1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 台湾客家の風景1――竹東の共同洗濯場「洗衫坑」を訪れる

台湾客家の風景1――竹東の共同洗濯場「洗衫坑」を訪れる

  • 2023.8.1
  • 978 views
客家人の女性が洗濯をする様子

台三線エリアにある新竹県竹東は客家文化の残る地であり、ここに「洗衫坑(シーシャンコン)」がある。洗衫坑とは灌漑用水路を利用した共同洗濯場のことだ。そこは生活の場でありながら、客家文化を象徴する場でもある。

台湾・竹東の街並み
古い建物が残る竹東の素朴な街並み。洗衫坑は中心部から少し離れた場所にある。

竹東の洗衫坑〈曉江亭(シャオジャンティン)〉にはバス停があり、伯公廟(客家人が祀る土地の神様の廟や祠)もある。朝日が昇るころに、客家の女性たちは洗濯物を詰め込んだかごを手に洗衫坑に集まり、情報交換や夫の愚痴などこぼしながら、洗濯を済ませ廟の神様に挨拶をして帰る。そんな日々を送っていた。町の重要なイベントや祭りがあるときには、洗衫坑が集会場所として使用されることもあったという。

洗衫坑で行われていたのはただの“労働”ではなく、一種の社交や信仰を含んだ共同体の活動だった。地域社会を形成するために重要な役割を持つ場所だった。ここで客家の多くの物語が生まれ、社会、歴史、文化の観点から、客家人の生活とその変遷を理解する窓となっているのだ。

一方で、都市化と現代化の波により、今その習慣が失われつつあるのも事実だ。それに伴い、かつての共同体の生活様式も大きく変わってきている。

今回の芸術祭で、デザインチーム〈無氏製作〉と〈同心円製作〉は、この洗衫坑の文化を継承していくために、洗濯場を整備し、デザインによってアップデートした。また、地元の竹東中学校の先生と生徒が発行するローカル誌『逐步東行 Our Chudong』や利用者の女性たちにも企画に参加してもらい、展示やマーチャンダイズなど、文化を未来につなげるためのアイデアを形にしている。

外から訪れた人たちにはもちろんだが、ここで暮らす客家の人たち自身にも、この独自の文化の価値を改めて考えさせる機会になっているように思う。

曉江亭 外観
〈曉江亭〉は洗濯場と伯公廟が併設されている、生活と信仰が重なり合う場所だ。新竹縣竹東鎮東寧路三段二段東寧橋旁
デザインチーム〈無氏製作〉と〈同心円製作〉、ローカル誌『逐步東行』による共同リデザインプロジェクトの展示
デザインチーム〈無氏製作〉と〈同心円製作〉、ローカル誌『逐步東行』による共同リデザインプロジェクトは、地元の住人との綿密なコミュニケーションを礎にして行われた。
〈同心円製作〉がリデザインした洗濯場
〈同心円製作〉がリデザインした洗濯場。上流の清掃をし、水質の改善も行った。
洗衫坑を利用している人たちのイラストのTシャツ
今回の芸術祭で製作したTシャツ。前面に描かれているのは、この洗衫坑を利用している人たちのイラスト。背面にはそれぞれのストーリーが書かれている。
自動販売機で買えるオーガニックソープ
自動販売機で買えるオーガニックソープ。パッケージを開けると、中には地元の子供が書いたイラストと物語が。
〈無氏製作〉のピリさん
キュレーションを行った〈無氏製作〉のピリさん。

〈曉江亭〉を訪れたのは午後で、台湾の夏らしい猛暑だったが、洗濯場のある川辺に下りていくと水辺の風がひんやりとし心地よかった。

そして、その時間にも客家人の女性が一人洗濯をしていた。日を受けて光る石場のくぼみに腰掛け、黙々と衣服を手洗いしている。今日は話し相手がいないので、つまらないと思っているかもしれない。

水辺にはいくつか各家庭のかごや洗剤などが置かれたままになっていて、それが“企画”によって作られたものではない、ちゃんとした日常の風景であることを示しているようで、なぜかほっとした気持ちにもなった。客家人ではなくても(ないからこそかもしれないけれど)、その景色はなにか尊いもののように感じたのだ。

客家人の女性が洗濯をする様子
慣れた手つきで洗濯をする客家人の女性。今でも25名ほどの人が日常的に利用しているそう。
洗濯道具
水辺に置かれっぱなしの洗濯道具。日々使うものだから常備しているのだろう。

Information

ロマンチック台三線芸術祭

『ロマンチック台三線芸術祭』

客家文化を発信する芸術祭が2023年8月27日まで、150kmにわたる台三線エリア(台北市、桃園市、新竹県、苗栗県、台中市)で開催中。国内外アーティストの90以上の作品を展示する。独特な食文化についての展示や、漬物やソースなどオリジナル製品の販売も行う。台北市以外では主要交通ターミナルから無料シャトルバスが4路線運行。詳細は公式HPから。

元記事で読む
の記事をもっとみる