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シュークリームはパティシエの名刺代わりのお菓子。Vol.1〈AU BON VIEUX TEMPS〉

  • 2023.8.17
尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉シュー パリゴー

日本でカスタードクリームと呼ばれる、卵黄、砂糖、小麦粉、牛乳から成る甘いクリームは、フランス語ではクレーム・パティシエールという。“菓子職人のクリーム”という意味だ。そのまま絞って、そしてさまざまなクリームのベースになって、たくさんのケーキに使われる。

例えば、泡立てた生クリームと合わせた“ディプロマット”は絞り出してフルーツのタルトやケーキに、バタークリームと合わせた“ムスリーヌ”はフランス版ショートケーキやミルフィーユのクリームになる。メレンゲを混ぜてふわふわの“シブースト”になったかと思えば、アーモンドクリームと合わせた“フランジパーヌ”は火を入れてタルト生地にも。

まさに、“菓子屋”のクリームなのだ。それだけに、パティシエには、それぞれ理想とする味や食感があって、炊き方から材料まで、こだわりは十人十色。

それを素直に味わえるのがシュークリーム。パティシエールで「煮る(炊く)」、シュー皮で「焼く」というパティシエにとって最も大切な2つの技術が、シンプルに一つになっているから。これを食べれば、彼らの熱い思いが伝わるはずだ。

AU BON VIEUX TEMPS(尾山台)

クレーム・パティシエールは、パリで知った初恋のキスの味

日本を代表する老舗フランス菓子店のシュークリームは、シュー パリゴー=パリ野郎という。アーモンドをまぶしたゴツッと香ばしい皮を頬張ると、中からはそれをしかと受け止めるコクのあるクリームが現れる。生クリームを混ぜない、クレーム・パティシエールそのものだ。

尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉シュー パリゴー
午後早い時間には売り切れてしまう〈オーボンヴュータン〉のシュー パリゴー。パティシエール100%のフランスの味。

「シュー パリゴーは、僕の菓子に対する考え方そのもの。パティシエールは、菓子屋にとって最も大事な、いちばん好きなクリームですから」

1944年生まれのフランス菓子界の巨匠、河田勝彦さんは言う。最初に口にしたのは、たぶん〈米津凮月堂〉にいた1960年代。が、「半世紀以上前のことだから、あんまり覚えてねぇな」。それからフランスに渡り、出会ったそれは未知のおいしさだった。そして、その時学んだパティシエールが40年間変わらず、いまもシュー皮に詰まっている。

尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉ミルフィーユ オー フレーズ、オーボンヴュータン、ビスキュイ オー フリュイ
左から、バタークリームを混ぜたムスリーヌをパイに挟んだミルフィーユ オー フレーズ450円、オーボンヴュータン490円、ディプロマットを使ったビスキュイ オー フリュイ470円。
尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉シュー パリゴーの仕込み作業
「いつもはもっと大きな銅鍋で炊いているよ」というパティシエール。

クリームを仕込むのは、大抵、夕方。リズミカルに一気に炊き上げたら、最後にバターを一片。これを冷蔵庫で1晩寝かせ、カッチカチになったものを、翌朝滑らかにツヤが出るまで練るのが河田流だ。

「結構、力がいる仕事だけど、これでコクと旨味が増すの。菓子屋のおいしさが何かといえば、卵のコク味ですよ。コクがあって、その後、甘さがついてくるのが、僕のクリーム」

このパティシエールは、洋梨のお酒とコンポートを入れた、店名を冠したスぺシャリテにも姿を変え、こちらも40年間ショーケースに並ぶ。いわく、「クレーム・パティシエールはね、初恋のキスの味なの!」。

尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉シュー パリゴー
シュー パリゴー350円。

Information

尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉店内

AU BON VIEUX TEMPS

オーボンヴュータン
住所:東京都世田谷区等々力2-1-3
TEL:03-3703-8428
営:10時~17時
休:火曜・水曜(祝日は営業の場合あり)
サロン・ド・テ14席
フランス菓子、フランス惣菜も揃う
HP:https://aubonvieuxtemps.jp/

profile

尾山台〈AU BON VIEUX TEMPS〉河田勝彦

河田勝彦(パティシエ)

かわた・かつひこ/1944年東京都生まれ。洋菓子の草分け〈米津凮月堂〉で学んだ後、渡仏。10年間、フランスで腕を磨き、81年に自店を構えた。2015年に移転し、2人の息子とともに、いまも厨房に立っている。

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