故・斎藤久美によるイーリーキシモトの写真集が発売に。

ロンドンをベースに活躍したフォトグラファーで、フィガロ ジャポンにも長年に渡って数々の美しい写真を撮影、提供しながらも、2020年12月に病によって他界した故・斎藤久美。彼女のアーカイブ写真集シリーズ第3弾「ELEY KISHIMOTO-Patron Saints of Patterns」が9月15日に発売された。

イーリーキシモト の代表作ともいえる「Flash」柄の表紙が目印。

イーリー キシモト（ELEY KISHIMOTO）は岸本若子とマーク・イーリーによって1992年にロンドンで設立されたテキスタイルデザイン会社だ。ルイ・ヴィトンやアレキサンダー マックイーン、ジル サンダーなどの有名メゾンにプリント柄を提供しながら、1996年から2017年までは自身のブランドでも服やアクセサリーを発表。現在も数々の企業にプリントデザインを提供してコラボレーションを行っている。

斎藤は2001年から16年まで、イーリーキシモトのハウスフォトグファーとしてショーやイベント、ルックブックのアイテム撮影など幅広く担当。本書ではそれらに加えて、斎藤が雑誌の記事用に撮影したテキスタイルやポートレイトも収録して、斎藤の目が捉えたイーリーキシモトの世界を見せている。

スタジオでデザインデスクに向かう岸本。

四つに分かれた構成の第一章は「PATTERNS」。イーリーキシモトの真骨頂ともいえる、プリントデザインを並べる。自分たちのブランドのために初めてデザインした「エッグ・アンド・ダイヤモンド」を筆頭に、ロマンチックでありながらダイナミックな「ギャラクシー・ブーケ」、トロンプルイユのような「フリルズ」など。どれも今みても魅力にあふれ、力強い。

「ギャラクシー・ブーケ」

「ローピー」

「フリルズ」

「ウォールフラワー」

第二章は「COLLECTIONS」。デビューコレクションの01~02年秋冬から最後のショーとなった2010年春夏までの18シーズンを紹介。ランウェイだけではなく、バックステージの様子も活き活きと捉え、エネルギー溢れるさまが伝わってくる。毎シーズン、プレスリリースに代えて岸本が綴った詩も同時に収録されていて印象的だ。

2004年春夏コレクション「The Butterfly Brigade’s Nightmare 」より。

2008年秋冬コレクション「Bonnie Bunny」より。

2009年秋冬コレクション「Jet Set Masala」より。

バックステージ。岸本の後ろ姿もみえる。

第三章は「EVENTS」。2003年にヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催された回顧ショーを筆頭に、ポップアップショップやエキシビションなどの多彩な軌跡を振り返る。スポーツブランド「エレッセ」とのコラボレーションやパリのブランド「キャシャレル」のためのコレクションも興味深い。

2003年のポップアップショップ「アーカイブストア」のウィンドウディスプレイ。

第四章は「STUDIO」。20年近くに渡ってイーリーキシモトが活動拠点とした南ロンドンのスタジオが閉鎖する直前の2016年に、斎藤が仕事ではなく自身の作品として内部を撮影。手描きでデザイン画を作成していた岸本のデスク、生地にプリントを施すためのシルクスクリーン、サンプルの縫製に使われたミシンや編み機、レールに下がる無数の型紙など、ハンドメイドにこだわった彼らのもの作りの現場の息遣いをそのまま封じ込めたような写真の数々に胸打たれる。

床も壁も白く塗られたスタジオ内には製作にまつわるさまざまなもので埋め尽くされていた。

工房の一角には、デザイン画をはめ込んだシルクスクリーンの枠が。

おびただしい数のパターンと布地が並ぶ。

編集を手がけたファッションジャーナリストの若月美奈は「（斎藤は）幾度となく彼らの作品やポートレイトを写真に収めてきた。マークは『撮影がないイベントでも、久美はいつも一緒にいた』と、ブランドのファミリーの一員として時代を共にしてきた彼女のことを振り返る」と前書きで記している。

9月7日には若月と岸本、マークによるトークイベントがロンドンのファッション＆テキスタイル博物館で開催された。斎藤の家族や古くからの友人たち、イーリーキシモトのスタッフらを含む多くのオーディエンスを前に、デザインテキスタイル会社のスタートや自身のブランド設立の頃を振り返りつつ、斎藤との思い出を語った。

ファッション＆テキスタイル博物館でのイベント会場にて。右から岸本、進行を務めたファッション・ジャーナリストのテリー・ニューマン、若月、マーク。

ファッション＆テキスタイル博物館のミュージアムショップでも入手可能。

「ELEY KISHIMOTO-Patron Saints of Patterns」は、イーリーキシモト の不朽のデザインとともに、当時のロンドンのファッションシーンを物語る貴重な一冊となっている。

取り扱いは、THE SHE、ヴァルカナイズ・ロンドン、MACH55. Ltdなど。

またロンドンのLanka Online Shopではイギリスだけではなく、14の国へのインターナショナルシッピングも受け付けている。

「ELEY KISHIMOTO-Patron Saints of Patterns」発行：パースニップス・アーカイブ（イギリス）＊日本国内では洋書扱いとなる。