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【騒動】プロ野球FA移籍のウラで起こる「人的補償制度」とは何か?野球ライターが解説

  • 2024.1.14
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出典:埼玉西武ライオンズホームページ

1月11日、プロ野球・埼玉西武ライオンズはフリーエージェント(FA)で福岡ソフトバンクホークスに移籍した山川穂高選手の「人的補償」として、甲斐野央投手を獲得することを発表しました。

同日朝には一部メディアが人的補償選手としてソフトバンクのレジェンド左腕・和田毅投手が指名されると報道しましたが、結果として報道通りではなく、甲斐野投手の西武移籍が実現。一連の“騒動”もあり「FA移籍に伴う人的補償制度」が大きな話題になっています

本記事ではFAにおける人的補償とは何か、さらには甲斐野投手が指名された理由も含めてプロ野球ライターによる独自視点で解説していきたいと思います。

FA制度とは

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写真:PIXTA

まず、プロ野球界にはFA制度というモノが存在します。プロ野球に所属する日本人選手は一部例外を除いて基本的に、全員が「ドラフト会議」で指名を受けて各チームに入団します。たとえば、選手自らが「○○という球団に入りたい」と希望していても、指名を受けなければ入団することはできません。

その意味で、プロ野球選手には自ら所属する球団を選択する権利がないのです。ただし、これにも例外があります。プロ野球に所属したうえで、一定期間(2024年現在は高卒入団選手が累計8年間、大学生、社会人から入団した選手は7年間。海外移籍が可能になるのは一律9年間)出場選手登録(一軍登録)されると、「FA権」を取得することができるのです。

FA権とは、選手自身が自由に各球団と交渉して、所属球団を選択できる権利です。もちろんこの場合も、オファーを受けた球団の中から、所属先を選ぶことになります。

日本ではこのFA制度が1993年から導入されていますが、ここで問題になったのがFAで“選手が出ていってしまった側”の球団です。新人時代から選手を育成し、チームの主力選手にまで育ったのに、そのタイミングでFA権を行使されて他球団へと移籍されてしまうと、チームが弱体化してしまう可能性があります。

プロ野球を盛り上げるためにも、一部の球団に戦力が集中するのではなく、なるべく「戦力の均衡」を保ちたい――。

FA移籍のウラで起こる「人的補償制度」とは

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そんな思惑から、日本では選手がFAで移籍した際に、移籍先の球団から移籍元の球団へ、一定の「補償」が設定されています

この「補償」は選手の年俸によって規定されており、所属元球団で年俸が1~3位までだった選手はランクA、4~10位の選手をランクB、11位以下をランクCと分け、A~Bランク選手が移籍したときのみ、「金銭のみ」もしくは「人的+金銭」の補償が発生するのです。

FAで選手が出ていってしまった球団はまず、補償の内容を「金銭のみ(ランクA=旧年俸の0.8倍/ランクB=旧年俸の0.6倍。※FAが2度目以降の選手は額が変動)」にするのか「人的(選手)+金銭(ランクA=旧年俸の0.5倍)/ランクB=旧年俸の0.4倍」にするのかを選ぶことができます。

一方で移籍先の球団は、人的補償選手に指名できない「28選手」をプロテクトすることができます。そして、移籍元の球団は28選手のプロタクトから外れた選手のうち、1選手を指名することが可能になるのです。

甲斐野投手がプロテクトから外れたワケ

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写真:Penta Press/アフロ

今回の場合、西武はソフトバンクにFA移籍した山川選手の補償として、甲斐野投手と金銭(※山川選手の昨季推定年俸がランクAの2億7000万円と言われているので、その0.5倍の1億3500万円と予想される)を受け取ることになります。

人的補償においての「プロテクト」には該当球団同士の複雑な駆け引きが存在すると言われています。「絶対に流出させたくない」主力選手をプロテクトすることはもちろんですが、28名の人選はそれだけでなく、相手球団がどんな選手を欲しがっているのか、チーム事情や戦力なども踏まえて精査されます。

そのため、プロテクトされた「28選手」が必ずしも「チームから評価されている上位28選手」であるとは限りません

一方で人的補償に指名された選手はプロテクト外の多くの選手の中で「もっとも欲しい選手」と言い換えることもできます。その意味で甲斐野投手は西武から高く評価され、必要とされたからこそ人的補償選手に選ばれたと言えるのです。

では、なぜ西武は甲斐野投手を指名したのでしょうか。甲斐野投手はプロ5年目の今季、46試合に登板して3勝1敗8ホールド2セーブ、防御率2.53をマーク。貴重なリリーフ投手としてチームに貢献しました。特に、コンスタントに150キロ台中盤をマークするストレートの威力は一級品です。

これほどの実力を持ちながらプロテクトから外れてしまったのは、ソフトバンクが分厚い選手層を誇ることも要因として考えられます。おそらく、球団としても苦渋の決断だったのではないでしょうか。

一方、西武側の視点で考えると、チームの補強ポイントは「打線」と「リリーフ陣」でした。リリーフ陣の防御率は昨季2.81とリーグ2位を記録しましたが、長年チームのクローザーを務めた増田達至投手が不調に終わり、さらには一昨年までリリーフ陣の中心だった平良海馬投手が先発に転向。その意味で、リリーフとして高い適性を持つ甲斐野投手は補強ポイントにマッチするうってつけの存在だったと言えます。

タイプ的にも甲斐野投手のようなパワータイプのリリーフ投手はチームに不足しており、状況次第ではセットアッパーやクローザーを任される可能性もあるかもしれません。

「人的補償」で活躍する選手たちに注目

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写真:AP/アフロ

過去にはこの「人的補償」で移籍した選手が翌シーズン、レギュラーとして大活躍したというケースもあります。直近では昨季、同じくソフトバンクへFA移籍した近藤健介選手の人的補償で北海道日本ハムファイターズに移籍した田中正義投手がクローザーに定着。チーム最多の25セーブを挙げています。

あと3カ月弱に迫ったプロ野球2024年シーズン。FA移籍した山川選手はもちろん、西武へと移籍することになった甲斐野投手のピッチングも要注目です。


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