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"別れてくれない元カレ"をどう排除すればいいか…犯罪心理学者が指摘「危険性が高いストーカー」2つのタイプ

  • 2023.8.13

2023年6月29日、横浜市にある自宅マンションの駐車場で大学生の女性(18歳)が、元交際相手の男性(22歳)に刺殺される事件が発生した。犯罪心理学者の桐生正幸さんは「恋愛関係がもつれると、ネガティブな感情がまとわりつき、なかなか解決しない。子どもが交際相手から付きまとわれた場合は、まず親がストーカーの心理と行動を認識して対策するべきだ」という――。

横浜の痛ましいストーカー殺人事件は世に衝撃を与えた

今年6月、横浜にて、約2年間の交際を解消した後も執拗に復縁を迫っていた男性が、その交際相手の女性の命を奪うという事件が起きた。福岡の繁華街の路上で起きたストーカー殺人から半年も経たないうちに、再び同様の凶悪犯罪が出現し、娘を持つ親の不安がますます高まっている。

執拗に復縁を迫る狂気にも似たストーカーから、どのようにして子どもたちを守れば良いのか。犯罪心理学の研究知見から、今できる最善の対策を、ここで検討してみたい。

【図表】警視庁に寄せられたストーカー相談件数
相談者の性別は、女性が963人(79.8パーセント)、男性は244人(20.2パーセント)で、過去4年間も同様の傾向。出典=警視庁「ストーカー事案の概況」2023年3月3日
【図表2】警視庁に寄せられたストーカー相談者の年齢
20歳、30歳代が744人で全体の約62パーセントを占め、過去4年間も同様の傾向。出典=警視庁「ストーカー事案の概況」2023年3月3日

日本のストーカー事案の多くは元恋人からの被害であるが、私がふだん学生から受ける相談も、概ね元カレからのストーキングに関するものである。恋愛関係のもつれには、ネガティブな感情がまとわりつき、なかなか解決しない側面を持つ。

危険性が高いストーカーはどのタイプか

この記事では、まず凶悪化するストーカーの心理面についてお伝えする。

これまでの研究において、ストーカーの分類としては、医学的な観点からの分類と、犯罪捜査の観点からの分類がある。ミューレン(Mullen,2000)は、双方のアプローチを考慮した分類を提案している。それらは、ストーキングが発生した際の対人関係、ストーカーの行動や特徴、それに伴う被害者のダメージや行為の発展性などを手掛かりに、分類を行っている。

【図表】ミューレンによるストーカー分類*
*ミューレンの分類を基に、著者が作成

この分類からすると、殺害に至る場合は、元恋人や元妻に対する「拒絶型」と考えられる。また、危険性の高さから反社会性人格障害も注目されることとなる。

この反社会性人格障害の患者は、個人的利益や快楽のために違法行為、欺瞞ぎまん行為、搾取的行為や無謀な行為をしても、良心の呵責かしゃくを感じない。そして、自分の行動を正当化ないし合理化し、被害者を責め、その行動が他者に有害な影響を与えたことに関心を示さないといった特徴を持つ。また、衝動的であり、身体的攻撃性を行うが後悔の念がなく、他者に対する共感に欠け、自己評価が高い傾向があり、独断的、自信家、傲慢ごうまん、能弁で、流暢に話すといった傾向も指摘されている。

【図表4】ストーカー相談者と行為者の関係(令和4年)
相談者と行為者の関係は、交際相手(元を含む)が595件(49.3パーセント)で最も多い。出典=警視庁「ストーカー事案の概況」2023年3月3日
恋愛についてオープンに話せる親子関係でないと対応が遅れる

それでは、娘の交際相手が凶悪化したとき、親はどうやって子を守ればいいのか。

そもそも、子どもとのコミュニケーションを円滑に行っている親でも、性的な要素も含む恋愛関係に関して、普段からオープンに話せる関係は少ないであろう。娘と母との会話の中には有っても、娘と父との間では、ほぼ皆無ではないだろうか。

それ故、娘がストーカー被害に遭った際、すぐさまストーカーの心理と行動を直感的に推測できる人が不在となって、対応が一歩遅れることになる。

娘は彼氏が暴力を振るった後の優しさを本来の姿だと思う

横浜のケースのように、男性から女性へのDVが継続的に行われて、両者の関係がなかなか解消されない、といった問題がある。

その理由として、レノア・E・ウォーカー(Walker 1970)は、暴力のサイクルモデルを提案し、その説明を試みている。「緊張形成期」「爆発期」「ハネムーン期」の負のサイクルである。

まず、相手との関係に緊張、緊迫感が持たれ始める「緊張形成期」である。加害者が、ちょっとしたことでイラつき、小さいながら体への暴力や言葉の暴力が現れる時期である。被害者は、刺激しないよう相手に合わせ、暴力を受けても「これぐらいなら我慢できる」といった気持になっている。次に、加害者の度を過ぎた抑制の利かない暴力が、1週間以上も続く「爆発期」である。この時は、被害者が抵抗しても収まらない。

その後に続くのが「ハネムーン期」となる。加害者は、「もう二度と暴力をふるわない、自分が悪かった、ごめんなさい」と謝り、また、被害者がいないと生きていけない、といった関係修復の態度を示す。被害者は、それを信じ関係を継続してしまうことになる。しかしながら、しばらくすると再び「緊張形成期」が訪れ、DVのサイクルが始まることとなる。

被害者がこのループから逃げられない理由として、被害女性は「ハネムーン期」の加害者が本来の姿だと信じていること、別れた時の報復などが怖いこと、などがあると考えられている。

もし、自分の子どもが暴力を振るう交際相手と別れられないといった状態にあるときは、DVにはこのサイクルがあるということを理解させることが一助になるだろう。

「ストーカーの怒りが臨界点に達した時に事件は起こる」

しかし、そうやってDVから逃れた女性を、執拗に追いかけストーキングする男性が後を絶たない。このサイクルから脱却できない男性側のジレンマは、愛情と暴力の入り混じった感情をもたらし、離れていった女性を攻撃のターゲットにしていくのだ。

精神科医の福井裕輝(2014)は、ストーカーに関わる因子として、反社会性人格障害、自己愛性人格障害、発達障害傾向を挙げている。福井は、2012年に発生した「逗子ストーカー殺人事件」の加害者に対しては、自己愛性人格障害の可能性があるのではないかと指摘している。「結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え」といった加害者の文面から、自分の好意を正当化し、強い被害者意識により、身勝手な恨みを募らせている心理的状態を推測している。

加えて、「恨みを募らせながらも、相手にすがる。写し鏡である相手を失うことは、自分の全てを失うに等しいからだ。だが、追えば追うほど求めるものは遠のいていく。そんな相手に苛立ち、怒りを募らせ、それが臨界点に達した時、事件は起こるのだ」と説明を行っている。

凶悪なストーカーの心的過程を窺い知る上で、重要な指摘だと考えられる。

女性の背後に忍び寄る不審な男性
※写真はイメージです
横浜の殺害事件では警察が積極的に介入できなかった

しかし、恋愛に関わる逸脱した行為がストーキングなのかどうかという被害者側の認識が、ストーカー規制法の条件に適さなければ、警察は容易に禁止命令を出すことができない。横浜市の事件においては、被害者側から警察に何度か相談などがあったものの元交際相手との関係修復が示されたことで、結果的に積極的な警察介入が遅れている。犯行1週間前に交際関係の解消をし、警察は暴力行為を継続確認したが、結果的にストーカーの暴力行動のきっかけを与えてしまっている。

その点を踏まえ、今後、法改正が必要となるが、それが実現するまでには時間的猶予がある。その間、私たちはどのように対処していくべきであろうか。そのことを解決する一つのヒントが、地域防犯活動の基礎的な学問となった「環境犯罪学」の考えに隠されている。シンプルな4つの対応で、日本の街頭犯罪を減少させた理論である。

まず、一つ目は「被害対象の回避・対象物の強化」である。これは、被害者自身を強化することに着目する。例えば、家族による安心・安全が自覚できるよう精神的に支えることで、被害者自身がはっきりと拒否する態度を示すことができるであろう。

自宅の防犯設備を強化し、スマホの情報漏洩対策をしっかり

次に「接近の制御」である。物理的空間およびインターネット空間において、ストーカーを寄せ付けない工夫である。例えば、住んでいる家やマンションの防犯設備を強化する、電話番号やメールアドレスを変更し、SNS等では不用意な許可や取り扱いに注意する。非通知での電話を着信拒否に設定にする、といった方法である。

三つ目の「監視性の確保」は、監視カメラなどの設置や家族・近隣の人の目を増やすことである。待ち伏せ、付きまといなどの行為に対し、家族や近隣の目が抑止力を発揮する。また、歩行中に所持する防犯ブザーを鳴らすことで他の通行人などの視線を集めることも効果的と言える。

最後に、「領域性の強化」である。プライベートな空間や品物における管理を徹底することである。自宅や職場などの物理的空間に、不用意に入り込める場所が無いかどうか確認し、あればそこを修繕する、もしくはそのエリアに近づかない。普段使っている自動車や所持品を常に確認・点検する。PCやスマートフォン等を、他人が容易に操作できるような状況にしない。また、SNSなどでの情報発信に注意を配り、居場所や活動範囲などが分からないように管理することも重要である。

暗闇でスマートフォンを使用してハッキングしているハッカー
※写真はイメージです
ストーカーが凶悪化したら、家族だけでは防げない場合も

恋愛関係を拒絶した後などに、ストーカーの行動がエスカレートし始めたら、前記の対応を徹底し、速やかに警察に相談する必要がある。また、ストーキングの日時や内容などの情報を保存しておき、被害者本人や家族の判断ではなく、状況や保存した資料に基づく警察の法的な判断に耳を傾けることも重要であろう。

なお、行政や地域の協力、職場や学校の協力も躊躇せずに求めていただきたい。身内の恋愛関係の軋轢を、他人知られたくない気持ちがあっても、それは誤りである、ストーカーは犯罪者である。凶悪化し始めたら、家族だけの力では防げない場合も出てくる。より多くの理解者の力を借り、ストーカーの歪んだ恋愛観や攻撃行動を組織的に防いでいく工夫を検討してほしい。

ストーカーの相談件数、警告や禁止命令が、徐々に増えつつある近年において、私たちは、これまでの研究知見に基づき具体的な対策で、このストーカーに対峙たいじしていかねばならない。なによりも、被害に遭っている子どもたちを孤独にせず、親である我々が、しっかりと守っている姿を示すことが大切だと考えている。

ストーカー被害の相談ができる電話番号(緊急ではない場合)
警察相談専用電話「#9110」番

桐生 正幸(きりう・まさゆき)
東洋大学社会学部社会心理学科教授
山形県生まれ。東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術)。山形県警察の科学捜査研究所で主任研究官として犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

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