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「ただ当たり前に生きていきたいだけなのに」トイレをきっかけに見つめ直したい“誰にとっても重要な利益”

  • 2023.8.21

トランスジェンダーのトイレの使用について、最高裁が下した判決が注目されています。

一方で、性別によらず利用できる「ジェンダーフリートイレ」が広がるなど、多様性を認めつつ誰もが安心できる空間をどのようにつくるのか、考えます。

連載「じぶんごとニュース」

これで「全て解決」ではないけれど…

札幌市中央区にある「日本たばこ産業」=JTの北海道支社。

社内の地下1階にある「多目的トイレ」は、2019年から、身体の性別によらずに利用できる「ジェンダーフリートイレ」としても社内で周知しています。

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大学の講義をきっかけに、性の多様性について関心を持ったという、入社3年目の吉田大輝(よしだ・だいき)さん。
「反対意見とかは一切なく、スムーズに設置した」と話します。

差別解消などを訴えるイベントにも参加。当事者の声に触れてきました。

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「パレードに参加してくださった市民の皆様に“私は『●●』として生きていく”というところのカギかっこの部分を埋めてもらった」

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6月には他の企業や当事者も巻き込み、セミナーを開催。
取り組みを進めたくても、一歩踏み出せずにいる企業の声も聞きました。

「『使いやすい』って思ってもらえるようなトイレの“存在”があるだけでも救われるのかなと思うし、それがあるから全て解決という認識ではない。何かしらのアクションを起こすっていうことは、今後重要になってくるのかな」

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こうした「ジェンダーフリートイレ」は、多くは”バリアフリートイレ”のような形をとっています。

一方で、社会はこれまで、当たり前のように「男女」で分けられてきました。

裁判が社会に投げかけるもの

最高裁判所は7月、トランスジェンダーのトイレの使用について、ある判決を出しました。

原告は経済産業省の職員のトランスジェンダーの女性です。
周囲にもそのことを明らかにして、「女性」として勤務をしていました。

職場に「女性用トイレ」を使用したいと伝えたところ、同僚女性たちからは明確に批判や不安の声はなかったにも関わらず、経産省は「他の職員が違和感を抱いているようにみえる」などと、2階以上離れたトイレを使うよう指示していました。

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原告は「差別的な取り扱いを受けた」として、国を提訴。

最高裁は、「他の職員への配慮を過度に重視し、当該職員の不利益を不当に軽視した」として、国の対応を「違法」と判断しました。

原告の職員は、判決後の会見でこう話していました。
「大事なのは、自認する性別に即して社会生活を送ることであって、トイレとかお風呂とかそういうところに矮小化して議論すべき問題ではない

札幌で、同性どうしの結婚など「結婚の自由」を求める裁判を担当している、加藤丈晴弁護士。
判決のポイントをこう指摘します。

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「**自認する性別に即して社会生活を送るということが、誰にとってもまず重要な『利益』**なんだというものを前提として、特にトランスジェンダーの人たちにとっては、切実な『利益』である」

また一方で、最高裁は「不特定多数の人が使用する”公共施設“の在り方に触れるものではない」、つまり**”公共施設のあり方”については、改めて議論する必要性**を示したのです。

加藤弁護士は、「要するに急に扱いを変えてしまうと戸惑う人たちも出てくるので、少しその過渡的な措置を入れながら様子を見てみましょうと。ざくっとした抽象的な危惧感みたいなもので議論するのではなくて、当該職員の置かれた、あるいはその他の主に“女性”の職員の方々が置かれた立場を具体的に見て決めていくしかないということ」と話します。

今回の判決はあくまでも個別のケースに対し出されたもので、全ての職場や公共施設のトイレに反映されるものではありません。

トイレの利用については、もともと「男性」や「女性」として生きる人の中には、違和感を覚える人もいるかもしれません。
不安をあおったり、勝手に相手のことを想像で判断したりすることなく、丁寧な議論や調整が必要です。

変わり始める「公共施設」

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多くの人が集まる“公共施設”の1つ、函館市役所。
2019年に、庁舎の1階と8階の合わせて4か所を「だれでもトイレ」として、市民にも周知しました。

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函館市市民・男女共同参画課の藤澤達弥課長は、「周りの人の理解が絶対必要になってくると思っている。市としても市民の性の多様性への理解促進を引き続き進めていきたい」と話します。

「当事者がどう生きているかのリアル」

トランスジェンダーの職員が受けた、職場からのトイレの使用制限について、「違法」と判断した最高裁。

ゲイの当事者として性の多様性を考えるパレードの運営などに関わる、満島てる子さんは、この裁判について「勘違いされやすい」と話します。

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「『トイレの使用がどうあるべきか』がポイントではなくて、『当事者がトイレという話題から不当な差別を受けたか』がポイントだと思う。トイレだけでなく、就職先の環境や教育現場で制服やライフプランの設計などにあたって、ただ当たり前に生きていきたいだけなのに、選択を制限されたり、差別を日常のものとして受けていることがあるように思う」

「SNSを見ていると、当事者がどう生きているかのリアルを無視して、性別を偽ってトイレを悪用するのではなどのネガティブな印象がメインに語られている。それは誤解だといいたい。今回の裁判は正しくいろいろな人から見てほしい」と話していました。

”多様性を認め合う社会”という理想に対し具体的なあり方を考える、大きな布石となりそうです。

連載「じぶんごとニュース」

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2023年8月9日)の情報に基づきます。

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