1. トップ
  2. 麻生久美子さん「いろんなことに無理をしない」。年を重ねることを受け入れて

麻生久美子さん「いろんなことに無理をしない」。年を重ねることを受け入れて

  • 2023.8.16

俳優として長く活躍されている麻生久美子さん。8月18日からは映画『高野豆腐店の春』が公開されます。「29歳のときはジタバタした」と話す麻生さんに、これまでのターニングポイントや、理想の年齢の重ね方について聞きました。

一度は俳優を辞めようと思ったことも……

――俳優活動を振り返ってみてターニングポイントは?

麻生久美子さん(以下、麻生): 2006年のドラマ『時効警察』(テレビ朝日系)のときですね。映画『カンゾー先生』から役者人生が始まっていろいろな役を演じてきた中で、実は当時仕事を辞めたいと思っていたんです。

明確な理由があったわけではなく、小さな理由がたくさん積み重なっていたのだと思います。自分自身の芝居が好きではなくて、「そんな芝居を視聴者の方に見せていいのだろうか」とか、「これ以上、私から出てくるものは何もないな」なんて考えていた。

若いのに、勝手に自分で限界を見ていたんだと思います。若いからこそ、余計なことを考えてしまったということもあるんだろうな、と。

朝日新聞telling,(テリング)

――『時効警察』がそのモヤモヤを乗り越える突破口になったのですね。

麻生: 初めてのコメディーで、とにかく難しくて面白くて。あ、こんな世界もあるんだと思ったら、まだまだ役者を続けられるなと思いました。自分にはまだ可能性があるし、知らない世界がたくさんあることに気づかせてもらった作品です。だから、あの作品に救われたなと思いますし、あれがなかったらいま俳優を続けていないかもしれない。それくらい大きなターニングポイントでした。

――今はご自身のお芝居は好きですか。

麻生: お芝居は好きですが、俳優に向いているとは思っていません。おそらく、そう思わないまま役者人生を終えるのだと思っています。

役者さん同士でお話ししても、意外と「天職だ」とか「役者が向いている」と言っている人は少ないんですよ。「好きだからやめられないんだよね」「なんか面白いんだよね」と言っている人がほとんどだと思います。

やはり、芝居は生ものですから。自分の感情がどう動くかなんて、その時になってみないとわからない。だから本当に難しく、思った通りにいかない。でも、お仕事として役者をやらせてもらう以上は100%のものを見せたい。そういう葛藤の中で日々お芝居をしています。

朝日新聞telling,(テリング)

いまは仕事より子育て優先

――29歳、39歳の節目で、年を重ねることへの葛藤はありましたか?

麻生: 今思えば、29歳のときはジタバタしましたね。世界が狭いからなのか、若い時のほうが年齢にとらわれる気がします。30歳までには結婚したいと思っていて、本当に29歳で結婚しました。たまたまタイミングが合ったのもありますが、自分で望んだからこそそうなったのかなとも思います。

39歳のときは子育てが忙しくて、あまり考える余裕はありませんでした。周囲から「40歳過ぎたら急に体力落ちるよ」なんて言われて、「えー?」と思いましたけど、数年経って、「これが、みんなが言っていた体力の衰えか!」と実感するようになりましたね(苦笑)。最近は、同年代との会話は健康の話ばかりです。長く役者を続けていくためにも、健康には気を使うようになりました。例えばファスティング。かなりすっきりしてお肌もきれいになります。

――年齢を重ねるごとに、演じる役柄も変わっていきます。

麻生: その時その時の年齢に合った役を演じられるのが、俳優の仕事のいいところですよね。最近は母親の役が多くなりました。初めて演じたときは「私がお母さんを演じていいのかな」と思っていましたが、いつの間にか普通に受け入れている自分がいます。実際、お母さんですしね。

朝日新聞telling,(テリング)

――6歳と11歳の子どもを育てる母として、育児と仕事のバランスはどのようにとられていますか?

麻生: 出産してからは拘束時間の多すぎない役を選ばせてもらうなど、完全に子育て優先で仕事をさせてもらっています。子どもが小さいときの成長をしっかり見られないなんて、そんなつまらないことはないですから。

子育てはすごく大変でへとへとになりますが、少しずつ子どもの成長が見られるのはうれしいですね。可愛い笑顔でにこっと笑いかけられたら、それだけで幸せです。

タイミングが来たら踏み出せるから、焦る必要はない

――この先、どのように年を重ねていきたいですか。

麻生: いろんなことに無理をしない、それが一番だと思っています。メイクもファッションも、若く見せようとして無理する必要はない。たとえ若い時に好きだった服装ができなくなったとしても、その時の自分に合ったものをチョイスしていければいいのかなと思います。

白髪も、もちろんないほうがいいですが、いま急に真っ白になるわけではないですよね。毎年1歳ずつ年を取って、少しずつ変わっていく。その過程で受け入れられるようになるんだな、と実感しているところです。

朝日新聞telling,(テリング)

――やりたいことがあっても一歩を踏み出せない人にメッセージをお願いします。

麻生: もったいないなとは思いますが、きっと踏み出せない理由があるんでしょうね。今踏み出せないなら、それはタイミングではないのかもしれません。本当にやりたいと思っていたら、いつか踏み出せるときが来るのではないでしょうか。だから、焦る必要はないと思います。

私は全然泳げなかったんですが、30歳をすぎて水泳を習い始めて、2キロくらい泳げるようになったんです。それはいま振り返ってもすごくいい経験でした。
やりたいことを思い切って周囲に口に出してみると、自分が想像する以上にみんな応援してくれますよ。その声に後押しされて、一歩前に踏み出せることもあるかもしれません。

ヘアメイク:ナライユミ
スタイリスト:井阪恵(dynamic)

■尾越まり恵のプロフィール
ライター/株式会社ライフメディア代表。福岡県北九州市生まれ。雑誌、WEB、書籍でインタビュー記事を中心に取材・執筆。女性のハッピーを模索し、30代はライフワークとしてひたすらシングルマザーに密着していました。人生の決断を応援するメディア「わたしの決断物語」を運営中。

■慎 芝賢のプロフィール
2007年来日。芸術学部写真学科卒業後、出版社カメラマンとして勤務。2014年からフリーランス。

元記事で読む
の記事をもっとみる