反抗期がないって悪いこと?
子どもの「反抗期」に日々どう向き合ったらいいか頭を悩ましている人は多いのではないでしょうか。
高校生と中学生の子どもを持つLASISA編集スタッフの筆者もその一人。
今日は機嫌が良さそうだと思ったらちょっとしたことで不機嫌になって部屋から出てこなくなったり、良かれと思ってアドバイスしたことに対して「うるさいっ!」と聞き入れてもらえないこともしばしばあります。
「反抗期だから」「いつまでも続かない一過性の時期」。そう言い聞かせながら子育ての正解とは?と悩む日々を過ごしています。実際、筆者自身も中学生の頃には、親に反抗したものです。
しかし、X(旧ツイッター)で、反抗期の子どもに悩む親がいる一方、「自分には反抗期がなかった」「親が怖くて反抗できなかった」「反抗期がなかったから感情の整理が難しい」というポストも見られます。
成長の過程において、反抗期は必ず必要なのでしょうか。
反抗期がなく大人になってしまったら人間関係で困難が起こるのでしょうか。臨床心理士の町田奈穂さんに聞きました。
Q.そもそも「反抗期」とはなんでしょうか。詳しく教えてください。
町田さん「反抗期とは、子どもが親や周囲の大人の指示や意見に異を唱えることが増える時期のことです。
主に2~4歳の間に訪れる『第一反抗期』と12歳前後の思春期以降に訪れる『第二反抗期』と呼ばれるものがあります。
“反抗”という言葉のイメージから悪いもののように捉えられがちですが、実は自律心が芽生えて、自分で善悪や物事の判断をしようと行動し始める、成長・発達においてはとても大切な時期です。
反抗期があることによって、これまで親や先生の言うことをそのまま従ってきたことに対して『本当にそうなのかな?』『〇〇をやってみたらどうなるかな?』『自分はどうしたいのかな?』と自らを知り、自ら考え、自分の意思で行動する力が育まれるのです。
また、小学校3〜4年生頃に、子どもたち同士で少人数のグループを作り、そのグループの中だけで遊んだり、先生や大人に反抗的な態度を見せるいわゆる『中間反抗期』と呼ばれる時期もあります。
これは、『ギャングエイジ』と呼ばれる時期で、“親と自分”“先生と自分”というこれまでの関係性だけでなく、“友人と自分”という横のつながりへと関係性を広げていくために大切な時期なのです」
Q.反抗期がなく大人になる人は増えているのでしょうか。何か原因があるのでしょうか。
町田さん「現在、反抗期を迎えることがなく大人になる人が増加している社会的背景としては、親や先生に怒られることや強く押し付けられることがなくなったという教育方法の変化があるのではないでしょうか。
理不尽に怒られたり、押し付けられ自分の意見が尊重されることがない環境では、そもそも反抗する必要がないため、反抗期を迎えることなく成長していくと考えられます。
また、“ヤングケアラー”という言葉も広まりつつあるように、近年では、子どもが子どもらしく育つよりも、大人が担うはずの家事や家族の世話などを日常的に子どもが行うことにより、反抗するよりも家族に協力的にならなければならない、という厳しい社会的な背景も、子どもが反抗する機会を自然となくしているのかもしれません。
明治安田生活福祉研究所が、2016年に全国の親1万人と子ども6000人を対象に行った『親子の関係についての意識と実態に関する調査』では、『反抗期と思える時期がなかった』人の割合は、親世代は男性28.1%、女性26.4%であり、子ども世代は男性42.6%、女性35.6%であったという結果が出ています。
この結果から反抗期がない人は増加していると推測できます。そして、その傾向は男性の方が多くみられる傾向があるといえます」
反抗期がなく大人になった場合どんな影響がある?
Q.反抗期がなく大人になった人にはどんな特徴があるのでしょうか。
町田さん「反抗期は、大人になる課程で自律心を芽生えさせ、自分で善悪や物事を判断し、自己主張する力を育むために大切な時期です。
もし、反抗期を通らなければ、自ら考え行動に移したり、自己主張したりすることが苦手な大人に成長してしまう可能性があります。
大人になっても、常に親やパートナーや友人など、誰かに判断を委ねないと物事を決められない、『なんとなく自分の人生ではない』『私のやりたいことはこれじゃない』と、自分が生きていくべき人生に対しても迷いが生じやすくなってしまうのです。
また、反抗期がなく大人になった人は、仕事面でもトラブルを起こす可能性があります。例えば、会社内で長時間労働やミスの押し付けといった理不尽な対応を受け入れざるを得ず、メンタルヘルスに支障をきたしてしまうことも考えられます。また、自ら考えて行動できないため、昇進・昇給の機会を逃したりすることがあるかもしれません」
Q.やはり反抗期は絶対必要なのでしょうか。
町田さん「人の成長発達の歴史やこれまでの研究結果から、反抗期があった方が大人になってから生きやすくなるのではないかと考えられます。
しかし、親が子どもの話をよく聞き、意見を受け入れてくれる、家族内でしっかりと話し合いができることで子どもが反抗という形以外で自律を練習していける環境が整っていた場合にはいわゆる“反抗期”というものがない人もいます。
つまり、反抗期は必ずしも必要ではないと考えられるのではないでしょうか。
一方で、親の押さえつけが強すぎる、ヤングケアラーといったそもそも反抗する機会がない人や、親に甘やかされて育ち自分の意見がなんでも通ってきた人は、反抗期がない場合もあります。
その場合は、大人になってから親以外の周囲の大人や上司などに対して強すぎる反発心が芽生えるなどの反動がきてしまう危険性も考えておく必要があります」
焦らず自分の感情に向き合っていく
Q.反抗期がないまま大人になり、今も苦しんでいる人たちが少しでも困難を克服する方法はないのでしょうか。
町田さん「自律ができないまま大人になった人は、『自分の意見を伝えられない』『自分の意見が持てない』『なんとなく毎日が自分のものじゃない気がする』など、一人一人が異なる困難を抱えています。心身共に常に疲労感を感じている人も多いでしょう。
まずは、しんどさ、辛さ、不安、怒りなど、現在抱えてるさまざまな感情を表現してみましょう。
誰にも見られることがないノートやスマホのメモに“今感じた気持ち”や“今日の出来事メモ”を記してみてください。
話す方が得意だ、誰かに話してみたいと思う人は、臨床心理士や公認心理師といった“こころの専門家”としての資格を持ったカウンセラーへの相談がおすすめです。
専門家であれば、安全な場所で、感情が爆発しすぎないように調整しながら、あなたのペースで話をしっかりと受け止めてくれます。
反抗期がないまま大人になった人の多くは、自分の思いや考えを表現することを苦手とされている傾向がありますので、表現することから始めましょう。
そして次のステップとして自らの趣味趣向を知っていったり、思いや考えを行動に移す練習をしていくなど一つ一つ積み重ねていきましょう」
町田さんが代表を務めている「大阪カウンセリングセンターBellflower」では、「何年もかけてご自身と向き合っている人もいます。心の問題は一朝一夕で解決するものではなく、痛みを伴いつつ期間をかけて向き合っていくものです。私たち専門家も一緒に歩んでいきますので焦らずじっくりと取り組んでいきましょう」というメッセージを送っています。
子どもの反抗期に悩みを抱えている人、反抗期がなかったため現在困難を抱えていると感じている人は、専門家に相談し、解決へのきっかけにするといいかもしれません。
(LASISA編集部)