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美学者・伊藤亜紗がもう一度見たい映画と、その理由。『ベイビー・ドライバー』

  • 2023.8.20
美学者・伊藤亜紗

音楽にノるように主人公の“ノリ”を借りたいから

普段は時間があれば、新しい作品を観る方です。でも、たまに好きな音楽を繰り返し聴くように観る映画があって、『ベイビー・ドライバー』もそのうちの一本。最初は映画館で観て、それ以降は家で何度も観ています。

ジャンルとしてはアクションと結びついたミュージカルですが、この映画が少し特殊なのは、主人公のベイビーが「歌っている人」ではなく「音楽を聴いている人」ということ。だから観ていると、ベイビーに一体化するんですよね。音楽を聴くことで巫女のように“なにか”を自分の体に下ろしている彼にシンクロする気持ちよさ、というか。

前に建築家のレム・コールハースの文章を読まないと、自分の文章がうまく書けない時期があったんです。この映画を繰り返し観る理由もそれと似ていて、たぶんノリを借りたいんだと思います。音楽にノッてるベイビーのノリを借りて、推進力を得る。元気がない時に音楽を聴くのと似ているかもしれません。

サントラもよく聴いているので曲を聴くだけで、ベイビーがその曲を聴いている時の気分になれる。それでも映画で観直すのは、映像が音楽をアンプリファイしているからかもしれないですね。数日前に観返したらスイッチが入って、またずっと観てます(笑)。

Information

『ベイビー・ドライバー』

ギャングに雇われ、“逃がし屋”として生計を立てている天才ドライバーのベイビー。寡黙な彼は音楽を聴くことで平静を保ち、運転の才能を覚醒させていた。選び抜かれた挿入歌43曲が映像とシンクロする爽快カーアクション。'17米/監督:エドガー・ライト。

profile

美学者・伊藤亜紗

伊藤亜紗(美学者

いとう・あさ/1979年東京都生まれ。著作に『どもる体』『記憶する体』『ヴァレリー 芸術と身体の哲学』など多数。最新刊は村瀨孝生との共著『ぼけと利他』。

HP:https://asaito.com/

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