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紅葉が魅せる一期一会の風景。女神様が待つ「雨飾山」登山レポート

  • 2023.9.26
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こんにちは!トラベルライターの土庄です。北海道の大雪山や日本の屋根・北アルプスといった日本屈指の山々から始まる山岳紅葉ですが、10月に入ると日本各地の高山が一気に色づきます。

訪れる山にもよりますが、山の紅葉の最盛期は2〜3週間ほど。そのわずかな期間に、多くの登山愛好家が感動的な紅葉を求めて山を訪れます。

今回は長野と新潟の県境に位置している「雨飾山(あまかざりやま、標高1,963m)」をご紹介します!圧倒的な原生林の紅葉に加え、雲海の切れ間には北アルプスの絶景が待っていました。

四季の移ろいを旅する。紅葉の樹林帯歩き

妙高戸隠連山国立公園にある雨飾山は、有名な登山愛好家・深田久弥著「日本百名山」のひとつに数えられている双耳峰(二つ山頂がある山)の美しい名山です。

同じく日本百名山の火打山(ひうちやま、標高2,462m)、妙高山(みょうこうさん、標高2,454m)とともに頸城(くびき)山塊という山域を形成しています。

南北に登山口がありますが、メジャーなのは南部の雨飾高原キャンプ場。ここから山頂まで往復約7.5km、約6時間半、累積標高差1,100m弱のコースタイムとなっています。

前半はひたすらに樹林の中を登る道。分岐も迷う箇所もありません。日の出を迎えたばかりの時間は、まだ夜の延長のような静けさ。早朝に出発すれば混雑せず、自然に向き合う時間を楽しむことができますよ。

筆者が訪れた10月中旬には、ブナの原生林はまだ色づき始め。淡く色づく木々に癒やされながら登っていくと、次第に紅葉が色濃くなり、鮮やかさを増していきます。

わずかに標高が変わるだけで、紅葉の進み具合も異なります。麓では夏の余韻に浸り、登っている途中は秋の色を眺め、山頂近くは冬の気配を感じられるなど、まさに秋の登山は四季の移ろいを旅しているよう。

そして訪れるタイミングが数日ずれるだけで、道中では全く違う景色が見られるのです。一期一会の山の表情に出会えることも、紅葉登山の醍醐味だと再確認しました。

巨岩と紅葉のハーモニーを眺める。絶景の荒菅沢

登山開始から約1時間ほどで荒菅沢(あらすげさわ)へ。道中はずっと広葉樹林に囲まれる山深い道だけに、突如景色が開けると思わず感動の声をあげてしまいます。

目の前には雨飾山の主稜線。布団菱と呼ばれる大岩を育む、荒々しい山容がたたずみます。そして周囲には、まるで絵画のように鮮やかな紅葉が展開!紅葉の名山・雨飾山を象徴する区間へ入ります。

そこには山の斜面を覆い尽くす紅葉のカーテンが。見渡す限り、山がオレンジ色に染まっています。これぞ「全山紅葉(山が全て紅葉すること)」と呼ばれる絶景です。

麓から山頂に至るまで気温の寒暖差が少ないと、紅葉が落葉せずにキープされ、このような感動的な山岳風景を眺めることができます。

荒菅沢は雨飾山の中でも唯一と言ってもよい水場。そしてここからは急登が続く負荷の少し高い道が続くので、多くの登山者が休憩に立ち寄ります。

少しひんやりとした秋の風で火照った身体を冷やしつつ、絶景を眺めながらいただくごはんは最高です!早朝7時過ぎながら、すでにこの充実度。まさに早起きは三文の徳ですね。

高度感のあるアスレチックの稜線から霧の世界へ

ここからは梯子や岩場が連続し、登山道はいっそう険しくなります。紅葉のピーク時には登山者の渋滞が発生することもしばしば。すれ違う登山者と道を譲り合いながら進みましょう。

標高も1,000m後半に差し掛かってくると、森林限界(高木が生育できず森林を形成できない限界線)を迎えます。景色がダイナミックに開け、吸い込まれるような高度感とともに、山肌に広がる紅葉に見入ってしまいますね。

ところどころ現れる岩場はこのような感じ。少しスリリングですが、滑落の心配はありません。まるで天然のアスレチックで遊んでいるような道が続きます。

それにしても、山頂に近づくにつれ濃い霧が出てきました。日中の寒暖差があり、視界が安定しにくい秋。こればかりは運ですが、なんとか晴れてくれることを信じて、一心不乱に登っていきます。

8合目を越えて笹平へ到着しました。しかし残念ながら、視界不良で何も見えません。少し落胆してしまうのですが、気持ちの切り替えも山を楽しむ上では必須。

霧が出ているからこそ、幻想的な雰囲気が増しますし、山の厳しさをより味わうことができるので、これも山の表情の一つだと思って山頂を目指します。

視界は皆無。けれど確かに近づいている山頂

笹平というように、山頂の直下がテーブル状になっている雨飾山の山頂周辺。前半とは打って変わって平坦な道のりで、息を整えながらハイキングします。

視界はゼロですが、山頂までの標識が現在地を教えてくれます。雨飾山の登山道には11合目まで数えているユニークな標識がありますよ。あと少しなのは間違いありません。

束の間ではありますが、ところどころ視界が開けてくれるのが唯一の救い。霧で満たされているとわからないものの、確かに山の上にいるんだ!と感じさせてくれる絶景が広がります。

先ほどまで見上げていたはずの巨岩が、もうこれほど下に。稜線の紅葉はすでに終わっていて、晩秋の趣とともに、冬の足音を感じました。

そして登山開始から約3時間で、雨飾山へ登頂!達成感に浸りたいところですが、あいにく視界は不明瞭のまま。筆者の表情にも煮え切らなさが表れていますね(笑)。

時間はまだお昼前で余裕があるので、わずかな望みをかけ、30分ほど山頂に留まることに。すると奇跡的に視界が晴れてきました。

山の神様が降臨。アルプス・雲海・紅葉が織りなす雨飾山頂

待つこと15分ほど、先ほどまで曇っていた中に光が差し始めました。霧が流れていき、山頂が少し顔を出し始めたのです。

筆者だけでなく他の登山者の方々も総立ち。「おお〜!」という歓声も上がります。まさに山の神様が舞い降りた瞬間です。

正面に目をやれば、飛散して雲海のように広がる霧の先に、雄大にそびえる北アルプスの山々。そして眼下には、燃えるような紅葉に彩られる名もなき峰が広がります。

一瞬でしたが、その神々しい風景に魅せられてしまいました。中でも、天を衝くようにたたずむ槍ヶ岳(標高3,180m)の山容が格好良かったです。

そして後ろを振り返れば、女神様の横顔が……! 実は登山道の導線が、女神の横顔を描いているようだと話題で、雨飾山の女神様として密かに知られているのです。

霧よりも雲が多くなったものの、数分後には一気に霧の中へ逆戻り。しかしあの時間に山頂にいたからこそ、感動的な瞬間に立ち会えました。あの光景は今でも忘れられません。

神仙の世界。紅葉にダイブするパノラマ下山

山頂は霧に覆われてしまったものの、下の登山道はまだ少し晴れていたので、行きには見られなかった紅葉パノラマを眺めながら下山していきます。

まさにオレンジ色で埋め尽くされている鮮やかな山肌。日本有数のブナの原生林が根付いているからこそ、格別の風景を見せてくれました。

行きには急登だった道を下山すると、この通り。まるで紅葉にダイブしていくかのような道が続いていきます。奥の山も霧をまとい、上から下まで紅オレンジ色で染まる全山紅葉です。

古来より雨飾山が信仰の山として讃えられる、その神秘さも垣間見られた気がします。

麓のほうへと下りるほど晴れてきて、後半は紅葉のトンネルを清々しく潜っていきます。紅葉といってもオレンジ色だけでなく、黄色や黄緑まで複数の色合いが重なり合った、まるで油絵のような風景に魅せられながら、無事に下山することができました。

一度見たら忘れられないほど美しいと言われる、雨飾山の紅葉。秋ならではの季節の情緒や劇的な景色変化を楽しんだ、充実した登山になりました。

全国各地の山が紅葉に染まる秋、皆様もぜひ近場の山に出かけてみてはいかがでしょうか。

All photos by Yuhei Tonosho

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