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ポスト・マローンが初の単独来日公演!「JAPAN」Tシャツで何度も「ありがとう」と「乾杯」を伝えた夜【ライブレポ】

  • 2023.9.28

ポスト・マローンことオースティン・リチャード・ポストが、自身の名前を冠した最新アルバム『オースティン』を引っさげて、単独としては初、2022年のサマーソニックのヘッドライナー出演以来となる来日公演を9月27日に東京・有明アリーナにて開催。ポスティのアルバム『トゥエルヴ・カラット・トゥースエイク』と『オースティン』の日本盤の対訳を担当したライター/翻訳家の池城美菜子氏によるオフィシャルレポートを掲載。(フロントロウ編集部)

ポスト・マローン初の単独来日公演をレポート

9月27日、まだ残暑が残った有明アリーナ、19時16分。ストリングスの壮大な前奏が響く。80年代ファッションなのか、ぴったりめの「JAPAN」Tシャツで登場したポスト・マローンの姿に、大歓声がまず上がる。1曲目は「Better Now」。日本では10月6日に公開される映画『シアター・キャンプ』でも、効果的に使われている人気の曲。ミュージカル好きの子どもたちが集まるキャンプが舞台の、ミスフィッツ(はみ出し者)がテーマの作品だ。

画像1: ポスト・マローン初の単独来日公演をレポート

頭の数曲は、2作目『ビアボングズ & ベントレーズ』と3作目『ハリウッズ・ブリーディング』からの曲で固める。1曲ずつ丁寧に曲名を説明するポスティ。ドラッグやビール、ヘネシーへの依存をテーマに、自分のクズっぷりをアピールする曲が多いのだが、ステージ上では「thank you」と「(日本語で)ありがとう!」をくり返す好青年。そして、その美声と言ったら。過密スケジュールのせいか、昨年のサマーソニックのときよりは少し割れていたが、それでも「Goodbyes」あたりのシンプルな分、ごまかしの効かない曲でのコーラスの伸びは、アスリート並みに才能を授かった、選ばれた人である事実を思い出した。

「Take What You Want」ではコラボしたオジー・オズボーンの顔を大写しにし、ステージ前方で火の玉を上げるファイアーボールの演出も。4Fスタンド席でも熱を感じたので大丈夫かな、と思ったら、さっとTシャツを脱いでそのままだった。「パンツ一丁」(実際はジーンズの半パン)がここまで様になるスターも珍しい、と妙なところで感心。この曲は、原曲よりさらにハードロックなアレンジを施していた。

今ツアーで特筆すべきは、5ピースのバンドとカルテットのストリングスによる完ぺきな演奏だろう。ロック寄りの曲では、ドラムとリード・ギターがソロを取り、バラッドではアジア系の女性を含むストリングス隊が活躍する。ベーシストはアフリカ系アメリカ人だった。

画像2: ポスト・マローン初の単独来日公演をレポート

ポスト・マローンは「2つ前のライヴで足を怪我しちゃって。足を引きずっていてごめんね」と言いながら、片足でぴょんぴょん跳ねたり、ギターを弾きながら回ったり、ひざまずいたり。後半に入って脚のひきずり方がひどくなっていたので、かなり痛いのでは、と心配になった。それでも、歌声はブレない。やはり、アスリート級だ。

ハイライトのひとつがスツールに座って歌った、「Feeling Whitney」。「ウーウーウー」のコーラスが大合唱になって、美しかった。80〜90年代のスーパー歌姫で、2012年にドラッグで中毒死したホイットニー・ヒューストンに想いを馳せる曲である。

レコーディングだと超ポップな「Wrapped Around Your Finger」はしっとりしたアレンジだった。ポスト・マローンは、ジャンル・ベンディング(genre-bending)のアーティストである。ふたつ以上のジャンルを入れた作風を指す、もともと小説や映像作品の用語で、2010年代から音楽でも聞かれるようになった。歌とラップ、そしてポップ・ロックもヒップホップを入れ込んだ彼はまさにそうなのだが、途中で曲調がガラッと変えたり、どっちつかずの中間を狙ったりするのではなく、ヒップホップの曲ではしっかりラップし、ロックの曲ではギターの音色に合わせて歌い上げて、曲ごとにメリハリを効かせる。それが安定感につながるし、いい意味で彼の音楽はわかりやすい。

画像3: ポスト・マローン初の単独来日公演をレポート

“早死にしたくない”と歌う「Too Young」の前に、「今年で28才なんだけど、父親になってさ!」と、友達に話す調子で報告するポスティ。もともと、いい奴キャラではあったけれど、今回、ずっと感謝モード全開で「愛」の人であったのはそういうことか、と合点が行く。筆者は、(4thアルバム)『トゥエルヴ・カラット・トゥースエイク』と(5thアルバム)『オースティン』の日本盤の対訳を担当した。1年の間に、歌詞での希死念慮が薄まった理由もわかった気がした。

日本語で何回も言っていた「乾杯!」、時折見せる風変わりなダンス。ミスフィッツのひとりのまま、歌唱力と自分に合ったメロディ、歌詞を作る才能でスーパースターになったポスト・マローンは、新型のヒーローである。

「Congratulations」の大合唱と、アンコールでの「Sunflower」と「Chemical」で場内のヴォルテージは最高潮に達した。「Sunflower」は、大ヒットした『スパイダーマン:スパイダーバース』と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の両方で使われるほど、愛されている曲。途中のファンにギター演奏をさせた演出でもひまわりが出てきたが、そういえばポスト・マローンもひまわりみたいな人だった。

(文:池城美菜子/編集:フロントロウ編集部)

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