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New Jeansだけじゃない!数々のK-POPグループの躍進を支えてきたミン・ヒジンとは?

  • 2023.9.25

少女時代、SHINee、f(x)、EXO、Red Velvetなど、数多くのクリエイティブに携わってきたミン・ヒジンは、デザイナーの枠を超え、プロデューサーに。彼女の飛躍と今後のK-POPの未来は?

2022年にデビューした新星NewJeansは、ほかのグループがK-POPの成功法則に倣った楽曲を追求する中、ファンではなくともプレイリストに入れておきたくなるイージーリスニングな楽曲で、韓国のみならず、世界的アイコンとなりつつある。彼女らをプロデュースする所属レーベルADORの代表取締役でもあるミン・ヒジンは、このムーブメントのいちばんの立役者だ。しかしK-POP を知る人からすれば、彼女は現在世界で評価されるK-POPの視覚表現の基盤を20年前に築き、最も影響を与えたクリエイターとして記憶されているはず。ADORの親会社HYBE創設者でBTSの生みの親としても知られるパン・シヒョクは「K-POPとビジュアルディレクションを融合させた先駆者」と彼女を評している。これまでのNew Jeansの躍進を紐解くには、彼女が自身のレーベルを創設する以前、19年まで在籍したSMエンタテインメント(以降SM)でのクリエイティブから振り返る必要がある。

――スタイルを確立したSM時代。

ミン・ヒジンが大学で視覚デザインを学んだ後、SMに入社した02年は、K-POP史だと第一世代から第二世代への過渡期となる。入社当初はSMですら社内にクリエイティブ関連の包括的な部署がなかったが、彼女はデザイナーというポジションで役職を超えた挑戦的な提案と実績を積み重ね、徐々に制作システムを確立し、総合的なクリエイティブディレクションを一任されるようになった。少女時代ではカラースキニーボトムを多彩に使いこなすなどファッションのトレンドを先導し、SHINeeではそれまで男性アイドルには珍しかったカラフルでボーイッシュなスタイリングにいちはやく挑戦。f(x)ではMVとは異なる実験的アートフィルムを限られた予算内で自身が企画・監督を行い、インスタレーションの展示を行うなど、大衆音楽に芸術的なエッセンスを付加。EXOでは、ティーザー動画をヒントにしたファン参加型の謎解きプロモーションでSNS時代の新しいアプローチを成功させた。Red Velvetでは、サイコホラーを思わせる設定を、アイドルの世界観に巧妙にマッチさせるなど、写真やイメージのディレクションにおいて大手事務所とは思えない挑戦を続けた。

NewJeans『NewJeans 1st EP』(2022年)配送物を思わせるような大きな段ボールボックスとCDラベルには、メンバーが自ら描いたイラストがたくさん起用されている。ブックレットも、豪華というよりzine のような紙質や印刷、紙面デザインでカジュアルな雰囲気があり、彼女たち自身が作った等身大の作品であるような演出。

NewJeans 「Season's Greetings」(2023年)一般的に封入特典が多いのがシーズンズグリーティングだ。NewJeansの場合はキーホルダー、トランプ、ドアサインプレートなどユニークなアイテムが多く、道具箱のようにファンを子ども時代へとタイムスリップさせる。

――デザイナーからプロデューサーへ。

「好きな音楽でアルバムを作りたくてレーベルを立ち上げた」と語るほど、Big Hit Entertainment(現HYBE)に所属してから彼女のクリエイションの幅は広がった。K-POPの総括プロデューサーといえば、音楽プロデューサーやミュージシャン、マネジメント出身の者が担うケースがほとんどだ。前職でもクリエイティブディレクターの枠組みを超え、楽曲タイトルも提案してきた彼女だったが、どうしても起点となるキャスティングやトレーニングに介入することは難しかった。だからこそ作曲家出身でない自身の音楽プロデュースについて、外部からの干渉がないことを唯一の条件とし、振り付けまでに及ぶ全過程を指揮することで真の意味でトータルプロデュースしたグループ、NewJeansを誕生させた。デザイナー出身のアイドルプロデューサーによる恩恵は、コンセプトからアウトプットへの純度に表れた。雑誌の企画ではミン・ヒジン自らがメンバーを撮影するなど、そのシナジー効果は特別なものだ。脇を固める布陣も抜かりはない。彼女はプロデュース業とコンセプトの創出に比重を置き、アートディレクションはSM時代から苦楽をともにした旧友キム・イェミンやキム・ナヨンが実質的なビジュアルの指揮をとっている。そして専属のスタイリストであるチェ・ユミが、原宿系を彷彿させるY2Kスタイルを駆使して彼女たちのアイデンティティを保っているのだ。

EXO『Growl』(2023年)バインダー型のハードな用紙で作られたストリートスタイルのスナップ本のようなシンプルな構成で、ページごとにソロカットがありグループ全体の写真がないことも徹底している。

Red Velvet『Summer Magic』(2018年)特典のペーパークラフトがとにかく秀逸。パッケージ自体が台座となっており、ミン・ヒジンの得意とするコラージュ手法を再現するかのようにメンバーごとに異なったシーンを立体視できる。

――New Jeansのイノベーション。

ミン・ヒジンが表舞台にいなかった3年の間にK-POP界全体はさらにグローバル化し、デザインやMVの質は事務所の規模に関わらず進化した。それでもNewJeans のクリエイティブがほかと一線を画すのは、「K-POPの成功法則を打ち破りたい」と彼女が語るように、SM時代から変わらぬ新しい戦略の起用にほかならない。デビュー作ではK-POPでもはや定石となったティーザーすら使用しないままグループ名とMV本編を同時発表し、翌日には各メンバーをフィーチャーしたMVを同楽曲で4形態出すことによって、ファンはメンバーの名前を覚えるため繰り返し視聴した。ファンとのコミュニケーションにおいては、所属事務所HYBEの運営するプラットフォームWeverseを使用せず、ガラケー時代を懐古するような作りが特徴の独自アプリ、Phoningによって“ファンと友だちのような存在になりたい”というメンバーとの親密な連帯感を体現している。またパッケージデザインでは、レコードの形をしたショルダーバッグ形態を販売したことは、特に革命的だった。一貫しているのは、上品さよりも楽しさを重視したデザインで、ファンが子ども時代の遊び心を思い出させることのできる点だ。K-POPでは軽視されがちな公式サイトでもこういったプラットフォームを活用し、ファンオリジナルのパッケージやメッセージカードをデザインできる参加型ウェブコンテンツとして注目されることとなった。

少女時代『The Boys』(2011年)9人のメンバーがそれぞれ異なる童話の役を演じたスタイリングと、それらを象徴する小道具の緻密なイラストを特製缶ケースに印刷し、アンティークな雰囲気に仕上げている。

SHINee『The Misconceptions of Us』(2013年)ジャケットはミン・ヒジンの得意とするコラージュワークの中でも屈指の作品。ブックレットにはメンバーもイラストで参加しており、三方背ボックスのジャケットイラストは、アートに造詣の深いメンバー、Keyによるもの。

――5人とクリエイティブの未来。

ミン・ヒジンを起点としたビジュアル制作、そして徹底的なブランディング戦略によって、NewJeansは世界的スターとなった。マクドナルドのキャンペーンモデルやコカ・コーラとのコラボ楽曲を発売、それぞれのメンバーがラグジュアリーブランドのアンバサダーを務めるなど、グローバル企業からのラブコールも多い。デビュー1年でここまでの飛躍を考えると、短期的に消費されてしまうのではという懸念もある。通常、男性アイドルはファンダムの支持が強力なため、兵役というハンデがあってもなお活動を継続でき、少年から青年への成長やコンセプトの変遷も中長期的に考えられる。これに対し女性アイドルは、大衆的知名度の代償として流行とともに消費され、年齢とコンセプトとのバランスが難しくグループを持続する点で課題が多い。それに対して、ミン・ヒジンはどのような解決策を見つけていくのか。彼女が想い描く世界観を演出するためにNewJeans5人のヘアメイクやスタイリングなどは意図的に統一されてきたが、これもメンバーの成熟に合わせてどのように変化していくのだろうか?SM時代はキャスティングに関われなかったが、「NewJeansは楽しく、明るくエナジーのある健康的なチームを目指し、このメンバーにした」と語るように、キャスティングから関わることで本当の意味でミン・ヒジンのグループが実現した。彼女が歩んできた視覚的なデザイナーから総合プロデューサーへの道は、K-POPの方程式の打開策なのか、あるいは“新たな方程式”になりえるのか。これまで、K-POP を築いてきたミン・ヒジンならば、常に自分自身を超えて、新しい道を創り続けるだろう。

少女時代『I Got a Boy』(2013年)少女時代において各メンバーとグループ全体の複数形態が初めて作られた作品。アクリルケースに印刷されたアルバムロゴとタトゥーアートが、ボックスの写真やイラストと重なることで完成するグラフィックのデザインが秀逸。

EXO『Overdose』(2014年)MVに登場するハニカム型の迷路になぞらえた、シンプルなデザインながら、そこにちりばめられた12進数を使った暗号は考察系アイドルEXOの欠かせない要素。SMの大黒柱であったEXOにおけるミン・ヒジンの関わり方は、f(x)やSHINeeとは違いデザイナーとして実直な印象がある。

f(x)『Pink Tape』(2013年)ピンク色のVHSを模したハードケースに収録された、ミン・ヒジンを語るうえでのマスターピース。ブックレットは、無国籍で正体不明な学生に扮したメンバーのスタイリングと、ドットフォントを使ったレトロなデザインになっている。今日のNewJeans作品に見るクリエイティブの原点とも言える。

MIN HEEJIN/ミン・ヒジン1979年、韓国生まれ。2002年よりSMエンタテインメントに所属し、東方神起、少女時代、SHINee、f(x)、EXOなどさまざまなグループのアートディレクションを行う。2019年に当時のBigHit EntertainmentのCBOに任命。2022年8月にNewJeansをデビューさせた。

Text: hydekick東京を拠点にグラフィックデザイナー、ウェブデザイナーとして活動。さまざまなK-POPのジャンルを網羅する。グラフィックデザインの視点から、K-POPのアートディレクションを論じるnoteが話題。https://note.com/simonsays

*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋

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