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井浦新さん、真木ようこさんと「きらめき」を体感 映画『アンダーカレント』

  • 2023.9.24

失踪中の夫を待ちながら銭湯を経営する女性が心の奥底に閉じ込めた思いを描く豊田徹也さんの長編コミック『アンダーカレント』が実写映画化され、10月6日から公開されます。ふらりと銭湯を手伝いにやってきた謎の男・堀を演じた井浦新さんに、作品の魅力や共演した真木よう子さんについて聞きました。

人物全員が際立ち、余韻の残る作品

――本作の第一印象はいかがでしたか。

井浦新さん(以下、井浦): 登場人物が少ないところは、昨今ではあまりなかったなという印象を受けました。30代から50代の大人たちが作っていく物語でもありますし、登場人物が少ないからこそ一人一人が同一線上に浮き立ってくる。全員が際立っているなと感じました。

真木よう子さんが演じるかなえが背負うものは、演じる上で随分と大変だったと思います。他の登場人物もごまかしが効かないというか、それぞれの芝居がちゃんとしていないと、原作から感じる『アンダーカレント』の世界観が伝わらない。俳優としての一人一人の力量がものすごく問われると思っていました。

朝日新聞telling,(テリング)

――個々の演技力素晴らしく、キャスティングの妙も感じました。

井浦: 僕が原作を読んだ時も「これは参加する俳優たち次第で、すごく変わっていくな」と思っていました。僕が今回のお話を伺った時は、まだ真木さんと僕しかキャストを聞いていなかったので、一体どんな人たちが揃うんだろうとワクワクしていましたし、実際に決まった俳優部の方々を見た時は、思わず身震いしました。

――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。

井浦: 見終わった後、心にじわっと残るものを感じました。この作品の中に染み込んでいるものがどんどん伝わってきて、なんとも言えない余韻がありました。物語に心を寄せることはもちろんですが、僕はキャスト一人一人の芝居をとても楽しく見ていました。

――かなえ役を演じた真木さんとのつかず離れずな距離感が絶妙でしたが、お二人の共演シーンはどのように作られたのでしょうか。

井浦: 特に話し合ったわけではなく、現場で自然と生まれたものです。これは僕なりの捉え方ですが、真木よう子さんという俳優は「こうしよう、ああしよう」というプランをもってやるよりも、本番のその瞬間に生まれてくる「きらめき」みたいなものを重視される方だと思います。それを言い換えるとお芝居ということになるのかもしれませんが、芝居をしているというよりは、命のきらめきみたいなものを僕はいつも真木さんから感じるんです。

そうですね、ちょっとシャーマン的というか、巫女さんのようにも感じました。もう一回やったら次はどうなるか分からないような緊張感や、動物的感覚を使ってこられる。僕もどちらかというとそういう方が好きなので、それをいつでも受け止められるような状態にしておきたかったんです。それくらい、真木さんとのお芝居は刺激的で楽しかったです。

朝日新聞telling,(テリング)

真木さんの演技、一つもこぼしたくなかった

――堀という人物を演じる上で心がけたことはありますか?

井浦: 堀はかなえに対して何もしないし、しないようにしている。それを芝居では表さなくても、僕自身は真木さんのやっていることを全部キャッチして、そこから堀という男をつかむ選択をしていこうと思いました。例えば、堀はかなえから問いかけられても無視したり、見ないふりをしたりしますが、その代わり、目の前で真木さんがやることに自分の全部の意識を向けるような感覚でやっていました。堀を演じる上で、真木さんがかなえとしてやることを1㎜もこぼしたくなかったんです。

――堀は口数が少ないので中々本心が見えてこないのですが、ふとした時に優しさがにじみ出ていたように感じました。

井浦: かなえは過去の色々な出来事を抱えながら銭湯で働いていて、そこに堀という謎の男が現れて仕事を手伝い始めるのですが、二人にどんな思いがあって、なぜここにいるのかということを僕たちが事前に打ち合わせするのは不要ですよね。それよりも、本番で生まれる命のぶつかり合いや寄り添い合いみたいなものを、僕も真木さんも大事にしたいと思っていました。堀は中々言葉には出しませんが、真木さんが演じるかなえを見て、思わず「力になりたい」と思った感情が端々で出ているのかもしれません。

朝日新聞telling,(テリング)

それぞれの未来は続いている

――映画は、原作とはまた違うラストシーンが印象的でした。井浦さんは映画で追加されたラストシーンをどのように捉えていらっしゃいますか。

井浦: 正直なところ、僕はそこに対してあまり深く考えていません。今泉監督が映画の『アンダーカレント』を作る上で必要だったのだろうと思います。漫画で見たものを映画として見た時に、例え原作と全く同じような終わり方だったとしても、耳も視覚も使って、そこに人の思いや心が乗っかった言葉や表現で伝えた場合、絶対に漫画と同じような気持ちで終わるはずがないんです。なので、今回の映画版ラストシーンも、僕の中で全く違和感がないし、映画ではこの余韻がないとこのエンドロールに着地できないだろうと原作を読みながら感じていました。

原作とは違うラストシーンが加わったことで、映画の『アンダーカレント』の世界はまだ続いているという終わり方は、いい意味で原作を踏襲しながらも、映画だからこそできるチャレンジだったんじゃないかと思います。かなえや堀、あの地域の住人たちの「この先」は確かに続いていて、そこにはまた雨が降るかもしれないし、雲の隙間から一筋の光が差してくるかもしれない。すべてが明るいわけではないかもしれないけど、まだまだ彼らの未来は続いていますから。

・スタイリスト:KENTARO UENO
・ヘアメイク:NEMOTO(HITOME)

■根津香菜子のプロフィール
ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。

■家老芳美のプロフィール
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。

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