1. トップ
  2. 「赤身75%」のハンバーグは「脂肪25%」よりおいしい? イェール大学の大人気講義が一冊に

「赤身75%」のハンバーグは「脂肪25%」よりおいしい? イェール大学の大人気講義が一冊に

  • 2023.9.16

アメリカ・コネチカット州のイェール大学で、毎週満員になる人気講義があるという。講義名は「Thinking(シンキング)」。担当教授アン・ウーキョンさんの専門は、人が情報を処理するメカニズムを研究する認知心理学だ。

講義が扱うテーマは、人がなぜか間違った判断をしてしまう「思考のバイアス」。たとえば、こんな思考・行動をしたことはないだろうか。課題はいつやっても変わらないのに、ついつい先延ばしにしてしまう。客観的なデータよりも、友達から聞いた噂話のほうを信じてしまう。テレビでアイドルが踊っているのを見て、なんだか自分も踊れそうな気がしてしまう......。心当たりがあるなら、あなたも「思考のバイアス」の罠に引っかかっている。

この講義が書籍化され、日本語版『イェール大学集中講義 思考の穴 わかっていても間違える全人類のための思考法』(ダイヤモンド社)が2023年9月13日に発売された。今回は本書から、Chapter 05「『損したくない!』で間違える」の内容を一部ご紹介しよう。

心理学者もバイアスにだまされる

Chapter 05で解説されているのは、人間はネガティブな情報により強く反応するということだ。アンさん自身も、あるスマホケースを買おうかと検討した時に、5つ星レビューを4つ読んだ後に1つ星のレビューを1つだけ見つけて、結局そのケースを買わなかったそう。たとえ認知心理学の専門家であっても、ネガティブな情報を重視してしまう傾向=「ネガティビティ・バイアス」からは逃れられないのだ。

本書では、こんな実験が紹介されている。同じ牛ひき肉を使って同じように調理したハンバーグを、半分の参加者には「赤身75%」、もう半分の参加者には「脂肪25%」と紹介して食べさせた。すると、「脂肪25%」を食べた人よりも「赤身75%」を食べた人のほうが「脂っこさ」を低く、「赤身の味わい」を強く、「肉の質」を高く評価した。確かに、ハンバーグを食べる前に脂肪の話をされたら、美味しく感じられなくなるのも無理はない。

人は「失いたくない」生き物

ネガティブな情報の中でも、「失うかもしれない」という不安は強く人間に作用する。たとえばこんな実験があるそう。同じ学校の教員のうち、無作為に選んだ半数には「生徒が優秀な成績をおさめれば能力給を支払う」、つまり通常のインセンティブ制度を設けた。残りの半数には先に4000ドルを渡し、年末に生徒の成績が平均を下回れば、実際にもらえる能力給との差額を没収するという条件を設けた。つまり、前者は「得る」グループ、後者は「失う」グループだ。

結果、「得る」グループの教員の生徒はほとんど成績が上がらなかったのに対し、「失う」グループの教員の生徒は成績が上がったという。一度手にしたお金を「失うかもしれない」という不安が、教員たちの熱意を駆り立てたようだ。最終的に手にするものは変わらないにもかかわらず、「得る」場合よりも「失う」場合のほうがより重い扱いになることを、「損失回避」と言う。

アンさんは本書で、片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵さんを「彼女ほど損失回避を深く理解している人はいない」と言っている。近藤さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(河出書房新社)で、こんなメソッドが紹介されている。まず、家にある衣類をすべて出す。ハンガーのもの、引き出しの中のもの、下駄箱の靴も。そして、床に積み上げる。

床に出したものは、その瞬間から自分の所有物ではなくなる。保有効果(評者注:一度手に入れたものを手放したくなくなる心理)の影響はなくなり、失うものもなくなった。そうすると、行うべき判断が、手にするものを選ぶ決断に変わる。(中略)これなら、失うことへの恐れは生まれないので、好みに応じて1着ずつ吟味していけばいい。
(『イェール大学集中講義 思考の穴』本文より)

アンさんも、この方法で片づけを成功させたそうだ。このように本書の知識を応用すると、日常生活がうまくいくライフハックになるかもしれない。本書ではこのほか、全部で8つのテーマで人の思考のバイアスを掘り下げている。

【目次】
INTRODUCTION わかっていても避けられない?
Chapter 01 「流暢性」の魔力
人はすぐ「これは簡単」と思ってしまう
Chapter 02 「確証バイアス」で思い込む
賢い人が自信満々にずれていく
Chapter 03 「原因」はこれだ!
関係ないことに罪を着せてしまう
Chapter 04 危険な「エピソード」
「こんなことがあった」の悪魔的な説得力
Chapter 05 「損したくない!」で間違える
「失う恐怖」から脱するには?
Chapter 06 脳が勝手に「解釈」する
なぜか「そのまま」受け取れない
Chapter 07 「知識」は呪う
「自分が知っていること」はみんなの常識?
Chapter 08 わかっているのに「我慢」できない
人はどうしても不合理に行動する

〈著者プロフィール〉

■著者:アン・ウーキョンさん
Woo-kyoung Ahn/イェール大学心理学教授。イェール大学「シンキング・ラボ」ディレクター。イリノイ大学アーバナシャンペーン校で心理学の博士号を取得後、イェール大学助教、ヴァンダービルト大学准教授を経て現職。2022年、社会科学分野の優れた教育に贈られるイェール大学レックス・ヒクソン賞を受賞。本書のもととなったイェール大学の講義「シンキング」は1年で450名もの学生が受講、イェールでもっとも人気のある授業のひとつとなり、その学際的なスコープと、専門知識に加えて日常での批判的思考スキルを養成できることが広く賞賛された。著者の思考バイアスに関する研究は、米国国立衛生研究所の支援を受けている。米国心理学会および米国科学的心理学会フェロー。ハーバード大学、テキサス大学オースティン校、ペンシルベニア大学、タフツ大学などで学術講演を行い、その研究成果はNPR、ニューヨーク・マガジン、ハフポストなどのメディアで注目を集めている。

■訳者:花塚恵さん
はなつか・めぐみ/翻訳家。福井県福井市生まれ。英国サリー大学卒業。英語講師、企業内翻訳者を経て現職。主な訳書に『脳が認める勉強法』『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』(ともにダイヤモンド社)、『LEADER'S LANGUAGE 言葉遣いこそ最強の武器』(東洋経済新報社)、『THE POP-UP PITCH 最もシンプルな心をつかむプレゼン』(かんき出版)などがある。

元記事で読む
の記事をもっとみる