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道東の自然を象徴する、日本百名山「斜里岳」 登山。沢登りから大パノラマを誇る山頂へ

  • 2023.8.26

こんにちは、トラベルライターの土庄です。8月といえば、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。

筆者は、生命力溢れる緑やほとばしる水流、辺り一面に広がる大平原など、まさに北海道の大自然へ思いを馳せてしまいます。最近は、夏に北海道へ避暑旅に出て、そこで登山を行うのがマイブームです。

今回はその中で特に印象に残っている日本百名山のひとつ「斜里岳(しゃりだけ、標高1,547m)」をご紹介します!ワイルドな沢登りを終えた後、知床半島を一望する山頂に辿り着いたときの感動は今でも忘れられません。

林道の先。すでに絶景の清岳荘から入山

知床半島の付け根にあり、アイヌ語で「オンネヌプリ」と呼ばれる「斜里岳(しゃりだけ、標高1,547m)」。斜里川の水源として恵みをもたらしてくれる大いなる山です。日本百名山のひとつにも選ばれており、全国から多くの登山愛好家が訪れます。

そんな斜里岳には3つの登山道がありますが、もっともメジャーなのが清岳荘(せいがくそう)から登る「旧道・新道周回コース」。清里町の中心部から、車を走らせること約20分、道道857号線の終点が登山口です。

清岳荘とは、斜里岳の登山道入口にある山小屋のこと。登山前日に前乗りする方に向けた宿泊施設になっています。オホーツク海を見渡せる高台に位置し、スタートから既に絶景が迎えてくれます。

清岳荘から斜里岳山頂までは往復約9.5km。それほど距離はないように感じますが、標準タイムは約7時間という長さ。最初は筆者もコースの距離だけ見て「楽勝だろう」と思っていたのですが、実際はとんでもなく登り応えのある山でした。

スタートしてすぐは、静かな林道を歩きます。まだ知床半島らしいアドベンチャーな自然は感じられませんが、生命力溢れる緑と清々しい青空のコントラストに癒やされます。

季節は8月の中旬。夏本番ですが、樹林の中を通り抜ける風は涼やかです。日陰で体力を温存しながら、山頂を目指して一歩一歩進んでいきます。

渡渉の連続!アドベンチャーな旧道前半

「旧道・新道周回コース」には下二股・上二股という2つの分岐が現れます。その分岐を一度も曲がらず、一本道として進んでいくのが旧道です。一般的に渡渉(川を渡ること)や沢登りが多いため、滑落防止の観点で旧道が上り、新道が下りで利用されます。

下二股から上二股の区間は、ほとんど沢沿いを進む道。斜里川の美しい沢が現れたと思えば、何度も沢を横切るアドベンチャーな登山道が続きます。まるで天然のアスレチックで遊んでいるような感覚です。

緑のトンネルと渡渉を繰り返し、奥深い知床の自然の中へ進んでいきます。ところどころ景色が開けると、目の前にそびえるのは登頂を目指している「斜里岳」。数時間後にあの上にいるとは信じられない、遥かなる山容を仰ぎ見ました。

沢沿いを進んでいるので、日陰に入ると、まるで本物のクーラーの前にいるような涼しさ。沢水で顔を洗うと鉄分の匂いがして、斜里岳が活火山だということを再確認させられます。

母なる山から水が湧き、大きな沢となってオホーツク沿岸の大地を潤す。北海道という地だからこそ、自然の生み出す循環がより壮大に感じられます。そして、その中に自分が足を踏み入れていることも感慨深いです。

ありのままの自然に感動しながら、自らの感性の赴くままにシャッターを切る時間。日常を離れ、頭の中を空っぽにしてリフレッシュするひとときは、なんだか心に潤いをもたらしてくれるようです。

知床の世界観を物語る。野趣に富んだ旧道後半

斜里岳は高山植物の宝庫。登山道を進めば進むほど、彩りが増えていきます。オニシモツケやミソガワソウなど、変わった品種も多く、標高1,000mほどでありながらポテンシャルの高い北海道の高山を楽しみました。

そんな高山植物に彩られる沢ですが、標高を上げていくにつれて階段状に変わり、途中には滝が現れることも。この滝が旧道後半に差し掛かったという目印です。

振り返れば、沢の先に広がるオホーツク海と田園風景。道東のダイナミックさと牧歌的な雰囲気が共存する、お気に入りの一枚を撮影することができました。

それにしても相変わらず、沢の横を進んでいくワイルドな登山道。後半になればなるほど傾斜が険しくなるため、なんだか沢登り(シャワークライミング)に挑んでいる感覚になります。

「まさかラストで本当に沢登りをするとは!?」

とはいえ、深さはほとんどないので、靴の中まで濡れることはないのですが、完全に沢の中を直登していきます。ほとばしる水滴が涼しく、最高にアドベンチャーな体験を楽しむことができました。

そしてスタートから約3時間で、2つ目の分岐にあたる上二股へ到着。ここから30分ほど進むと、いよいよ森林限界(高木が生育できず森林を形成できない限界線)を越え、クライマックスを迎えます。

知床連山を見渡すクライマックスの稜線へ

上股から20分ほど歩いて、いよいよ斜里岳の稜線へ。ここまで変化に富んだ、雄大な登山道を進んできたので、半端ない達成感があります。振り返ると、幾重にも重なる道東の山並みと、ハイマツの峰々。

雲の先には、雌阿寒岳(めあかんだけ、標高1,499m)も顔を覗かせています。まるで吸い込まれるような、青と緑の景色を前に、ただただ感動してしまいました。

そして今まで山に阻まれて見えなかった北側のパノラマも開けてきます。そこに佇んでいたのは、知床連山の最高峰「羅臼岳(らうすだけ、標高1,661m)」。海から山までひと続きの知床の壮大な自然が広がります。

しかし、山頂はまだ先です。すばらしい景色で疲れを吹っ飛ばしたら、いよいよラストクライムへ。距離は短いものの、傾斜はきつく、最後まで休めません。改めてタフさが要求される山だと再確認させられます。

さて、その先に待っているのは、雄大な自然を見渡す道。まさに隔絶された"雲上の世界"に来たと感じられる絶景の連続です。北海道の世界観を象徴する劇的な景色変化こそ、「斜里岳」が名峰たるゆえんだと実感しました。

「数時間前に見上げていた、遥か遠く感じられた山の山頂に、あと少しでたどり着くのだ!」と、思わず感動が込み上げてきます。

圧倒的な達成感を味わう。百名山「斜里岳」へ登頂

山頂は目と鼻の先。その先にはオホーツク海のパノラマが広がっています。日本各地にも、海の展望が美しい山は多くありますが、森林限界の山からこれほど近く海を眺められる場所は極めて珍しいです。

これこそ知床が世界遺産に登録されている理由だったりします。さあ、そんな贅沢なパノラマを前に、4時間にわたる登りのゴールです。

山頂は展望が360度開けていて、抜群の開放感! 山頂標識の先には道東の田園地帯がパッチワークのように広がります。網走の能取岬から知床連山まで、緩やかにカーブを描くオホーツク海も含めた、果てしなく美しい景色。

西に目をやれば、雌阿寒岳と阿寒摩周国立公園。東に目をやれば、遠く浮かぶ国後島の姿も。知床から360度見渡した道東は圧倒的なスケール感を見せてくれました。

下りのことも考えると、あまりゆっくりする余裕もないのですが、しばし山頂で達成感と感動に浸っていました。こんなすばらしい山に親子で来られたこと、そして最高の天気に恵まれたことに感謝です。

夏になると斜里岳に思いを馳せずにはいられないほど、強く記憶に残る山旅となりました。

下山後は斜里温泉へ。珍しいモール泉に浸かる

下山後に温泉に浸かるのも山旅の醍醐味。ということで、最後は斜里町の中心部にある「斜里温泉 湯元館」へ。

最大の特徴は、モール泉という珍しい泉質です。ドイツ語の泥炭 (Moor)に由来しており、モール泉とは植物生の腐植物を含んだ温泉になります。

赤ワイン色のお湯は独特な脂の匂いがして、ポカポカと身体を芯から温めてくれます。身体の疲れをほぐしてくれる名湯でした。

ということで、今回は道東の名峰「斜里岳」の登山レポートをお届けしました。北海道の山は一つひとつが山深く、登り応えがあり、印象的な山ばかり。ぜひ夏に、北海道の飽くなきフィールドを求めて山旅に挑戦してみてはいかがでしょうか。

All photos by Yuhei Tonosho

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