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ナチス戦犯・アイヒマンの火葬に関わった少年とは何者か…明かされる極秘計画の真相【映画】

  • 2023.9.7

これまでさまざまな作品で描かれてきた歴史上の人物のひとりといえば、ナチス・ドイツの大物戦犯アドルフ・アイヒマン。その行いや逮捕劇などに関しては知られているものの、最期の日々についてはあまり語られてきませんでした。そこで今回ご紹介するのは、アイヒマンの遺体を巡る秘密の計画とそれに関わった人々の“真相”を描いた話題作です。

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

【映画、ときどき私】 vol. 599

1961年、ナチス・ドイツの戦争犯罪人であるアドルフ・アイヒマンに下されたのは死刑の判決。その知らせを告げるラジオに授業を中断して聞き入る先生と同級生たちを不思議そうに見つめていたのは、リビアから一家でイスラエルに移民してきたダヴィッドだった。ある日の放課後、ダヴィッドは父に連れられて、炉の掃除ができる少年を探していたゼブコ社長の鉄工所ヘと向かう。

当初はヘブライ語が苦手な父のためにと熱心に働いていたダヴィッドだったが、居心地の悪い学校を抜け出し、いつしか鉄工所に入り浸るようになる。気さくな工員たちはダヴィッドを可愛がり、ゼブコも一目置いていた。そんななか、ゼブコの戦友で刑務官のハイムが小型焼却炉の設計図を片手に、極秘プロジェクトを持ち込んでくる。それがアイヒマンを燃やすためだと知ると、工員たちに動揺が広がるのだった…。

死刑が廃止され、火葬が行われないはずのイスラエルで一体何が起きていたのかに迫っている本作。そこで、独自の視点から歴史を見つめ直したこちらの方にお話をうかがってきました。

ジェイク・パルトロウ監督

アメリカのロサンゼルス生まれで、ベラルーシ系ユダヤ人の父を持つジェイク監督。父は映画監督兼プロデューサーで母は俳優、さらに姉もハリウッドの実力派俳優グウィネス・パルトロウという芸術一家の出身です。今回は、アイヒマンの火葬をテーマにしようと思った理由や実在の人物から聞いた驚きのエピソード、そして日本の好きなところについても語っていただきました。

―本作で描いている題材については、いつ頃から興味を持たれていたのでしょうか。

監督 第二次世界大戦とユダヤ人の歴史は、幼い頃から父とつながる“場所”であり、一緒に考えて議論を交わすテーマでもありました。毎年サンクスギビングの祝日には、BBC制作による第二次世界大戦のドキュメンタリーを観る習慣があったほどです。もともと父がこういった問題に関心が高く、家にもいろんな文献があったので、その影響は大きかったですね。

ただ、誤解してほしくないのは、僕の個人的なアイデンティティや宗教的な義務感からこの作品を作ったわけではありません。誰かに恋をするのと同じように、あくまでもフィルムメーカーとしてこの題材に興味を持ち、面白いと思って作りました。

―アイヒマンの火葬については、どういったきっかけで知りましたか?

監督 はっきりといつかは覚えていませんが、ドキュメンタリーや本のなかで知ったことだったと思います。アイヒマンは政治的な理由から火葬されることになりますが、もともとユダヤ教では火葬しないので、「一体何があったんだろう」と考えました。

それと、当時は暗殺の可能性なども懸念して「アシュケナージ」と呼ばれる東ヨーロッパ系のユダヤ人を護衛に付けないといった配慮もされていたそうですが、そのあたりのディテールも興味深いなと。その2つの点が面白いと思いましたし、そこにストーリーがあると感じていたので、実際イスラエルに行って当時関わっていた方々にお話を聞くことにしました。

これまで描かれていない話だと気が付いた

―アイヒマンがどうやって火葬されていたかという事実については、おそらく知らない人のほうが多いと思います。

監督 僕自身もこの話は聞いたことがなかったし、取り組むにあたってこれまで描かれてもいなかったことに気が付きました。最初は、本作にも登場するホロコーストのサバイバーである板金工をメインにした物語にしようかと考えたのですが、リサーチをするなかで出会ったのがダヴィッド少年。現在の彼と直接会って話を聞いているうちに、興味をそそられるようになりました。

ちなみに、彼は過去に自身の話を新聞社に持ち込んだことがあるそうですが、当時工場に働いていた人たちがその場に子どもがいたことを認めなかったため、取り上げてもらえなかったそうです。僕としてはこの映画を作りたい気持ちが強かったので、本当かどうかを重要視することなく、彼の話を信じることにしました。

―リサーチのなかで、新たに知った事実や驚いたことはありましたか?

監督 まず、僕がこの物語に惹かれた理由の1つは、アイヒマンの火葬の計画がとてもカジュアルに話されていたこと。どういうことかというと、本来ならば、秘密警察の人たちが極秘のうちに進めるようなことですが、日中の明るいときに工場で「魚の骨が焼けるかどうか」みたいな話を例に出しながら、担当者同士が軽い感じで話しているんですよね。そういうところも含めて、面白いなと思いました。

子どもたちがこの作品にエモーションを与えてくれた

―ダヴィッドさん本人から聞いたお話のなかで、印象的なエピソードもあれば教えてください。

監督 彼の物語については、すべてが映画の通りではありませんが、彼は13歳のときから大人になるまでいろんな仕事をしてきたそうです。最終的にはコンピューター関連の仕事に就くのですが、それまでは僕も聞いたことがないような多種多様な仕事をしていたと聞いて驚きました。

そのうえで少年時代の日常がどんなものだったのかを知るために、当時はどういう感情を抱いていたのか、子どもたちはどんなものを食べて、どんな遊びをしていたのか、といったことを深掘りしてこの作品のバックグラウンドを作っていきました。

―そのダヴィッドを演じたノアム・オヴァディアくんは、素晴らしかったですね。ただ、演技経験のない11歳の子どもをメインキャラクターにするのは、ある意味大きなチャレンジだったのではないかなと。

監督 そうですね。特にこの作品にとっては、ダヴィッド役を演じられる少年を見つけられるかどうかが重要だったので、キャスティングディレクターにお願いして国内中を探してもらいました。そこでたくさんの動画を見ましたが、際立っていたのがノアム。何がよかったかというと、彼には役を演じるうえでの自然な資質があったのです。

今回、本作に教師役で出演してもらったロテム・ケイナンさんは、イスラエルでは演技指導者としても有名なので、演技教室のようなものまで開いてもらいました。これはほかの子どもたちにも言えることですが、ノアムたちがこの作品にエモーションをもたらしてくれたと思っています。それなくしてこれだけ良質なものは作れなかったので、本当に感謝しています。

観客が共感できるのは、本人よりも事件に関わった人たち

―これまでアイヒマンを描いた作品は多数あるので、過去作とは違うアイヒマンの見せ方は本作でも大きなポイントだったと思います。そのあたりで意識されたことはありますか?

監督 実は、この作品ではアイヒマンの心理について掘り下げる意図は最初からまったくありませんでした。個人的にあまり興味をそそられるキャラクターではなかったですし、そこに触れてもいまさら何かの解決になるわけでも、意義深い話になるわけでもありませんからね。しかも、それに関しては過去の作品で描き切っていると考えています。

それよりも僕としては、アイヒマンが影響を及ぼした人たちのほうに関心を抱いていました。何か大きな事件を題材にするときは、その本人よりも、そこに関わっている人たちを描いたほうが観客もより共感できるものです。今回は、当時まだ若かったイスラエルという国の人々にどんな影響を与えていたのかをフィクションを交えて見せたいと考えました。

日本の好きなところを語り出したらきりがない

―まもなく公開を迎える日本に対しては、どのような印象をお持ちですか?

監督 すごく前に一度だけ行ったことがありますが、また訪れたいなとずっと思っています。日本文化の好きなところを語り出したらきりがないですが、まずはやはり映画ですね。自分のなかでも、小津安二郎監督、成瀬巳喜男監督、小林正樹監督、黒澤明監督は基盤となっています。特に、小津監督の『晩春』ほど傑出した作品はないのではないかと感じているほど。僕の10歳になる娘も、原節子さんの大ファンです。

原さんはすでに引退されていましたが、亡くなる前に彼女を短編で撮れたらいいなと夢のまた夢として思い描いていたこともあったので、それを娘に見せられたらよかったですね。いつか小津監督のお墓にも行ってみたいですが、大好きな日本映画が作られた場所をいろいろと巡ってみたいなと思っています。

―それでは最後に、観客に向けてメッセージをお願いします。

監督 本作のことが好きか嫌いとかいうのではなく、描かれるテーマについて、誰かと何か話をしたくなる作品になったと思います。多くの方に作品との繋がりを感じてもらえればうれしいです。

激動の時代に、歴史が動いた舞台裏を知る!

歴史的事件の知られざる裏側に切り込み、観る者に新たな視点を与えてくれる本作。語られてこなかった真実を目撃するだけでなく、名もなき人々の思いに触れることもできる必見作です。

取材、文・志村昌美

気になる予告編はこちら!

作品情報

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』
9月8日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:東京テアトル

️(C) THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP

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