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ティモンディ前田裕太「混沌から見える世界」【僕のあまのじゃく#100】

  • 2023.9.7

僕のあまのじゃく#100

ティモンディ前田裕太さんの人気コラム【前田裕太の乙女心、受け止めます!】がリニューアル。

◁◁

ガラリと雰囲気を変えて、毎週変わるお題に沿って、前田さんに自由に言葉を紡いていただくフリースタイルエッセイ【僕のあまのじゃく】をお楽しみください♡

前田裕太(まえだ・ゆうた)
PROFILE:1992年8月25日、神奈川出身。グレープカンパニー所属のお笑い芸人ティモンディのツッコミ、ネタ作り担当。愛媛県の済美高校野球部に所属した同級生・高岸宏行が相方で、2015年1月に結成。2人の野球経験を活かした『ティモンディベースボールTV』の登録者数は23万超え。ar web連載『僕のあまのじゃく』では、フリースタイルエッセイを毎週お届け中。

テーマ:混沌

芸人の地下ライブというものは、混沌としている。

まだ売れていない芸人達が出ているライブはアンダーグラウンドの権化達の坩堝。
サブカルチャーの端っこを集めて煮詰めたような異様さがある。
その世の中という日の光が当たっていない、まだ売れていない芸人達が集まってやるライブを地下ライブと呼ぶのだ。
私もその場に長らく身を置いた。

お客さん2人に対して芸人が80組以上ネタをやり続けるライブがあるといえば読者諸兄姉にもその異常性が伝わるだろうか。
しかも、お客さん側の休みは無し。
20組程度芸人のネタ披露が終わると中MCと呼ばれる時間が間に入るけれど、トイレ休憩などはない。
最終的に4時間以上入れ替わり立ち代わり芸人達がネタをやっていては、当然お客さんのストレスも尋常ではない。
永遠と知らない芸人が出続ける若手地獄と呼んでも構わないだろう。
その構成要員の一員として、ネタを幾度となくやっていた。
舞台でネタをやってる間、もはやお客さんの焦点は合っていなかった。
嵐が過ぎ去るのをじっと待っているようだった。
そんな中でネタをやり、またネタを修正しては、若手地獄の渦に戻っていく。
常軌を逸した日常だった。
申し訳ない。
そんな気持ちでネタをやっていたけれど、私達には、それしかやることがないのだ。
許してほしい。

新宿で、会議室のような場所を借りてお客さん1人の中でトークライブをやったことがある。

しかも、そのお客さん1人というのも、私が来てくれないかと頼んだ友人だったことがあった。
その友人に対して12人の芸人が2時間近くエピソードトークの雨を降らせるのだ。
ライブが終わる頃には、演者よりも客席の友人の方が披露困憊の表情を浮かべていた。
純粋に、友人が可哀想だった。
それと同時に、そんな可哀想な思いをさせることしかできない自分が恥ずかしかった。

最悪だ。

お客さん1人に対してトークをしたところで、一体なにが分かるというのだろうか。
大人数の前で話をすればウケたか否か判断できるけれど、1人に対して話をしてしまうと、気を使って笑ってくれているのか、本当にウケたのかの判断も難しい。
けれど、芸人達はい意気揚々とライブ後に打ち上げをして酒を飲むのだ。

思いかえすとなかなか辛い日々だった。
けれど、そんな混沌とした日々があって、今は良かったと思っている。

別に過去を美化している訳ではない。

良かった思い出にしたくて、良かったと思い込もうとしている訳でもない。

混沌の中に身を置いたからこそ、自分自身の心の特徴を発見できたのだと思うからだ。

他の芸人の場合、お客さん2人の前でネタをやっても、お客さん側の視点から考えて可哀想だ、と思うことが少ない。
そこから成りあがった自分の美談のための前振りとしてのエピソードとして語る場合が多いだろう。
もちろん、身近な統計しか取れていないのだけれど。

そんな周囲を見ていると、私はお客さんの顔色をよく見るのだな、という自分の特性を見つけられた。
思いかえすと客席の顔色を窺ってばかりだったのだ。
楽しそうにしてるかな、どんな言葉を求めてるのかな、どのタイミングで言えば気持ちよく笑えるのかな、と。
空気を読まずに突き進む強さは私にはなくて、それが芸人として致命的なのではないか、と思ったことがある。
けれど、特性なんて一長一短。
悪く思えていた自分の欠点も見方を変えれば、周囲を見ることができる訳だ。
自分の意志を突き通すほど強くないからこそ、弱い人の気持ちが分かるし。

混沌の中に身を置いて、周囲との違いが浮き彫りになった時こそ、自分自身の特性が分かった。
自分自身のことって自分が一番よく分からないだろう。
そんな読者諸兄姉には地下ライブに出ることをお勧めする。
混沌という言葉は、お笑い地下ライブの演者側にあるのだ。

ー完ー

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