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【考察】「10年後も20年後も残る」と思わせる最大の理由。吉岡里帆&永山瑛太『時をかけるな、恋人たち』

  • 2023.10.11
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(C)カンテレ

タイムリープやタイムトラベルものは、やり尽くされている。確立された定番ジャンルであるがゆえに、新鮮さを保つのが難しい。どうしたって、過去作と比べられてしまうもの。

しかし、10月10日23時に初回が放送された火ドライレブン枠の新作『時をかけるな、恋人たち』は、なにやら、様子が違う。「このドラマは10年後も20年後も残るはず」と思わせる理由を考察したい。

「SF+コメディ+恋愛」ごった煮なのに違和感なし

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吉岡里帆演じる現代人・常盤廻が、未来人・井浦翔(永山瑛太)と出会い、なぜかタイムパトロールの隊員として仲間に加わることになる……という冒頭。いやでもSF臭がただよってくるあらすじだ。

その展開も唐突。廻は「辻褄合わせ」が得意なアートディレクターをしていて、西垣匠演じる後輩・広瀬航に密かに好意を持っていた。しかし、航は受付嬢と付き合っていて、なんと婚約までしていることが発覚する。物語がスタートして、すぐに失恋する廻。彼女が翔と出会うのは、失恋のショックでヤケ酒した夜のことである。

未来人の話のスピードは、現代人の廻にとって早すぎる。酔った頭で「違法タイムトラベル」「タイムパトロール隊員になってほしい」「副業でもいいから」なんて聞かされても、ハイわかりました、とは言えないだろう。このテンポの良さがなんともコミカルで、さすが、映画『リバー、流れないでよ』(2023)で原案・脚本を務めた上田誠の手腕が感じられる。

SF、コメディ、恋愛要素。一気に混ぜ合わせると良くない影響を与え合い、美味しくないごった煮が仕上がってしまいそうである。しかし、不思議なことにこのドラマでは、もっと味わいたいと思わせられる旨みに変化しているのだ。

ピリッと舌に残る、消えない切なさ

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1話では、未来人の横井大知(泉澤祐希)が現代人のシンガーソングライター・綿谷ジュン(吉澤嘉代子)のマネージャー業をしていることがわかる。過去の音楽CDを漁るのが趣味だという大知が、違法なタイムトラベルで令和にやってきて、ジュンの歌に出会った。歌に惹かれてマネージャーとして手伝ううちに、静かに恋に落ちていたのだ。

この物語では、未来人と現代人が恋愛をすることは御法度とされている。タイムトラベルものではよくある。「歴史の改変を防ぐため」というやつだ。

大知が令和にやってきたのは、違法な歴史の改変をするためではなかった。それでも、お互いの記憶を消し、それぞれ元の時代で生きる選択をしなければならない。別れの直前、両思いだったことを知った大知とジュンの表情は、簡単には拭いきれない切なさとして残る。

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終盤、「辻褄合わせ」が得意なアートディレクターとして廻が施した粋な仕掛けは、観る人の心をじんわりあたためる。山椒のある・なしで鰻重の味が変わるように、ピリッとした後味を残している。何年経っても、このドラマを忘れることはできないだろう。そう予感させる展開と仕掛けが、30分の間に詰まっているのが『トキコイ』なのだ。

 

※記事内の情報は執筆時点の情報です


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_