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「こんな簡単なことをなぜ多くの人はできないのか」1億円貯めた"普通の会社員"が絶対やらなかったこと

  • 2023.7.29

お金を増やすには何が必要か。経済コラムニストの大江英樹さんは「お金を増やすために大切なことは時間をかけることと、我慢すること。月3万円を20年間積立投資に回し続けることができれば、驚きの額になっているはずだ。私が取材した1億円貯めた会社員たちはみな、短期的な行動を起こさないこと、恐怖と欲望に負けないこと、この2つを徹底していた」という――。

紙資料とタブレット端末で数字を突き合わせて確認している二人
※写真はイメージです
お金を増やすためにやるべきことは3つだけ

少し前に『お金の賢い減らし方』(光文社新書)という本を書きました。「お金の増やし方ならわかるけど減らし方って、どういうこと? お金を減らしたい人なんて、世の中にいるわけないでしょう」と思われるかもしれません。確かにそれはその通りで、心底、お金を減らしたいと思っている人などいないでしょう。でも実を言うとお金を減らし、死ぬ時に資産をゼロにして死んでいくことは案外難しいのです。むしろお金を増やすことのほうが簡単だったりします。こういうことを言うととんでもないと思われるかもしれませんが、実際そうなのです。

お金を増やす方法というのはさまざまですが、やるべきことで言えばごく簡単な3つのステップでお金は増えていきます。まずは① 普通に働いてお金を稼ぐこと、働いて稼ぐというのは全ての基本ですから、これが最初にないと話になりません。次が② 支出をコントロールしてお金を貯める、ということです。といってもよくありがちなむやみに節約をしなさいということではありません。論理的に考えれば無駄であるにもかかわらず、気が付かないままに支出してしまっている項目、一番大きいのは無駄な保険ですが、ほとんど使っていないサブスクのサービスもそうでしょうし、惰性で購読している新聞や雑誌もなかなか気付かないものです。これをきちんとチェックしてコントロールすることが必要です。

そして3つ目は③ 貯めたお金で積立投資を続けていくこと、です。それもできれば全世界株式を一本で購入できるようなインデックス型の投資信託が良いでしょう。株にしても投資信託にしてもどれを買えば良いかわからないという人が多いわけですが、正解は誰にもわかりません。であるなら、全世界の株式をその市場のウエートに従って購入していくやり方が一番簡単でしかも安定していると考えるべきでしょう。

誰でも数千万円の金融資産を持てる

① 働いて稼ぐ、② 稼いだお金を貯金する、③ 貯めたお金で積立投資をする。これを20~30年も続けていけば誰でも数千万円の金融資産を持つことは可能です。実際に全世界株式に投資をするインデックス投資を2003年7月から、毎月3万円ずつ20年間積み立てを続けた場合、積立総額は3万円×12カ月×20年=720万円ですが、今年の6月時点での総額は2523万円になっています(※)。もし今までのペースがここからさらに10年間続くとすれば、期間は30年になりますが、複利効果は期間が長いほど大きくなりますので、同じ毎月3万円の積立でも30年での総額は8000万円を大きく上回ります。3つのステップを地道に続けていくだけで資産はこれだけ増えていくのです。

【図表】月3万円の積立投資を20年続けた結果「720万円が2523万円に」
3年で13キロの減量に成功、体脂肪率10%近く減少

実はこれ、ダイエットもまったく同じで、① 自分の消費するカロリーを大体把握しておく、② それを上回らない範囲内でバランス良く食事を取る、そして③ それを続けていく、という3つのステップで痩せることは可能なのです。私もコロナ禍になって以降、自宅に居ることが多かったので、きちんとカロリー計算をしながら無理せずに食事のコントロールを続けた結果、3年で13kg体重が減りましたし、毎日の散歩を続けることで体脂肪率も10%近く減少しました。このようにお金を増やすのもダイエットも簡単なステップを続けることでそれほど難しいわけではないのです。

タイル張りの床に置かれた体重計とメジャー
※写真はイメージです
どちらにも必要な「時間」と「我慢」

こんなふうに言われてしまうと、何だか立つ瀬がないように思えますよね。そうなんです、本当はやっぱり難しいのです。その理由はこの3つのステップが実行できるには、そのための前提条件があるからです。その前提条件とは「時間がかかること」、そしてもうひとつは「強い意思を持つこと」です。

資産形成を短期で実現したいということになると、これは投機に走らざるを得ません。世の中にはFXや仮想通貨で一獲千金を実現したみたいな話が転がっていますが、それはたまたま運が良かっただけで、誰にとっても実行可能な再現性はほとんどありません。資産形成には時間がかかるのです。これはダイエットも同じで急激に体重を減らそうとすると健康を害してしまいかねません。やはりペースを考えながら無理せずに実行することが大事です。

欲望と恐怖に勝てるかどうか

そして強い意思を持つこと、これが最大の難関です。特に資産形成の場合、長期にわたって全世界株式の投資信託を積み立て続けることと言いましたが、実際には数年に一度は2~3割程度、大きく株価が下落することがあります。50年にわたって株式市場を見てきた私からすると、過去にそういうことは何度もありました。その都度驚いて怖くなって売却してしまうということを繰り返していると、決して資産形成に成功することはできません。一方、ダイエットも将来のスリムになった自分を想像するよりも、目の前の美味しそうなケーキの誘惑に負けてしまうことはいくらでもあるでしょう。

人間の行動を促す要因で一番大きいのは「欲望」と「恐怖」です。資産形成において市場が大きく下落する時には「恐怖」が頭をもたげます。暴落の時は誰もが不安な心理状況に陥り、結果として不安な気持ちに耐えることができず下がった時に売ってしまう、そして市場から去ってしまうという人を今まで何百人も見てきました。ダイエットの場合は美味しそうな食べ物や食欲という「欲望」に邪魔されます。私自身もそれは嫌というほど体験してきています。

“手軽さ”を求める結果…

ちなみにamazonで「お金」「増やし方」といったキーワードで書籍を検索すると600冊以上の本が出てきます。恐らくダイエット本も似たようなものでしょう。「ズボラでもお金は増やせます」とか「お腹いっぱい食べても楽に痩せられます」みたいな本はたくさん出ています。でもそのほとんどは恐らくあまり役に立たないものが多いのではないかと思います。

ズボラな人はいくらやってもダメでしょうし、お腹いっぱい食べたら体重が増えるのはあたりまえです。要するにやり方が問題なのではなく、「時間」と「我慢」が重要なのです。でもそれがなかなかできないから、手軽にできる方法はないか? といろいろな本に飛びつくことになるのでしょうが、世の中にそれほど甘い話はありません。

階段の中ほどに長期と短期の分かれ目が描かれている
※写真はイメージです
1億円貯めた普通の会社員に共通すること

「これが絶対」というノウハウが本当にあるとすればそれを書いた本だけが売れて、他の本は売れないはずです。ところが次から次へと「お金の増やし方」や「簡単なダイエット本」が出てくるのは結局、そんな魔法の方法はないからです。「時間」と「我慢」という大切なことが理解できていれば、方法はどんなやり方でもうまくいくと思います。

ダイエットについて私はまったくの素人ですが、資産形成に関しては専門家です。以前『となりの億り人』という本を書いた時に普通の会社員で1億円以上の資産をこしらえた人にたくさんインタビューしましたが、そのやり方は実にさまざまでした。投資信託の積み立てに限らず、米国株式や、不動産投資、中には貯金だけで1億円を達成した人もいます。やり方はさまざまなのですが、どなたにも共通するのは時間をかけたことと、どんな環境になってもそれを続ける強い意思を持ち続けたことです。

安易な本や記事にすぐ飛びつくのではなく、いま一度本質的なことをしっかりと考えてみたほうがいいのではないでしょうか。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。

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