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「ヴィトラ キャンパス」の「アウドルフ ガーデン」で働く庭師のために、建築家・田根剛が設計した家の話

  • 2023.9.20
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Tane Garden House(ガーデン ハウス)外観

「ヴィトラ キャンパス」は空や山々、ぶどう畑が眺望できるスイスとドイツの国境沿い、ヴァイル・アム・ラインの広大な敷地に位置する。

「ヴィトラ キャンパス」にはフランク・ゲーリーやヘルツォーク&ド・ムーロン、ジャン・プルーヴェ、ザハ・ハディド、篠原一男、安藤忠雄、SANAAといった世界に誇る建築家たちの作品が常設。それらの建物の一部は、ミュージアムや家具の組立工場、カンファレンススペースとして実際に現在も使われている。

Tane garden houseとアウドルフガーデン
「アウドルフ ガーデン」は、ピート・アウドルフが設計と植栽計画を手掛けた4,000㎡の庭に隣接している。道に迷い込んだような曲がりくねった曲線が特徴的。曲がるたびに別の風景に出会う。
庭師
ガーデンの庭師。ペルシカリア・アンプレキシカウレ'アルバ'、エキナセア・パリダ'フラダンサー'、モリニア・パープル・ムーアグラス('ムーアヘキセ')といった神秘的な名前の植物も含め、約3万本が共生しているという。

スイス・バーゼルの駅からバスで20分ほど、雨上がりの朝一番に「ヴィトラ キャンパス」へ。鳥たちのさえずりを聴きながら「アウドルフ ガーデン」のあちこちに没頭して歩いていると、精彩な黄色のTシャツを着たひとりの庭師がせっせと花々の手入れをしている。こちらが庭一周を終える頃も、変わらず夢中に雑草を抜き続けている彼に挨拶をしてみる。

「Good morning!いろんな植物を育てていますね、この素晴らしい庭で、あなたはどの花がいちばん好きですか?」

すると「実はこれといった一番の好みはないんだ。広い敷地だから作業に終わりがないよ(笑)」というさっぱりとした返答が。それとは裏腹に爽やかなはにかみ笑顔からは、自然への敬意やひたむきさが滲んでいた。

そんな庭師の休憩小屋としてこの夏誕生したのが、建築家の田根剛さんが設計した「ガーデン ハウス」だ。

Tane Garden House(ガーデン ハウス)外観
15㎡というコンパクトな敷地内に建設された「ガーデン ハウス」。内側は小さなコーヒーキッチンを備える。「アウドルフ ガーデン」を整える庭師の休憩小屋と園芸道具の保管が主な設計目的。階段からは誰もが上がれる展望台も。
畑
ヴィトラ社員からの「畑を育てたい!」というリクエストに答えて季節の野菜を育てる畑もできた。キャンパス内にはミツバチの巣箱も。「アウドルフ ガーデン」の隣にあり巣箱の底に天然の巣箱を作ることができる複合営巣方式で飼育されている。
Tane Garden House(ガーデン ハウス)の屋根
地元の素材を使い、地元の職人とともに、その地域のために建てられたスイスの郷土的建築。
土地の歴史や伝統的な建造物の資料
「Archaeology of the Future(未来の記憶)」と呼ぶ建築アプローチのように、今回も土地の歴史や伝統的な建造物のリサーチから。

素材となる石や木材は50km圏内という可能な限り現地で調達され、地元の職人たちによって建てられた。案内してくれたガイドさんも建築家ということもあり、敷地内の隅から隅まで秘話も織り交ぜながら、話が尽きない。

「人の手で作ることで、修繕がしやすく今後も近所の職人たちが守り続けてくれます。それは建物の持続性が維持されることでもある。場所の記憶から未来を構想するプロセスを通じ、考古学は次第に建築へと変わっていくのです」と田根剛さんは語る。

ヘルツォーグドムーロン
1934年、元々さくらんぼ畑だったというキャンパス内には色彩溢れる広大な庭が広がる。
フラードーム
自然に溶け込む白い「ドーム」は、バックミンスター・フラーによる作品。フレームを形成するアルミのチューブは連結式で、簡単に組み立て、取り壊しが可能。
フランクゲーリーの建築
フランク・ゲーリーによる建築。社員のためのショールームや食堂がある。
ジャンプルーヴェとから傘の家
ジャン・プルーヴェの「ぺトロール ステーション」。篠原一男「から傘の家」が遠くに見える。
SANAA ファクトリービルディング
SANAA「ファクトリー ビルディング」広いキャンパス内は移動に自転車や車を使うことも。

一方で、敷地内に隣接するヴィトラ デザイン ミュージアムでは「Garden Futures展」が開催中。キュレーターのヴィヴィアン・ステップマンさんが直接案内してくれた。世界中の庭をリサーチし、「過去から現代、そして未来へと繋がる示唆を目指したコンセプト」だという。

ヴィトラ デザイン ミュージアム
1989年にオープンした「ヴィトラ デザイン ミュージアム」は、有名建築家フランク・ゲーリーによる複雑な形の建物にも注目。年2回ほど大きな企画展も開催されている。
ヴィトラ デザイン ミュージアム 展示壁面
壁面に飾られた道具も迫力がある。
ヴィトラ デザイン ミュージアム 展示内観
会場構成はデザイナーのマイケル・アナスタシアデスさんが担当。
ヴィトラシャウデポ 展示風景
ミュージアムに隣接する「ヴィトラシャウデポ」では、7000点の家具、1000点を超える照明、その他のアーカイブの数々、そして著名なデザイナーの名作など世界のデザイン家具の中で最も重要なコレクションが収納されている。
ヴィトラシャウデポ 展示風景
「COLOR RUSH」展では、カラーごとに美しく配置された家具や椅子が並ぶ。2024年5月5日まで。

庭園の歴史を紐解いていくと、時代や地域によって、個人と社会全体が自然とどのように関わっているかについて多くを明らかにするという。

「先住民社会には、自然と共生しながら育んできた長い歴史があります。この展示を通して、ヴィトラに関わる人々もまた、カーボンニュートラルや自然との共生について考えるきっかけにもなっている。私たちは今日、この共存を模索しています」と語るステップマンさん。

キュレーター・ヴィヴィアンステップマン
キュレーターのヴィヴィアン・ステップマンさん。情熱に溢れながら、朗らかに庭への想いを語ってくれた。
ヴィトラ 受付の女性二人
「Garden Futures」展は2023年10月3日まで開催中。ミュージアムのレセプションの方も親切に案内してくれる。

完璧な解決策を見つけるのではなく、小さな検証を積み重ね、その場所の反応を観察しながら試みていく。土壌に適切な栄養を与えなければ、まともな収穫は得られない。このギブ・アンド・テイクの関係は、デザインと建築においても同じであるとヴィトラ社は考えていて、大切な未来へのヒントにつながるかもしれない。

その土地に根付いた記憶を、同じ方法で再現するのではなく、世界中のユニークな創作者たちによる新たな視点で、文化を融合させながら未来を描いていく。デザイン、建築、庭、敷地へとさまざまな角度から自然を持続させるための未来に対する構想は、真剣そのものだ。

フラードーム
「ヴィトラ キャンパス」の前の「アウドルフ ガーデン」は、繰り返し開花し芽吹く「多年生庭園」。どの季節に訪れてもそれぞれの植物の表情を楽しむことができる。「アウドルフ ガーデン」には約30,000もの植物を使用しているという。

変化し続け育ち続ける“未来への荒野”に身を置くことで、五感が刺激され、多くの学びがあることだろう。訪れた人々からその場所を支える人々まで、おおきな懐で迎えてくれるヴィトラによる自然回帰への想像の旅は、これからも続いていくのだ。

Information

ヴィトラ インフォメーション

Vitra.

当日受付で申し込むと、建築ツアーに無料では入れない場所もガイドさんの説明付きで鑑賞できる。詳しくはカレンダーで確認を。
住所:Vitra Campus, Charles-Eames-Strasse 2, D-79576 Weil am Rhein
HP: https://www.vitra.com/ja-jp/home

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