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「推し活」と「レトロ」の流行は同じ理由だった?

  • 2023.9.29

近年話題の「推し活ブーム」と「昭和レトロブーム」。一見無関係なこの2つに、実は同じ心理が隠れているかもしれない。そう指摘するのは、マーケティングリサーチャーの三浦展(あつし)さんだ。2023年9月19日発売の著書『孤独とつながりの消費論』(平凡社)の中で、その共通点を考察している。

現代人は応援したい

書名の通り、2つをつなぐキーワードは「孤独」だ。孤独は以前から大きな社会問題の一つだったが、コロナ禍でさらに拍車がかかった。単に人とのつながりが希薄になるだけでなく、リモートワークなどの影響で家庭内不和が起こるという例も少なくない。

三浦さんは、20~69歳の男女1500人へのアンケート結果をもとに、アイドル・推し活、美容、音楽、お笑い、スポーツなどのさまざまな趣味消費と、孤独を感じるかどうかなどを照らし合わせて考察している。

「孤独を推し活で埋める」という心理は想像しやすい。実際、孤独を感じる人ほど推し活消費が多いという結果が出ている。属性別では、未婚女性と既婚男性の推し活消費が際立っている。恋人や配偶者がいても孤独が埋まっていない場合もあり、既婚でも家族への不満がある人や、女性では子どもがいない人が推し活にのめり込みやすいことがわかっている。

三浦さんは近年の推し活について、ロックミュージシャンに熱狂するような昔ながらのファン活動とは一線を画し、まだ無名の人や物を「応援」するという意味合いが強いのではないかと指摘している。「応援してあげなきゃいけない」「私がファンでいなければ」という心理によって、孤独を埋めているのだ。「応援」は本書のキーワードの一つ。第3章では「一億総応援社会」と題し、現代人が推しやスポーツ選手、被災地などを応援したくなる心理を考察している。

レトロと孤独の関係

三浦さんは、昭和レトロブームを「時代を推す」ことだと表現している。また、古い店がなくならないように通ってお金を落とすという意味で、応援としての面もある。

さらに別の側面からもレトロと孤独をつなげることができる。三浦さんは、昭和レトロはいわば「日本大好き消費」ではないかと言っている。昭和を愛するのは現代や未来への期待がないからかと思いきや、日本の将来について「良い方向に向かっている」と答える人のほうが、レトロにはまっている傾向があるという。

「日本や自分の地域の文化・芸術を通じて、どのくらい豊かさを感じるか」という問いも参照している。豊かさを感じている度合いに高い点数をつける人ほど、レトロ消費額が多くなっている。一方で孤独を感じるかどうかと照らし合わせると、20~49歳男性で特に、孤独な人ほどレトロ消費をする傾向がある。

文化・芸術の豊かさの問いと孤独の問いのみを見ると、年齢を問わず、孤独な人ほど豊かさを感じにくいという。しかし昭和レトロを愛好している人は、「豊かさを感じているのに孤独も感じている人」ということになる。つまり、「日本はいいなあ」と思うことで、孤独をまぎらわすのだ。

古着が解決する?

第1~4章は、アンケートをもとに孤独と消費の関係を分析していく内容だった。第5章「古着が消費を変え、地方を再生する」と2節に分かれた事例レポートは、がらりと様子を変え、三浦さん自身の体験や取材したエピソードから、古着・中古レコード・地方移住の魅力を語っている。

本書のほぼ半分を占めるこの部分は、実は孤独とは直接の関係がない。あとがきにも、「古着の消費は孤独と相関しないので孤独論とは関係がない」と書かれている。しかし、マーケットの動きを追ってきた三浦さんが考える、これからの時代に人々をつなげて孤独を埋める消費活動こそ、中古市場と地方移住なのだという。

特に三浦さんが熱を入れているのが古着だ。古着の魅力の一つに、過去の誰かとつながる感覚がある。古着にはオーダーメイドの服や、タグに名前が書いてある服もある。前の所有者に思いを馳せながら選び、着ることで、一人で楽しんでいても人とのつながり感が得られる。

さらに、古着屋街でコミュニティが生まれる例や、地域の高齢者から古着を仕入れて販売するなど、古着を通してまちづくりに力を入れている例もある。古着は実際に人をつないでいくのだ。

前半は「推し活分析本」、後半は三浦さんの思いたっぷりな「古着推し本」という、少し変わった構成の本書。三浦さんの古着推しライフも含めて、何かにハマるということの心理がわかる一冊だ。

《目次》
序 消費は今、地下で拡大する
第1章 推し活は孤独者の宗教である
第2章 お笑いと美容も孤独が消費を増やす
第3章 一億総応援社会
第4章 昭和レトロは孤独な中年男性の癒し
第5章 古着が消費を変え、地方を再生する
事例レポート1 古着屋が街を変える
事例レポート2 地方移住──定年後に真鶴に住んだ男性は何を感じたか
あとがき

■三浦展さんプロフィール
みうら・あつし/社会デザイン研究者。1958年新潟県生まれ。一橋大学社会学部卒業。パルコ『アクロス』編集長、三菱総合研究所を経て、99年、カルチャースタディーズ研究所を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。著書に『下流社会』(光文社新書)、『再考 ファスト風土化する日本』( 編著、光文社新書)、『第四の消費』『永続孤独社会』(以上、朝日新書)、『3・11後の建築と社会デザイン』(共編著、平凡社新書)、『商業空間は何の夢を見たか』(共著、平凡社)など多数。

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