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「低学歴のお前に何がわかる」妻にそう怒鳴った教育モラハラ夫は、なぜ小3の息子の勉強にのめり込んだのか

  • 2023.8.22
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“モラハラ夫”の中には、子どもを将来有名な大学に入れようと、半ば虐待に近い過剰な指導を繰り返すタイプの人がいる。モラハラ離婚に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「ある『スパルタ教育パパ』タイプのモラハラ夫の場合、実家との関係も疎遠で友達も少なく、職場では出世コースから外れていた。そのため、子どもの教育にのめり込むようになっていたようだ」という――。

※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。また、罵倒や叱責しっせきといったモラハラの言動について具体的に書いていますのでご注意ください。

勉強中、机に顔を伏せる少年
※写真はイメージです
「立派な経歴、真面目で頼りがいがある」好条件に引かれ結婚

会社員のA子さん(28歳)は、結婚相談所で、有名企業に勤める会社員の男性と知り合いました。

男性はA子さんより10歳年上で、地方の名門国立大卒。「立派な経歴に真面目で頼りがいのある年上の男性」と、全てが好条件に見えました。

男性からは結婚を前提に交際を申し込まれ、交際から半年で結婚しました。

夫は地方の実家とは疎遠だし友達も少ないからと、結婚式を挙げることに消極的でした。A子さんは友達を呼びたかったものの、義理の両親との付き合いがないのは気楽だと思い、夫の希望に合わせてこぢんまりとした式を挙げました。

夫は無口でおとなしく、残業もなく職場の飲み会にも行かず、友人と出かけるようなこともありません。無趣味なため、家ではずっとテレビやスマホを見ていて、A子さんは真面目で良い夫だと思っていました。

「息子を東大に入れるため」中学受験にのめり込む夫

A子さんは結婚の翌年に妊娠して、それを機に退職。男の子を出産した後は、専業主婦として子育てをすることになりました。

夫に異変が表れたのは、息子が小学校に上がった頃です。

夫は「息子を東大に入れる、そのためには中学受験で成功しないといけない」と言い出しました。

A子さんも、高学歴の夫にならって息子にもいい大学に行ってほしいと思っていたので、その方針に反対はしませんでした。

すると夫は息子の教育にのめり込むようになりました。

できないと怒鳴り、付きっきりで勉強

自分で選んだ問題集を買ってきて、一日にこなすページ数を決め、付きっきりで勉強させます。

最初の頃は順調でしたが、小学3年生になる頃には、息子はだんだん行き詰まるようになりました。

息子が一日に決めたページ数をクリアできないと、夫は「こんなこともできないのか」「俺はこのぐらいの難易度は簡単に解けたぞ」と怒鳴ります。間違えた問題はその日のうちに解けるまでやり直し、深夜になっても夫は寝ることを許しません。

見かねたA子さんが「明日は学校だから」と言うと、夫は「学校なんか行かなくていい、どうせ低レベルな授業しかしていないんだ」と怒鳴ります。

しかし息子が風邪をひいて学校を休みたいと言うと、「学校すらちゃんと通えないような怠け者は将来負け組になるぞ」とまた怒鳴ります。

学校に「無駄な行事をするな」などとクレームを入れることもあり、そのたびにA子さんは肩身の狭い思いをしていました。

「低学歴のお前に何がわかる。口を出すなら離婚だ」

夫のスパルタ指導は勉強以外にも及びます。「文武両道が大事だ」と言い、息子に空手を習わせて、その送迎や指導も熱心に行います。息子は本当は水泳を習いたがっているのですが、「水泳なんかじゃ強い心が身に付かない」と夫が反対したのです。

毎日こういった生活で、休日は家族で行楽に出かけることもありません。

ある時A子さんが息子の問題集を見てみると、なんと小学校6年生向けのものでした。夫はどんどん先取り教育をさせて、3学年も上の問題を解かせていたのです。

「これじゃできないのも当然だから、もう少し年齢に合った問題集がいいんじゃない?」とA子さんが言うと、夫は「俺は3年生の時にはこのレベルの問題を解いていた」と言いました。

「そもそもまだ3年生でこんなに頑張らなくても、毎日疲れてるみたいだし……」と、A子さんが日頃のスパルタ教育について口にすると、夫は火がついたように怒り始めました。

「受験の厳しさも体験したことがないくせに、低学歴のお前に何がわかる。俺も親にこうやって厳しく勉強と空手をさせられて、寝ないで勉強してここまできたんだ。俺のやり方に口を出すなら離婚だ、親権も俺がもらうからな」

今までの夫とは別人のようなけんまくと、離婚して親権をもらうと言われたことに、A子さんはショックを受けました。

「息子を守るため」離婚を決意

小学6年生の問題集に取り組む息子は誤答も増え、夫は激しく怒るようになり、A子さんに「今日は息子の食事は作らなくていい」とご飯抜きを命令したり、息子に寝ないでずっと立っているように命令するようになりました。

それは虐待ではないかと言うと、夫は「俺の邪魔をするのか」とA子さんに物を投げつけます。

家庭内は夫が絶えず怒鳴り、息子は憔悴しょうすいしている状態になり、A子さんは「これではいけない、息子を夫から離そう」と決意しました。

こうして、A子さんは私の法律事務所に相談にいらっしゃいました。

A子さんの話の内容は、モラハラを通り越して虐待に近いものでした。A子さんがこっそり録っていた録音には、深夜に泣きながら勉強をする息子を怒鳴りつけている夫の声が入っています。

A子さんは「別居して離婚したいです。いつも『離婚だ』と言っているから夫も応じるはずです」ということで、相談後、息子を連れて実家に帰りました。

「自分は正しい教育をしている」非を認めない夫

こうしてA子さんは夫と別居しました。依頼を受けた私は、A子さんの代理人として夫に連絡を取り、A子さんと息子は夫による暴言などでつらい思いをしていること、離婚に向けて協議をしたいことを伝えました。

夫からは、「離婚には応じない。自分は正しい教育を行っているので、A子と息子はすぐに家に帰ってくるべき」という返事がきました。

家には戻らないと返事をすると、今度は「別居を許可するが、条件として毎日Zoomで勉強を教える時間を3時間取ること」と言ってきました。

それでは別居をした意味がないのでこれも断ると、夫は何も言ってこなくなりました。

子どもへのオンライン授業にこだわり

夫は離婚に応じないため、協議離婚は難しいと判断して、離婚調停を申し立てました。

夫は弁護士に依頼せず、毎回一人で調停にやってきて「離婚はしない」と言うのですが、A子さんと息子への謝罪は口にしません。代わりに自分はいかに努力して勉強してきたか、いかに苦労して国立大学に入ったかを調停委員に何度も話すのです。

こちらからは暴言の録音など、モラハラの証拠を提出しているので、調停委員が「これだけのことをしていたら修復は難しいと思いますよ」と説得すると、夫はようやく離婚に応じる姿勢を見せました。

しかし今度は、「面会交流として毎週土曜と日曜に5時間ずつZoomでオンライン授業を行いたい」と言ってきました。子どもに対する暴言が原因の離婚のため、この条件も調停委員には「難しいですよ」と言われ、結局は「月1回のZoomでの面会」という条件に決まりました。

こうしてA子さんは夫と離婚することができました。

仕事にも復帰して、実家の両親に協力してもらって子育てを続けています。息子はずっとやりたかった水泳を始めて、勉強もほどほどに続けています。

夫は月1度のZoom面会のたびに勉強のことを聞いていましたが、息子が楽しそうに水泳教室のことを話すので、だんだんと勉強の話はしなくなりました。

「教育モラハラ夫」の行動の背景

あまりにも時代錯誤なスパルタ教育の事例なので、本当にこんな人がいるの? と思われるかもしれません。しかし、子どもの教育にのめり込み、「俺もこのぐらいはできたんだ」と過剰な勉強を強いるのは、モラハラの一つのパターンとして一定数見られます。

夫の行動の背景にあるのは、一体何だったのでしょうか。

離婚届
※写真はイメージです
「友達が少なく実家とも疎遠」が危険なワケ

A子さんの夫は、友達が少なく実家とも疎遠でした。実はこれはモラハラをする人に非常に多く見られる特徴です。

人付き合いがないのは不倫の心配がない、実家と疎遠なら嫁姑問題がないと歓迎する人もいますが、親しい人が全くいないというのは、それまでの人生で誰とも継続的な関係を築けていないということです。

人付き合いがないと、夫婦が家の中で長時間顔を合わせることになります。夫婦仲が良好な時はそれでよいですが、夫がモラハラ的な言動をするようになると、お互いに逃げ場がなくなってしまいます。

友達や職場の同僚と飲みに行くこともないので気分転換もできず、常にストレスの矛先が家族に向いてしまうのです。

また、A子さんに詳しく話を聞くと、夫は子どもが生まれる前、「父親に厳しく勉強や空手をしろと言われた、二度と思い出したくない」と言っていたそうです。

厳しく教育されて地方の国立大まで行ったものの、両親とはそりが合わなくて疎遠になった。しかし子どもが生まれると、嫌だったはずの厳しい教育を子どもにも始めてしまったのです。

こういった負の連鎖も、モラハラ家庭に多く見られます。

なぜ教育にのめり込むようになったのか

ちなみに、夫は有名企業に勤めていましたが、出世コースからは外れていて、帰宅が早いのはそのためでもありました。

A子さんは国立大卒で会社員だから優秀なはずと思って結婚しましたが、実際は、育った家庭と現在の職場の両方にコンプレックスを持つ人だったというわけです。

コンプレックスと、人付き合いのない性格。おそらく夫にとって国立大に合格したことは、つらい記憶であると同時に唯一の成功体験だったのでしょう。

その結果、子どもを東大に入れないといけないと考え、教育にのめり込むようになったのです。

とはいえ、この夫に中学受験の経験はありませんでした。そのため、「俺は寝ないで勉強した」などの自慢は高校生の時の話です。

実際の中学入試は勉強時間よりも発想や柔軟性も重視されますが、夫はそういった知識もなく、ただ難しい問題を延々と解かせるだけの勉強法を強制していました。

こういったタイプの父親は、塾に行かせないことも特徴です。妻が塾に行かせたらというと、「塾は金もうけでやっている」「塾講師は負け組」などと塾を猛批判するという話もよく聞きます。

おそらく、自分が親に監視されて勉強をしていたことで、自分の監視下で勉強をさせるのが一番良いという思い込みがあるのだと思われます。プロに任せるという発想がないことも、モラハラ夫に共通する特徴です。

コンプレックスの末に、子どもに過剰な勉強を強制してしまったA子さんの夫。おそらく本人自身も楽しくはなく、息の詰まった毎日を送っていたのだと思われます。

話し合いをしても自分の姿勢を見つめ直してくれない場合は、A子さん夫妻のように、離れる選択肢を考えた方がよいでしょう。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。

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