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「世界ランキング10」に残るのは1社のみ…日本の家電メーカーが中国、韓国に喰われてしまった本当の理由

  • 2023.8.28
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なぜ日本の家電メーカーは衰退したのか。元国税調査官の大村大次郎さんは「欧米のメーカーはシェアを伸ばしている。日本が衰退した理由は各国メーカーの主力製品を見ればわかる」という――。

※本稿は、大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

国民の生産性が落ちたわけではない

図表1は、国民1人あたりの名目GDPの順位である。

この「1人あたりのGDP」というのは、「労働生産性」とも言われる。国民1人あたり、どのくらい生産性があるかという数値ということである。

日本は、この1人あたりのGDPは1996年には5位だった。しかし90年代の終わりから急落し、それから20年以上、下降し続けた。2202年では30位にまで落ちているのだ。

【図表1】国民1人あたりの名目GDPランキング
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

この1人あたりGDPの国際ランキングが下落したことで、「日本人一人一人の生産性が落ちた」というように言われることが多い。経済評論家の多くも「もっと頑張って生産性を上げるべき」ということを述べる人が多い。

しかし、日本の労働生産性(1人あたりGDP)が落ちたのは、国民一人一人の生産性が落ちたからではない。日本の経済構造が90年代以降、急激に変化したからなのである。そしてこの経済構造の変化が、日本経済を歪めさせ国民生活を苦しくしている主因でもある。

90年代以降に起きた経済構造の変化とは何なのか、データとともに明らかにしていきたい。

韓国より低い製造業の労働生産性

日本の1人あたりのGDPが、世界ランキングで急落している要因は実は明白である。

製造業における労働生産性が下がっているからである。

図表2は、製造業の労働生産性の上位国を、2000年と2020年で比較したものである。

2000年の段階では、日本は世界一を誇っていた。高度成長期からバブル期まで製造業において、世界に抜きん出ていたのであり、製造業が日本経済を牽引してきたのだ。

しかし、2020年になると、順位は18位にまで後退している。しかも日本人の多くが日本より遅れていると考えている韓国よりも低いのである。

【図表2】製造業の労働生産性
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

この製造業での労働生産性の順位低下が、そのまま1人あたりGDPの順位低下に結びついているのだ。

ではなぜ製造業での労働生産性が落ちてしまったのか?

日本人の能力が落ちたのか?

決してそうではない。

日本人の能力はいまでも世界的に高い。世界の工業製品には日本人が最初に開発したものや、日本でしかつくれないものは多々ある。日本の製造業が衰退した最大の原因は、生産設備等が日本から海外に移され、国内が空っぽの状態になってしまったことだ。

その経緯をさまざまな国際データとともに明らかにしていきたい。

日本の電機メーカーの衰退の原因

なぜ日本の製造業の労働生産性が落ちたのかを探る上で、最もわかりやすいのが電機メーカーの趨勢である。

家電はかつては日本の主力産業であり、日本の企業は世界シェアの多くを占めていた。しかし現在、世界家電シェアのほとんどは、中国、韓国にとって代わられている。電機メーカーは、この数十年の日本経済低迷の象徴でもある。

日の丸電機メーカーが衰退した経緯の中に、日本経済がどういう変化をしたのか、なぜ低迷していったのかの理由が詰まっているのだ。

図表3は2002年と2021年の世界の電機メーカーの売り上げランキングである。

2002年の時点では、日本の電機メーカーは、世界の家電シェアの1位2位を占め、しかもベスト10内に5社も入っていた。

【図表3】世界の電機メーカーの売り上げランキング
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

この時期、すでに韓国のサムスン電子や、中国のハイアールも台頭してきていた。にもかかわらず、日本の電機メーカーは、世界で圧倒的な強さを持っていたのだ。

が、2000年代後半になって、韓国や中国のメーカーに凌駕されるようになっていった。日本の電機メーカーは、韓国や中国のメーカーに価格競争で敗れ、シェアをたちまち彼らに奪われた。

急激な凋落ぶり

2021年のベスト10には、パナソニック1社しか入っていない。しかも2002年の家電売り上げで10位以内に入っていた5社のうち、3社はすでに経営母体が変わっている。三洋電機はパナソニックに買収され、ソニー、東芝は家電部門の一部を分社化したり売却したりしているのだ。

シャープは2002年のランキングで13位に位置していたが、2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)グループに買収されたというニュースは、日本中に衝撃を与えた。また同年、東芝の白モノ家電を担っていた「東芝ライフスタイル」は中国企業の「美的集団」に買収された。しかも買収金額は、わずか500億円程度だった。

かつて世界中を席巻していた日の丸電機メーカーの大半が、すでに他国の企業の傘下に組み込まれているのだ。急激な凋落ぶりである。

ベルトコンベヤーを進んでいくドラム型洗濯機
※写真はイメージです
日本の家電はなぜ中国、韓国に喰われたのか

図表3の二つのランキングを見比べると、なぜ日の丸電機メーカーが衰退したかの理由が見えてくる。

2021年の順位を見ると、意外な事実が浮かび上がってくるのだ。欧米のメーカーは、日本のメーカーと違ってしっかり頑張っているということである。

家電の分野で、日本のメーカーは軒並み苦戦しているが、それは中国、韓国の台頭が主要因だとされてきた。だから、世界全体の家電市場を見渡したときも同様に、中国、韓国のメーカーに席巻されているようなイメージを抱く方も多いだろう。

だが、実は、そうではない。

欧米のメーカーは、2002年にはランキング10位までに3社しか入っていなかったが、2021年には4社が入っている。むしろ、日本のメーカーに席巻されていた1990年代ごろと比べれば、シェアは伸びているのだ。

2002年に10位以内に入っていたアメリカのワールプール、スウェーデンのエレクトロラックスは、いずれも2021年で10位以内に入っている。オランダのフィリップスははずれたが、新たにドイツのBSH、フランスのSEBグループがランクインしている。5社もあった日本のメーカーがパナソニック1社になってしまったのとは対照的である。

つまりは、この20年の世界の家電シェアは、「中国、韓国のメーカーが台頭した」のではなく、「日本のメーカーが凋落した」と見るほうが正しい。

なぜ欧米の電機メーカーは生き残ることができて、日本の電機メーカーは衰退しているのだろうか?

ここに、日本経済衰退の大きな要因が秘められているのだ。

主力商品を見れば衰退の要因がわかる

各メーカーの主力商品を見ればその理由は見えてくる。

欧米の電機メーカーは、中国や韓国のメーカーとは、あまり競合していないのだ。

五星紅旗と太極旗
※写真はイメージです

アメリカのワールプールは、冷蔵庫や洗濯機などの「白モノ家電」が主要商品である。だが、ワールプールの扱う商品は、アメリカ式の大型製品がほとんどであり、業務用も多い。

中国の電機メーカーがつくる白モノ家電とは、ちょっと分野が異なるのである。

またスウェーデンのエレクトロラックスも、白モノ家電が主要商品だが、食器洗浄機、調理器具など、キッチン周りの製品が多い。そして、デザイン性に優れ、家電としてだけではなく「家具」として高級感のある品揃えが特徴となっている。

ドイツのBSH、オランダのフィリップス、フランスのSEBグループなども同様に、アジア系の電機メーカーとは、若干、主力商品が違っている。

しかし、日本の電機メーカーの主力商品と、中国、韓国の電機メーカーの主力商品は、まともにかぶっている。冷蔵庫、洗濯機等の白モノ家電は、同じくらいのサイズのものであり、その他の家電にしても同じような商品が多い。

日本の電機メーカーは安易に工場を海外移転させた

また以前は、分野のみならず単体の商品そのものも似ているものが多かった。中国や韓国の電機メーカーには、明らかに日本製のコピー商品と言える商品が多々あったのだ。構造だけではなく、デザインまでそっくりなものが多く出回っていた。

実は、これは当然と言えば当然の結果でもある。

というのも、日本のメーカーは、早くから中国、韓国に工場を建てて、技術供与をしてきたからだ。

日本の電機メーカーは、1970年代ごろから急速に海外に進出し、東南アジアに工場などを建て始めた。

そして、1985年のプラザ合意以降は、その勢いが加速した。

プラザ合意というのは、アメリカ、日本、西ドイツ、フランス、イギリスの大蔵大臣と中央銀行総裁の会議で決められた合意内容のことである。これにより、5カ国は「為替安定のためにお互い協力する」ということになり、日本は「円高」を容認せざるをえなくなった。当時の日本は貿易黒字が積み上がっており(特に対米黒字)、円が実勢に比べて低いレートにあることが、問題視されていたからだ。

円高になるということは、日本製品の価格競争力が損われるということでもある。

これに危惧を抱いた日の丸メーカーは、海外進出を一気に加速させたのだ。人件費の安いアジア諸国に工場を移転し、製品の価格を抑えようと考えたのである。

そして、バブル崩壊後には、この動きがさらに加速した。そのため、90年代後半から、日の丸メーカーの海外移転が急速に進んだ。

グローバルなビジネスの概念
※写真はイメージです
技術が簡単に流出してしまった

日本の企業が海外に進出するということは、日本の技術の海外流出につながる。

企業がどれほど技術の流出防止に努めたとしても、外国に工場設備まで建ててしまえば止められるはずがない。そして進出先の国では、当然、技術力が上がる。

日本人が長年努力してつくり上げてきた技術が、企業の海外進出によって簡単に外国に提供されてしまうのである。

中国、台湾などの企業が急激に発展したのは、日本がこれらの国に進出したことと無関係ではない。日本がこれらの国で工場をつくり、無償で技術を提供したために、彼らは急激に技術力をつけていったのである。

現在の日本の電機メーカーなどの停滞は、もとはと言えば日本企業が安易に海外進出したことが招いたのである。

企業の論理からすると、当面の収益を上げるために、人件費の安い国に進出したくなるものであろう。が、これは長い目で見れば、決してその企業の繁栄にはつながらない。進出先の国でその技術が盗まれ、安い人件費を使って、対抗してくるからである。

つまり、日本企業は、自分で自分の首を絞めたのである。台湾の電機メーカー「鴻海精密工業」に買収されたシャープは、その典型的な例である。

デジタル競争力で韓国、台湾、中国にも負ける

図表4は、スイスのシンクタンク「国際経営開発研究所(IMD)」が発表しているデジタル競争力ランキングである。

これを見ればわかるように、日本は29位であり、韓国、台湾よりもはるかに低く、中国よりも低い。またイギリス、ドイツ、フランスなどの先進国と比べても低い。

【図表4】デジタル競争力(2022年)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

このデジタル競争力ランキングは、IMDが独自に分析した結果であり、真に客観的なデータとは言えない。しかし、日本が世界から「デジタル競争力は大したことはない」と思われているということは、否めない事実である。

デジタル分野というのは、最先端の科学技術であり、この分野で後れを取るということは、科学立国としての立場がかなり危ういということでもある。

20年前までは日本はデジタル大国だった

20~30年前まで、日本は世界に冠たる科学立国であり、デジタル大国だった。

携帯電話をいち早く実用化したのも、デジタルカメラ、カーナビ、インターネットが利用できる携帯電話、カメラが搭載された携帯電話などを最初につくったのも日本だったのである。パソコンの原型とも言える小型電卓や、いまではデジタル分野では欠かせないアイテムであるフラッシュメモリーやSDカードをつくったのも日本なのである。

この20~30年で、日本のデジタル競争力が急速に落ちてきたのは、やはり「安易な海外進出による技術流出」「雇用を大事にしなかったことによる人材難」が大きな要因と言える。また国全体の視点で言えば、高等教育をおろそかにしてきたことが大きく影響しているのだ。

国や大企業が自国民を大事にせずに、目先の収益ばかりを追い求めた結果が、デジタル競争力の低下に如実に表れているのである。

この20年間、設備投資がほとんど増えていない

工場を安易に海外に移転させたのは、電機メーカーだけではない。日本の主要産業の多くが、工場や生産設備を海外に移したのだ。

それはデータにも明確に出ている。

図表5は、主要先進国におけるこの20年間の設備投資の増減を示したものである。日本は、ほとんど増えていないのだ。つまり、国内の工業生産力はほとんど上がっていないのである。

【図表5】主要先進国の国内設備投資 (2021年。2000年を100とした場合)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

先進国というのは、途上国に比べると設備投資の伸びは鈍い。先進国は設備が整っているので、どうしても増加速度は落ちるのだ。その設備投資が少ない先進国と比べても、日本はひときわ少ないのだ。

この20年間、世界経済は大きく拡大し、工業生産も爆発的に増加している。にもかかわらず、日本の工業生産能力はほとんど上がっていない。日本の企業は、国内の生産設備を整えるよりも、海外に工場を建設することを優先してきたのだ。

日本から海外への投資ばかりが激増

そして日本は国内への設備投資は止まっているが、海外には盛んに設備投資を行っている。

図表6は、日本から外国への直接投資残高と、外国から日本への直接投資残高の数値である。日本から外国への投資は、外国から日本への投資の5倍以上になっている。日本は、外国との投資において大幅な「輸出超過」になっているのだ。

【図表6】日本と外国との直接投資残高(2021年末)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

つまりは、日本は外国に巨額の投資をしているけれど、外国からはあまり日本に投資をしてくれていない、ということである。

日本の経常収支は、長い間黒字が続いているが、それはこの「対外投資超過」のためなのである。

そして、日本経済の大きな問題点である「国内の工場がどんどん海外に移転していく」ということも、この数値に表れているのだ。

工場の海外移転が労働生産性を低下させた

図表7は、外国からの投資額をGDP比にしたものである。

【図表7】先進主要国の対内直接投資(GDP対) の割合(2015年末)
出所=『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

これを見ればわかるように日本は、自国での設備投資が増えていないだけではなく、「外国が日本に投資をする額」も非常に少ない。

つまりは、日本国内の生産設備は、この20年間、ほとんど生産力が上がっていない、スカスカの状態なのだ。そして国内で生産をしない、ということは、「日本の労働生産性が低い」ということにもつながっているのだ。

「日本企業が海外進出しても、企業の収益が増えるのであれば、結果的に日本に利益をもたらす」と述べる経済評論家などもいる。

が、これは、経済の数字をまったく知らない人の意見である。

仮に、日本国内で、90億円の経費をかけて100億円の売り上げを上げ、10億円の収益を得ている日本企業があるとする。この企業が海外に工場を移転して経費を削減し、20億円の収益を得たとしよう。この企業は海外進出をすることで10億円の増収であり、その分の利益を日本にもたらしているように見える。

しかし、実際はまったく違う。

その企業は、日本国内で活動しているときには10億円の収益しか得られていなかったにしても、その10億円の収益を得るためには、90億円の経費を投じているわけである。その経費はすべて日本国内に落ちるわけだ。

それは多くの雇用を生むことになるし、国内の下請け企業などの収益にもなる。

言ってみれば、この企業は10億円の収益と合わせて、100億円の経済効果を生んでいたのである。

海外進出は誰も得をしない、悪いこと尽くめ

しかし、海外に進出してしまえば、90億円の経費が国内から消えてしまうことになる。工場で働いていた人たちは解雇されてしまうし、国内の工場がなくなれば管理業務も大幅に減るので、正社員も減ることになる。工場に資材や部品を納入していた下請け業者たちも仕事がなくなる。

大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)
大村大次郎『日本の絶望ランキング集』(中公新書ラクレ)

誰も得をしない、悪いこと尽くめである。

その対価として日本にもたらされるお金は20億円だけである。この企業は20億円の経済効果しか生まないのである。

つまり、国内に工場があったときには、日本に100億円の経済効果をもたらしていた企業が、工場を海外移転することによって、20億円の経済効果しかもたらさなくなったということだ。

似たような事態は、近年、日本中のあちこちで生じているのだ。

また国内に工場があった場合、工場の利益だけではなく、人件費などもGDPに加算される。逆に工場が海外に移転してしまえば、人件費などがなくなるので、その分GDPが減ることになる。それが、日本のGDPや労働生産性が伸びていない最大の原因なのである。

大村 大次郎(おおむら・おおじろう)
ビジネスライター
1960年生まれ。調査官として国税局に10年間勤務。退職後、出版社勤務などを経て執筆活動を始め、さまざまな媒体に寄稿。『脱税のススメ』『お金の流れでわかる世界の歴史』など著書多数。近著に『お金で読み解く世界のニュース』。

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