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松井秀喜が今FA市場にいたら…年俸はいくらになる?「驚きの価値」をプロ野球ライターが予測

  • 2023.12.17
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写真:AP/アフロ

正式にロサンゼルス・ドジャースへの移籍が決定した大谷翔平選手は2023年シーズン、メジャーでアジア人初の快挙となる本塁打王を獲得しました。

過去、イチロー選手が首位打者を二度獲得するなど、「アジア人野手」がメジャーの舞台でも通用することは証明されてきましたが、こと「パワー」に関しては埋めがたい差がある――。これが、一般的な考え方でした。

体格面など、フィジカルで分が悪いアジア人は技術ではメジャーリーグでも通用するが、パワーでは通用しない……。

そんな常識を大谷選手は覆したのです。

「日本人(アジア人)は、パワーではメジャーリーガーに勝てない」

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写真:Thomas Anderson/アフロ

多くの人々がこれを痛感した裏には、2003年から2012年までニューヨーク・ヤンキースなどメジャーリーグで活躍していた松井秀喜選手が「メジャーリーグでは真の長距離砲にはなれなかった」という点が大きく影響しているのではないかと思います。松井選手は2002年のシーズンオフにヤンキースと3年総額2100万ドル(当時レートで約25億円)で契約を結びました。その3年後となる2005年、新たに4年総額5200万ドル(当時レートで約62億円)という契約を結びました。

松井選手は海を渡る前、巨人の不動の4番として、NPB10年間で通算332本塁打。移籍前年にはシーズン50本塁打を放ち、誰もが認める「日本球界最高のスラッガー」でした。

満を持して海を渡った2003年シーズン。メジャー屈指の歴史ある球団であるニューヨーク・ヤンキースで年間163試合フル出場を果たすも、シーズン本塁打は16本に終わってしまいます。メジャー特有の“動くボール”に苦心し、内野ゴロを量産してしまったことからお膝元であるニューヨークのメディアからは“ゴロキング”という不名誉な称号まで与えられてしまいました。

「あの松井ですら、メジャーでは16本しかホームランが打てないのか……」

当時、多くのファンがこの結果にショックを受けたはずです。

しかし、改めて松井さんがメジャーリーグで残した結果を俯瞰で見返してみると、少し事情は変わってきます

確かに移籍1年目は16本塁打に終わりましたが、打率は.287と及第点。打点に関しては106をマークしています。ちなみに松井さん以外の日本人選手でシーズン100打点をマークしたのは2021年の大谷選手(100打点)のみ。松井さんはこの年だけでなく、2004、2005、2007年にもシーズン100打点をクリアしていて、日本人メジャーリーガーのシーズン打点数上位を独占しています。

「OPS」に注目すると?

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写真:PIXTA

さらに、特筆すべきは「OPS」という指標です。OPSとは出塁率+長打率で算出する指標で、得点との相関関係が非常に高いことで近年、打者の評価基準としてかなり重要視される数字でもあります。

松井さんのOPSはメジャー1年目こそ.788でしたが、キャリアハイの31本塁打を放った2004年は.912、以降もコンスタントに8台後半をマークし、MLB通算10年間でのOPSは.822。OPSは一般的に8を超えると一流選手、9を超えると超一流、10を超えると球界を代表する選手と言われており、松井選手の通算OPSはメジャーでもかなり優秀な数字になります。

ちなみに、2023年シーズンの大谷選手のOPSはメジャートップの1.066ですが、松井さんのキャリアハイである2004年の.912は、今季であればア・リーグ4位に該当します。

OPSという指標で優秀な数字を残した松井さんですが、「長距離砲」としてメジャーでそこまで評価されなかった理由はいくつかあります。

ひとつは、前述の1年目の成績。当時、日本球界から鳴り物入りでメジャー入りした「ゴジラ」こと松井さんでしたが、1年目は期待通りの数字を残すことができませんでした。冷静に考えれば十分すぎる数字なのですが、松井さん渡米の2年前にはイチローさんが日本人野手初のメジャーリーガーとして首位打者、盗塁王、新人王、MVPを獲得するという大活躍を見せていたことから、期待値は跳ね上がっていました。特にニューヨークという世界でもっとも厳しい目を持つメディアが存在する都市でプレーしたことも、松井さんの「印象」に大きく影響したかもしれません。

そしてもうひとつ。おそらくこれが最大の理由になるのですが、当時のメジャーリーグはステロイドに代表される筋肉増強剤の使用が横行する時代でした。ルール上禁止されていなかったとはいえ、多くの選手が薬物の力で人知を超えるパワーを手にしていたことが後に発覚。これはアメリカスポーツ界を揺るがす大きなスキャンダルとなりました。

もちろん、松井さんは筋肉増強剤には一切、手を出していません。しかし、ただでさえ体格に勝る多くのメジャーリーガーが薬物で筋肉を肥大化し、パワーを手に入れていた時代だったことを考えると、日本球界を代表するスラッガーだった松井さんでもさすがに分が悪い……。

「たられば」ではありますが、もしステロイドが横行していない現代のメジャーリーグで松井さんがプレーしていれば、その評価はさらに高かったかもしれません。

松井選手が今FA市場にいたら…

コンスタントにOPS8台をマークし、シーズン30本塁打前後、100打点前後を期待できる打者は、現代のメジャーリーグでもそれほど多くなく、今の市場価値で言えば年俸も4000万ドル(約57億円)以上は確保できたはずです。

もちろん、松井さんが残した功績はすでにメジャーリーグ、日本球界で高く評価されています。

ただ、時代や環境が違えば、松井さんの「日本人最強スラッガーも、メジャーではパワーヒッターになれなかった」という印象は、大きく変わっていたかもしれません。


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1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

※現在のレートは1ドル=142円で換算。

※記事内の画像は一部イメージです。