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NHK『大奥』美しい生き様から背筋も凍る“化け物”まで…名シーンからわかる人気の理由とは

  • 2023.11.14
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(C)NHK

NHKドラマ10『大奥』Season2。よしながふみの漫画が原作のこの作品は、1月から放送されたSeason1に続き話題となっている。まず原作が素晴らしいのはもちろんだが、それだけではないだろう。本記事ではこの作品の人気の理由をこれまでの名エピソードとともに振り返る。

丁寧に描かれる「人間の美しさ」

身分や性別による格差が大きく、不自由なことの多かった時代。そんな状況においてもそれぞれの人生の目的を見つけて邁進し、絆をむすび、自分以外の誰かのために行動する。心が動かされるのは、いつもそんなシーンだった。

医療編で、赤面疱瘡の撲滅に尽力し、治療法・人痘接種を広めた蘭学医の青沼(村雨辰剛)。人痘で死者が出たことをきっかけに、一橋治済(仲間由紀恵)の策略により死罪となってしまう。人々のために尽くしてきた彼に対して、あまりにもひどい仕打ちだ。

弟子たちは怒り悲しむが、青沼は自分だけで良かった、これで人痘の仕方が後の世に伝えられる、その時はお願いしますと言い、「ありがとうございました。皆さんがいなければとてもここまで来られなかった」と感謝を伝えた。黒木(玉置玲央)や伊兵衛(岡本圭人)ら弟子たちも口々に青沼に「ありがとう」と叫ぶ。彼らは青沼と出会って志を持ったことで、人生が変わったのだ。

涙なしには観られない、あまりにつらいシーンだが、死の際に青沼が思い浮かべたのは、「合いの子」といじめられた自分が、こんなにも多くの人に「ありがとう」と言ってもらえるようになったこと。「それがどうね」と心の中でうれしそうに言いながら、斬首される直前に浮かべる口元の笑みに、さらに涙がつのる。

ひたむきに生きた彼らの生き様に励まされ、生きる活力が湧く。この作品の人気の理由は人間の美しさを強く感じられる点にあるといえそうだ。

「人が苦しむのを見るのが楽しい」“化け物”まで…「人間の恐ろしさ」も見事に表現

一方、人の恐ろしい面もたびたび描かれている。記憶に新しいのは、やはり“化け物”と呼ばれた治済だろう。青沼を処刑しただけでなく、源内(鈴木杏)を梅毒持ちの男に襲わせ、将軍やその子供など邪魔な者たちを毒で殺し、田沼(松下奈緒)を失脚させるなど、私欲のために多くの人を手にかけてきた。許せないが、自分の息子・家斉に権力を持たせるためというならまだわからなくはない。

だが、ついには自分の孫たちに手をかけ、その母親たちを仲違いさせるように仕組む。そんなことをする理由は「人が苦しむのを見るのが楽しいから」らしい。自分に仕える武女(むめ・佐藤江梨子)に毒の入った茶を飲ませ、血を吐いてのたうちながら畳を汚したことを謝る彼女を見ながら嬉しそうな楽しそうななんとも言えない表情を浮かべるシーンには震えた。

現実には存在してほしくないかぎりだが、思わず背筋が凍るような名演技を鑑賞できることは素直に嬉しい。「怖いもの見たさ」的な楽しみもこの作品の人気の理由のひとつだといえる。

俳優陣による圧倒的な演技&現代の困難とリンクする共感性

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(C)NHK

愛おしい役も恐ろしい役も、俳優陣の圧倒的な演技によって生きた存在となっている。原作のイメージと近い人もちょっと違う人もいるかもしれないが、みんなそれぞれその人が演じる説得力があったと思う。実写での役にハマるビジュアルも演技力も兼ね備えた人たちを揃えたキャスティングにも気合を感じるし、衣装や音楽にキービジュアル、すべてに抜かりがない。

そしてこの作品が2023年の“今”放送されていることも多くの人たちに支持される理由なのかもしれない。本作品に出演する俳優陣のインタビューでも「伝染病に苦しんでいるという点で今の時代とリンクした」とコメントしている方が結構いた。困難の中で懸命に生きる人々を描いたこの作品は、今だからこそより切実に我々の心に響くのではないだろうか。

私もこの作品に巡り会えた幸せに感謝しつつ、幕末編をさらに楽しみたいと思う。

 



ライター:ぐみ
熱量高めなエンタメライター・編集者。ドラマ・映画・アイドル・アニメなどのコラムやレビュー・インタビューや書籍の執筆・編集も手がける。コンテンツ編集(人気少女漫画や芸能人の公式コンテンツ制作のほか、広告制作、メディアの編集・立ち上げなど)を経て現在フリー。音楽とアイドルと物語とかき氷が好き。X(旧Twitter):@gumililium