劇作家・三浦直之がもう一度観たい映画と、その理由。『ハーフ・オブ・イット：面白いのはこれから』

ロマンティックコメディは好きなジャンルではあるものの、恋愛成就というゴールに向かっていくような物語には、昔みたいに乗れなくなっている自分がいたんです。そんな時、これからいろんな形のロマンティックコメディが生まれてくるんだろうなと思わせてくれた作品。

「恋愛はこういうもの」という一つの価値観を押しつけるのではなく、登場人物みんなが「愛とは何か？」を定義しようとしている。王道のプロットで始まりながら、関係性の中で変化が起こって、裏返されていく。

主人公のエリーが、ポールの代筆でアスターにラブレターを書く時、彼女はまだ愛について知らないから、映画の名言を引用します。最初は、エリーもポールも借り物の言葉を使っているんだけど、そうする中で自分の言葉を手に入れていく。

僕自身もそういう体験をしてきましたし、そのプロセスに感動して。何より、語られること、語られてないことを、中国語と英語、手紙、携帯のメッセージ、グラフィティといったいろんなコミュニケーションのレイヤーを使って、ビジュアルとして立ち上げるのがすごくうまいんですよね。

今後、自分がロマンティックコメディを作りたくなった時にも、また観返したくなると思います。

Information

『ハーフ・オブ・イット：面白いのはこれから』

アメリカの田舎町で暮らすエリーは、アメフト部のポールに頼まれ、アスターへのラブレターを代筆することに。やがてエリーとポールの間に友情が芽生えるが、自身もひそかにアスターに思いを寄せるエリーの心情は複雑になっていく。'20米／監督：アリス・ウー。

profile

三浦直之（劇作家、演出家、〈ロロ〉主宰）

みうら・なおゆき／1987年宮城県生まれ。2009年、主宰として劇団〈ロロ〉を旗揚げ。映画『サマーフィルムにのって』（松本壮史監督）など映像作品の脚本執筆も行う。

Twitter：@miuranaoyuki