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齊藤工さん「独身への厳しい視線感じる」。 監督作品で「理想の家族のあり方」を問う

  • 2023.9.1

俳優業の傍ら、映像制作にも積極的に関わる齊藤工さん。監督を務めた最新作『スイート・マイホーム』では、家を舞台に家族の様々な表情を描いています。齊藤さんの考える家族像や、監督としてキャリアを積んできたことへの思いを伺いました。

コロナ禍のステイホームが、家族の真実をあらわに

――『スイート・マイホーム』で描かれる、夫婦2人・子2人の家族構成はかつて「標準世帯」と呼ばれましたが、今や夫婦と子どもによる家庭は3割にも満たないほどに激減し、多様化しています。齊藤さん自身は「家族」というものについて、どのように考えますか。

齊藤工さん(以下、齊藤): 時代と共に家族のあり方は変わっていると思う反面、日本には、古くからある家族観を大事にされている方もいらっしゃいます。僕は今42歳ですが「その年で独身なんて信じられない」という目で見られることもありますよ。何か罪でも犯したのかな?と思うほどの厳しい視線を感じることも。でも、結婚という形におさまるのが合っている人もいるし、そうでない人もいる……。僕が関わってきた作品には不貞を描くものも多かったから、そう思うのかもしれないけれど(笑)。
映画界でも近年、『パラサイト 半地下の家族』をはじめとして、どこか幸せそうに見える家族の“一枚めくった内側”を容赦なく描くような作品が増えていますよね。また、コロナ禍が、家族というものの真実の姿をあらわにするきっかけになったとも感じます。

朝日新聞telling,(テリング)

――コロナ禍をきっかけに、家族観に変化がありましたか?

齊藤: 僕自身はステイホームの時期をひとりで過ごしていたので、想像にすぎないんですけど、「家という聖域に収まることが、必ずしも“護られる”ということにはならないんだな」と感じたことがあったんです。ニュースなどを見ていると、家から出られないことをつらく思う子どもたちがいたり、家庭に閉じこもることで凄惨な事件が起きたり……。たとえ血は繋がっていても、四六時中一緒にいることによって、人間のポジティブなだけではない面が露呈することもあるんだなって。
もちろん、一緒にいて幸せを感じられる家族の形もある。家の門をくぐった中に、本当の人間の姿が見えるものなんだな、と時代が教えてくれたような気がしました。

未来にネガティブ要素を探さないで

――俳優だけでなく、監督としてもキャリアを重ねていらっしゃいます。はじめて映像作品の監督をしたのは、20代の終わり頃だったそうですね。

齊藤: 当時は、長く監督を続けていくようなイメージはまったくなく、「これが最初で最後の、監督ができるチャンスだ」と思っていました。
もともと監督業に憧れはあったものの、俳優として、現場で様々な監督に会えば会うほど「安易に『やりたい』と言ってできるような世界ではない」と思うようになっていたんですね。だから20代の頃は、監督業に挑戦する機会からは遠ざかっていく一方でした。

朝日新聞telling,(テリング)

――初監督作品では、どのように一歩を踏み出し挑戦できたのですか?

齊藤: そのときはミュージックビデオのようなショートフィルムのプロジェクトだったので、「記念に監督をやってみよう」というくらいの気持ちで挑戦できたのかもしれませんね。
長編映画の監督を目指して挑戦したわけではなく、あれは衝動的なアクションでした。ロジカルに考えて、新しいキャリアの始まりの一歩を踏み出したわけではなかった。本能からくる衝動的な行動が、あとで振り返ると「あの一歩が始まりだったな」と見えているんですよね。それは監督業だけではなく、多くのできごとに通じるなと。

――「やりたいことがあっても、なかなか一歩が踏み出せない」と感じているtelling,読者の方も多いです。何かメッセージをいただけないでしょうか。

齊藤: 未来におきるかもしれないことを、考えすぎないほうがいい。「これをしたら、〇〇が起きるかもしれない」とすべての思考回路が未来に接続してしまうと、一歩が出ないんですよね。
未来にネガティブ要素を探してしまう気持ちも、わかるんですけどね。僕自身、監督をするときには100人以上の方たちが現場に携わってくださるので、さまざまな方たちの才能と力を借りて1シーン1シーンをつくっている、その重みを考えるとぞっとしてしまうこともあります。
でも、うまくいかないかもしれないと自分の心配をするよりも、関わってくれる方たちの力が発揮されるような現場にしたいと僕は思う。先のことは考えず、毎回「これが最後の監督の機会」と思って現場に臨みます。
この一歩を踏み出したら、未来で何らかの摩擦が起きるかも、と思ってしまうと、何もできなくなりますもんね。そういうネガティブな要素を見つけずに、まずはやってみるのが大事なのかな。

朝日新聞telling,(テリング)

●齊藤工(さいとう・たくみ)さんのプロフィール
1981年生まれ、東京都出身。モデルとして活動した後、映画『時の香り リメンバー・ミー』の主演として俳優デビュー(俳優として出演する際は、「斎藤工」名義で活動)。近年は映画『シン・ウルトラマン』『イチケイのカラス』『シン・仮面ライダー』など話題作に次々と出演。俳優業と並行して映画監督としても活動し、初の長編監督作『blank13』では、国内外の映画祭で8冠を獲得。

■塚田智恵美のプロフィール
ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。

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