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未来の人類研究センター長、伊藤亜紗さんが大切にしている、心の本。『波 [新訳版]』

  • 2023.8.31
出典 andpremium.jp

ただ表現に身を任せることで、心が整う。

日の出から日没までの一日の波の描写と、登場人物6人の若年から老齢の年月に及ぶ会話とを重ね合わせた本作は、散歩しながらオーディオで聞くのが好きです。散文詩的な内容だけに、言葉の意味を追いすぎず、純粋に表現の美しさに浸れるから。それに身を任せていると、流動的な波のような毎日を乗りこなす自分の感覚とシンクロしてきて、そうそう、日々を暮らすってこういうものだよなってすごく楽な気持ちになれるんです。ときに戦慄するほどの鋭い言葉も出てきますが、それさえ自然に受け止めることができるのは、邪悪な部分は本来、誰の心の内にもあって、それも含めて日常の大きなハーモニーになっているとわかるから。本の語りの全体が、そんなふうに心を整えてくれるんです。

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『波 [新訳版]』著 ヴァージニア・ウルフ 訳 森山 恵 (早川書房)

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伊藤亜紗 Asa Ito
東京工業大学にて、同科学技術創成研究院未来の人類研究センター長、同リベラルアーツ研究教育院教授。専門は美学と現代アート。障害を通して人間の身体のあり方を研究している。近著に『手の論理』(講談社)など。

illustration : Shapre text:Mariko Uramoto edit : Wakako Miyake

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