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「藤浪晋太郎にはリリーフとしての問い合わせが殺到している」…メジャー移籍を機に覚醒したのはなぜか?人気野球ライターが解説

  • 2023.12.14
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写真:AP/アフロ

「(藤浪晋太郎には)リリーフとしての問い合わせが殺到している」

アメリカ・アリゾナ州スコッツデールで行われたゼネラルマネージャー(GM)会議に出席した藤浪の代理人、スコット・ボラス氏はこうコメントしたそうです。

昨年オフ、阪神タイガースの藤浪投手がポスティングシステムでのメジャー移籍を表明した際、世間の声は冷ややかでした。

「日本で結果を残せていないのに、メジャーでやれるわけがない」「あのコントロールで通用するわけがない」

確かにここ数年、藤浪投手は日本球界でもなかなか結果を残せず、苦しんでいました。大阪桐蔭ではエースとして甲子園春夏連覇を達成し、2012年ドラフトでは4球団競合の末に阪神に入団。プロ1年目からいきなり10勝を挙げると、そこから3年連続2ケタ勝利。プロ3年目には221奪三振でセ・リーグ最多奪三振のタイトルを獲得――。

誰もがその将来に夢を見た「大器」は、4年目以降、長いトンネルに迷い込んでしまいます。コントロールが定まらず、先発してもなかなか勝ち星に恵まれない。良い投球をしたと思っても、次の登板では別人のように荒れてしまう……そんな不安定さは、メジャー移籍前年まで改善されることはありませんでした。

評価を一変させたメジャー1年目

しかし、あれから1年――。藤浪投手は、メジャー各球団から「欲しい」と請われるほど、評価を上げることになりました。

一体、その要因はどこにあるのでしょう。メジャー1年目の2023年の数字を改めて振り返ったとき、実は藤浪投手の成績は決して「超一流」と呼べるものではありません。

64試合に投げて7勝8敗2セーブ5ホールド、防御率7.18。特に防御率に関しては日米通じてキャリアワーストの数字です。にもかかわらず、藤浪投手はメジャーで評価されている。そこには、日本球界とメジャーの評価基準の違いが大きく影響しています。

日本とアメリカの評価基準に違いが…

開幕当初、先発投手としてスタートした藤浪投手は打ち込まれる試合が目立ち、防御率が10点を超える時期が続いていました。おそらく日本であれば、この時点で二軍に落とされ、以降はなかなか一軍出場のチャンスをもらえなかったはずです。

しかし、当時所属していたアスレチックスは藤浪投手をマイナーに落とさず、リリーフに転向させて辛抱強く復調の機会を待つ選択をしました。契約条項や、シーズン中に藤浪投手をトレード要員として考えていた事情などもあったかもしれません。

ただ、最大の理由は藤浪投手が持つボールの「クオリティ」にあったはずです。今季、藤浪投手はメジャーの舞台で自己最速を更新する102.6マイル(約165.1キロ)をマークしました。この数字は大谷翔平選手らをしのぐ、メジャーでの日本人最速記録です。

ストレートだけで、メジャーの強打者をねじ伏せることができる――。これが、藤浪投手最大の長所です。

確かに、不調時にはコントロールが乱れ、走者をためて手痛い一打を打たれるシーンはシーズン後半にもありました。ただ、少しずつ、確実にメジャーの舞台に順応していたのも確かです。夏場にトレードでオリオールズに移籍して以降の数字は30試合登板で2勝0敗2セーブ2ホールド。防御率はアスレチックでの8.57から4.85へと大幅に改善されました。

残念ながらポストシーズンのメンバーには選ばれませんでしたが、メジャーの舞台で確かな手ごたえと、「絶好調時は支配的な投球を見せる」というインパクトを与えることに成功しました。

この「絶好調時なら~」という但し書きが、日米で評価の分かれるところです。

日本であれば、「安定感に欠ける」「投げさせてみないと分からない」とネガティブに評価されるところですが、アメリカでは「能力は持っているのだから、あとはそれをコンスタントに発揮できれば結果は出るはず」とポジティブに捉えられる。それが、今オフ、藤浪投手に各球団からオファーが届いている最大の理由です。

来季が真価を示す正念場

とはいえ、藤浪投手にとっての“勝負”はここからです。本人は常々「先発」へのこだわりを明かしていますが、おそらく来季も「リリーフ」での起用が中心になるでしょう。もしくは条件を下げてでも「先発」に再挑戦させてくれる球団をチョイスするかもしれません。

どちらにせよ、メジャー1年目の今季が「可能性を示す1年」だったのであれば、来季は「結果を示す1年」になるはず。メジャー各球団が高く評価するポテンシャルが、果たして花開くのか、日本のファンにも、注目して頂きたいと思います。


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1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

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