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【吉岡里帆】2人の女性が描く優しい関係「女性っていざというとき強い。それが2人になったらさらに最強になる」

  • 2023.10.2
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──吉岡さんが今回演じた脚本家の甲斐真尋は自分が『見たい』世界だけを作る後ろ向きな性格でしたが、とくに印象に残っているシーンは?

「真尋は過去のトラウマを抱えていますが、それを見せないように生きています。その隠していたトラウマが北川さん演じる監督に見抜かれる。あのときはどういう状況だったのか、あのときはどう思っていたのか。監督に問詰められ、答えたくないのに心情を吐露してしまう。テイク数を何度も重ねられる現場ではなかったので、緊張感もありました。限られた時間の中でピークに感情を持っていくのが難しくて。子供のころのトラウマの話を大人になってから口に出すので、その長い長いため込んできた時間みたいなものをイマジネーションしてくという作業が必要でしたし、言いたくないことを口に出す苦しさもありました。すべてを諦めたように過去の自分の話をするシーンは演じていて怖かったですね。人がずっと隠し続けてきたものを吐き出すときってどういう感じなんだろうと。そこは研究しがいがあるシーンだと思いました」

──実際に演じてみて真尋に対するイメージの変化はありましたか?

「原作小説を読んでいたときは、もう少し地味で暗くて鬱屈としているみたいなイメージでした。けれど、演じていくなかで、監督と女性2人で未来に向かって進んでいくような構成になっているのもあり、どんどん彼女が力強くなっていくんですよね。女性っていざというとき強いなと。現実的だし、強いし、それが2人になったらさらに最強になる。ただ弱い繊細な人だと思っていましたけど、実際に演じてみると、とても芯のある強い子だったのだと思いました」

──そもそも真尋は「知ること」に消極的でしたが、なぜ脚本家になったのだと思いますか?

「個人的に思ったのが、必ずしもエネルギーに溢れている人だけが『書く』わけではないというか。むしろ、外で表現できない、自分が抱えていることを言えないからこそ、『書く』という行為にたどり着いた人なのかなというふうに解釈しました。その方が合点するというか。真尋は才能がないと言われて物語がスタートしますが、それでも脚本家を辞めないのは、どこか彼女が書くことに救われているところがあるのかなと。そういう文字の世界にいることで安心感を覚えたりもしているんじゃないかなと思います」

──今回、演じた脚本家は吉岡さんにとっても身近な職業だと思いますが、脚本家はどんなイメージですか?

「先輩脚本家の黒木瞳さんと対峙するシーンが印象的で。黒木さんの会話のなかで『私達の仕事は現実を超えるほどのイマジネーションが必要』という話が出てきます。今は情報が多い時代だからこそ、私達は現実を上回る速度でイマジネーションして、モノを書いていかないといけない。事実をただ面白おかしく脚色したり、想像だけで勝手に色をつけたりするのではなく、題材に対して真摯に向き合い、きちんと下調べをして取材をし、一つずつ事実を理解した上で、そこに必要な物語をつけて脚本にしてく。それが私達の目指すべきことなのではないか、と。この黒木さんのセリフは今の時代にも何か警鐘を鳴らしているような感じがして。それをする脚本家の仕事は大変というより、こういうスタンスで仕事されている方はかっこいいなというふうに思いましたね」

──黒木さんとお会いしていかがでしたか?

「黒木さんの包容力に感激しました。脚本だとセリフがコンパクトになっている分、黒木さんの役柄は小説より厳しく見えるなと思っていたんですが、実際に黒木さんが演じられることで、奥の方にある本当の優しさや、後輩思いで育てたいと思うゆえに手を差し伸べてくださっている感じが表情から感じとれるんです。言葉で説明をしなくても、お芝居で表現することができるのだと圧倒されました。あと、脚本にはない演出で、私にアドバイスをするシーンで、突然私の肩を強く抱きよせたんです。それが泣きそうなぐらい嬉しくて。こんな頼もしい先輩に導いてもらえたら幸せだろうなと思いましたね」

──昔から湊さんの作品を愛読していて今回湊さんに会ったということですが、どうでしたか?

「ミステリー作品のイメージから気軽にお話ししてよいものかと緊張しましたが、実際には明るくて優しくて、とても可愛らしい方でした。最初は、湊さんに失礼があってはいけない、湊さんの持っているイメージの真尋をそのまま頑張ってトレースできるようにしなきゃ、といった不安感を持っていましたが、お会いしたときに、私のことをまっすぐに見て『こういう顔を真尋はしていたんだなと、今、この日をもって新しく更新されていきます』と言ってくださって。私が演じる真尋を受け入れてくださったのかなと、安心して大きな包容力を感じました」

──原作者の方にそのような言葉をかけていただけると心強いですね。

「今までの湊さんの作品の中でも『落日』は希望をより濃く感じましたと話をして、湊さんも今回はそこが大事な作品だから、とにかくその部分を大事にしてくださったらもう自由に演じていただいて大丈夫ですと。安心して真尋に向き合うことができました」

──人気原作のドラマを演じる上で、難しさは感じましたか?

「原作のある作品はどうしても時間の都合上内容がぎゅっとしてしまい、説明セリフが多くなってしまいます。刑事のようにならないよう、セリフのなかで自然に状況説明してくというのは頑張ったポイントですね。あと、真尋の感情に困ったら原作を読み返していました。細かく心情を説明していますし、感情も書いてあるので、本には随分と助けられました。湊さんの本が真実ですからね」

──今回、監督を努めたのは映画『ミッドナイトスワン』などを手掛ける内田英治監督です。いつか一緒にお仕事したいと思っていたそうですが、きっかけは?

「仲のいいヘアメイクさんから内田監督のお話を聞いていて、ずっとご一緒してみたいなと。映画『ミッドナイトスワン』を見たときに、あまりにいい映画で心が本当に震えました。草彅剛さん演じる女性と服部樹咲さん演じる親戚の女の子。最初はまったく相いれない2人が出会ったときの化学反応を優しく撮る方なんだなと感じて。人間の関わり合いの優しさを細かく演出をされているように感じたので、そこに私は惹かれました」

──今回の北川さんと吉岡さんの役柄にも通じるものがありますね。

「そうなんです。企画書をいただいたときに共通しているなと。『ミッドナイトスワン』を見たときも狭い2人だけの世界の思いやりの話で、『落日』でも湊かなえさんが描く女性2人の様なので、そういう2人の小さな世界のなかで、関係性を丁寧に表現できるのかなと思いとても楽しみでした」

──吉岡さんはWOWOWドラマ常連ですが、WOWOWドラマはどんな印象ですか?

「何度か参加させていただいていますが、映画を撮られている監督が多く、今回も原作が湊かなえさんという、豪華で重厚感があって、ひとつひとつの作品を丁寧に撮っていく印象です。魅力的なキャラクターも多いですね。今回もセンセーショナルな内容で、女性2人の物語。引き込まれて一気見してしまう面白さがありますので、ぜひ楽しんでいただければと思います」

PROFILE

吉岡里帆
1993年1月15日生まれ、京都府出身。’15年、NHK連続テレビ小説『あさが来た』で注目を集める。主な出演作にドラマ『レンアイ漫画家』『しずかちゃんとパパ』『ガンニバル」、映画『泣く子はいねぇが』『島守の塔』など。2023年、映画『ハケンアニメ!』で第46回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。10月公開の映画『ゆとりですがなにか インターナショナル』、12月公開の映画『怪物の木こり』に出演予定。WOWOW『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』の放送・配信中。

【作品インフォメーション】
WOWOW『連続ドラマW 湊かなえ「落日」』毎週日曜22時~放送・配信中。
※10月1日(日)22時~第4話(最終話)放送・配信。

新進気鋭の映画監督・長谷部香は、15年前に引きこもりの男が起こした一家殺害事件を映画化しようと、事件が起こった笹塚町出身の新人脚本家・甲斐真尋に話を持ちかける。それぞれ過去に身近な人を失った経験を持つ香と真尋は事件を調べる中で、ある衝撃の真実にたどり着く。二人が各々抱えている過去を乗り越えて『再生』する物語。

ヘアメイク/北原果(KiKi inc.) スタイリスト/安藤真由美(スーパーコンチネンタル) フォトグラファー/峠雄三 構成・文/池城仁来

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