介。ネット上では、言葉以外のシグナルや表情などを当てにすることもできません」

自己アピールは堂々と

昇進や賞の受賞を自慢するコンテンツを用意して、それを投稿するかしないかで散々頭を悩ませても、そのコンテンツの受け取られ方を自分で操作することは結局不可能。だったら自己アピールに成功も失敗もないのでは?

いや、謙虚を装った純然たる自慢話は成功しない。例えば「あなたが病院で買ったメガネフレーム、私が持ってるセリーヌのフレームより断然ステキね」というように、ささいな謙遜で露骨な自慢を覆い隠し、人に好かれようとするのは逆効果。

米ハーバードビジネススクールの2017年の調査によって、謙虚を装った自慢話は、露骨な自慢話ほど効かないことが判明した。なぜ? 謙虚を装った自慢話には、“誠実さ”という重要な要素が欠けているから。謙虚を装った自慢話をしている方は露骨に自慢していないという満足感を覚えるかもしれないけれど、それを聞かされている方は自慢と偽装行為の両方に反感を覚える。

要するに、あなたの意図は相手に必ず伝わるということ。「自己アピールは好ましくない側面も持っていますが、私たちが公正かつ平等な職場環境で働くためには100%妥当な行為です」と話すのは、英マンチェスタービジネススクール労働心理学名誉教授のマリリン・デイヴィッドソン博士。「だから恐れる必要はありません。自己アピールは自慢ではなく、キャリアアップと平等のために必要なことですよ」

元ウィメンズヘルスのスタッフで、現在はウェルネス系コンサルティング会社を経営しているエイミー・レーンも同意見。「点と点をつなぎながら、あなたが何をどうやって成し遂げてきたのかを伝える上で、自己アピールほど効果的な方法はありません」。これはレーンがウェルネス系インフルエンサーとルルレモン(アクティブウェアブランド)のアンバサダーという2つの役割を両立する中で学んだこと。

「自画自賛系の写真を投稿するときは萎縮することもありますが、私はみんなを幸せにするアーモンドクロワッサンじゃありません。その事実を受け入れてからは、自己アピールが少し楽になりました」

自己アピールの極意

1.何事も控えめに

「自分のことは控えめに売り込むのがポイントです」とハーヴェイ博士。「度を過ぎると、ナルシストと思われてしまいますから」。SNSで自分を売り込む人には誇大型ナルシストが多いという研究結果もあるくらい。「過剰な自己アピールは人を遠ざけます」とハーヴェイ博士は警告する。「フォロワーも離れていくだけ。そうなる前にフォロワーの反応を読み取って、適切な量を判断しましょう」

2.慣れるまでは慣れているフリをする

コーエン博士によると、自己アピールに不快感が伴うのはインポスター症候群によるところが大きい。男性優位の業界で働く女性は特に自己肯定感が低くなり、自分をアピールしようとすると自分が詐欺師に思えてしまいがち。この問題を乗り越えるには? 自己アピールに慣れるまで慣れているフリをするしかない。「これはもう受け入れて、やるしかないことですね」とコーエン博士。「誇張せず、偽りのない真の自分で、自分が知る事実だけを話しましょう」

3.共感を示す

「自己アピールをしすぎる人は概して共感力に欠けています」とハーヴェイ博士。「共感力が高い人は、相手の視点で物事を見ることができます。今週あなたが投稿した10枚のセルフィーも、自分ではなく人のものなら“やりすぎ”だと思いませんか? 上手な自己アピールは“フレーミング”をしなければ、つまり人の立場になって考えなければ生まれません。それが難しいときは、信頼できる人に頼んでフィードバックをもらいましょう」

4.プロアクティブな行動をとる

自分を売り込むくらいなら、自分の肌を剥ぎ取ったほうがマシという人に朗報。自分を認めてもらう方法は自己アピールだけじゃない。「大事なのは、コミュニケーションを通じて人に気付かせることですよ」とデイヴィッドソン博士。

職場では定期的に自己評価テストを受けたり、自分が関わったレポートに名前を載せてもらったり、チームに貢献したことをたたえるメールを出してもらったりするといい。「そんなことをしなくても認めてもらえると思い込まず、自己アピールというよりも正当な自己主張をすることが大切です」

5.自分を偽らない

マッチングアプリのマッチング率が高い人は、ベストな自分だけでなく偽りのない自分の姿もプロフィールの中で見せている。

「できるだけ魅力的に思われたいのはみんな同じなので、彼らも自分を最大限にアピールしますが、現実の範囲内にとどめます」とワード博士。「人とつながりたいのなら、プロフィールにリアルな自分を反映させることが大切です。それに初デートでガッカリしたい人はいませんからね」

6.プレゼンターズ・パラドックス

履歴書はぎっしり書かれているほうがいいと思ってない? 去年参加した旅行用スペイン語レッスンのことも書きたい気持ちは分かるけれど、これまでの研究により、履歴書は短ければ短いほどいいことが分かっている。どうでもいい話と並べられると立派な話がかすんで見えてしまうので(“プレゼンターズ・パラドックス”と呼ばれる現象)、履歴書に書くのは傑出した功績だけにしよう。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Georgie Lane-Godfrey Translation: Ai Igamoto

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